孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オランダ  極右政党・自由党のウィルダース党首の反イスラム発言に無罪判決

2011-06-26 21:02:41 | 国際情勢

(過激な反イスラム発言で知られるオランダの自由党党首・ウィルダース氏 “flickr”より By 3FM http://www.flickr.com/photos/3fm/5489444943/in/photostream/

進む欧州の右傾化
欧州では財政危機に陥った国への支援に反対する勢力、増大する移民による社会不安を警戒し、移民排斥・反イスラムを訴える勢力が台頭し、国際協調より内向きな民族主義を重視する右傾化への懸念が強まっていることは、これまでもたびたび取り上げてきました。

具体的には、4月のフィンランド総選挙で反ユーロを掲げる民族主義的な右派「真正フィン人党」が大躍進したことで、EUに批判的な勢力が台頭する欧州政治潮流がより鮮明になっています。
また、フランス次期大統領選挙においては、マリーヌ・ルペン党首率いる極右政党、国民戦線の支持率好調が伝えられていることは周知のところです。

デンマークでは、「ムスリムがヨーロッパに侵入し、ヨーロッパ人の民族浄化を企んでいる」「文明人はヨーロッパ人だけ、他は全て野蛮人」といった極端な主張をしているピア・クラスゴー率いるデンマーク国民党が、07年11月の総選挙で過去最高の25議席を獲得。また、09年6月の欧州連合議会選挙では議席を倍増させるとともに、デンマークの政党の中で得票率を最も伸ばした政党になっています。

この09年6月の欧州連合議会選挙にあっては、オランダでは反移民の自由党が得票率16・9%で4議席を獲得。自由党は「オランダのイスラム化を止める」「トルコをEUに加盟させない」と主張、移民流入やEU拡大による社会変容に危機感を抱く国民の支持を取り付けました。
イギリスでも、移民排斥を訴える英国民党から2人が当選し、初の議席を獲得しました。
ハンガリー、ブルガリアでも欧州議会選挙初参加の極右政党が各3議席を獲得したほか、フィンランド、オーストリアでも欧州懐疑派が躍進しました。

オーストリアでは、5月の世論調査によると、「次の日曜日が投票日とすれば、どの政党に投票するか」という問いに対し、シュトラーヒェ党首が率いる野党の極右政党「自由党」が29ポイントを得てトップに立ち、連立政権の2大政党を初めて上回ったとのことです。自由党は、外国人排斥運動を主導し、厳格な移住者政策を主張しています。(ウィーン発 『コンフィデンシャル』http://blog.livedoor.jp/wien2006/archives/51832011.htmlより)

スイスでは09年11月、ミナレット(イスラム教寺院の塔)の建設を禁止するべきかどうかをめぐる国民投票が行われ、スイス政府の反対にもかかわらず、57.5%の賛成多数で禁止を可決、欧州社会に衝撃を与えました。この国民投票は、犯罪歴のある外国人の追放など排外主義政策などを主張する右派・国民党が主導したものでした。

【「イスラム教批判が合法だというのは良い知らせだ」】
上記のような欧州極右政党のなかでも、08年に反イスラム短編映画「フィトナ」を作成して物議を醸すなどの行動で知られるオランダの自由党党首・ウィルダース氏の反イスラム発言に関する裁判判決がありました。

****オランダ:「イスラム脅威」発言の党首に無罪…地裁判決****
オランダの少数与党連立政権に閣外協力している極右政党・自由党のウィルダース党首が、イスラム教の脅威を訴えた発言で扇動罪などに問われた裁判で、アムステルダム地裁は23日、無罪判決を言い渡した。
同党首は自身が製作した反イスラム映画の上映差し止めを要求された民事訴訟でも08年に勝利しており、オランダで移民排斥ムードがさらに高まることが懸念されている。

同党首は07年8月、地元紙との会見でモスク(イスラム教礼拝所)の増加を取り上げ、「モスクが教会より多くなる。われわれは自衛すべきだ」などと述べた。この発言のほか別のメディアでの発言も含めて09年に扇動罪で起訴された。

