孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

EU  深刻な“東西分裂” さらに民族対立を抱えるバルカン諸国への拡大を目指す

2018-02-08 21:55:33 | 欧州情勢

【2月7日 朝日】

非民主的・権威主義的傾向を強める中東欧 背景にEUの発展から取り残されたとの怨念
EU内に、いわゆる西欧的価値観に基づいてEU統合深化を図ろうとする独仏を中心とした西欧と、西欧的価値観や統合深化に異論を唱えるポーランドやハンガリーなど中東欧との間で、深刻な溝があることは、これまでも再三取り上げているところです。(1月14日ブログ“EU 東西分断とポピュリズム台頭 両者が集約する難民対策で困難なかじ取り”など)

“中・東欧三国で同時期に非民主的で、権威主義的傾向のある政府ができたのも、〇七年の世界金融危機以降、東欧にひどいしわ寄せが起こり、多