判決は、一連の発言を「政治的議論の一部で犯罪ではない」と述べた。
ウィルダース党首は「言論の自由の勝利だ」と述べた。同党首は一連の批判を「イスラム教に対してであり、イスラム教徒が対象ではない」と移民への差別の意図を否定している。ルッテ首相は23日、「良好な協力関係にあるウィルダース党首にとって素晴らしいニュースだ」と判決を歓迎する声明を出した。

同党首は、自身が作った08年の反イスラム短編映画「フィトナ」で、米同時多発テロとイスラム教の聖典コーランの一部を結びつけた。イスラム教徒らが上映差し止めを求める民事訴訟を起こしたが、08年にハーグ地裁が「言論の自由」を理由に訴えを退けていた。【6月24日 毎日】
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ウィルダース党首は、「イスラム教批判が合法だというのは良い知らせだ」、「(イスラム批判は)必要だ。私たちの社会のイスラム化は大きな問題で、自由に対する脅威となっている。そして私はこう発言することを許されている」と語っているそうです。

****イスラム差別発言は表現の自由か*****
差別に寛容な判決で、第3の勢力を率いる極右政党のイスラム差別や移民排斥に拍車がかかりかねない

イスラム教の聖典コーランを「ファシズム的」と呼び、アドルフ・ヒトラーの著作『我が闘争』になぞらえたことで、オランダの極右政党・自由党党首ヘールト・ウィルダースは、数限りない殺人予告を受けてきた。だがウィルダースにとってイスラム教を非難することは表現の自由であり、自分自身の権利の行使に過ぎない。そしてその訴えがついに認められた。オランダ・アムステルダム地裁が23日、彼の発言はイスラム教徒に対する憎悪を煽ってはいないという判決を下したのだ。

裁判長は、ウィルダースが製作した17分の短編映画『フィトナ』は「憎悪に満ちて」いて「ショッキング」ではあるが、表現の自由の範囲と認められると述べた。ウィルダースはこの映画でコーランが信者の憎しみを煽っているとして91年の米同時多発テロと結びつけている。

殺害予告のせいで、47歳のウィルダースは24時間体制の護衛生活を送っている。髪をブロンドに染めた彼は反移民政策を標榜する自由党を率い、今ではオランダ国会で3番目に大きな勢力を誇っている。ウィルダースは反イスラム・反移民に関してオランダで最も活発に発言する人物だ。

英BBCによれば、ウィルダースは彼の言うところの「イスラム教の脅威」への批判を今後も続けるらしい。「イスラム教批判が合法だというのは良い知らせだ」と、彼は言う。「(イスラム批判は)必要だ。私たちの社会のイスラム化は大きな問題で、自由に対する脅威となっている。そして私はこう発言することを許されている」

差別を煽っているのは事実上の副首相
ロイター通信は判決でウィルダースの政治的影響力が強まり、緊張が高まる可能性があると報じている。彼は移民の数の削減や、イスラム教徒が顔を覆うベールやブルカを禁じる案についてすでに政府の譲歩を勝ち取っている。
「彼の政治的見解は法律で認められ、彼の政治的な発言は合法化された」と、アムステルダムにあるフリー大学の政治学者アンドレ・クローウェルは言う。「彼の政治力は増した。与党にとっては国会運営に不可欠な勢力だ。政権に入らなくても、実質的には副首相のような存在だ」
マイノリティー団体は、この問題を国連人権委員会に持ち込もうとしている。オランダがマイノリティーを差別から守ることに失敗した、と主張する予定だ。【6月24日 Newsweek】
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表現の自由との兼ね合いは微妙な問題ですが、ウィルダース党首のような発言、あるいは、アメリカでのコーラン焼却騒動などによって、イスラム世界との共存がますます困難になることは確かです。それによって多くの血が流されるであろうことも。

欧州は今後、北アフリカのチュニジアやリビアからの難民・移民が更に増加することが予想されます。
ギリシャなどの財政危機も深刻化する懸念があります。
そうした流れは、恐らく国内の極右勢力の主張をより強めることになると思われます。

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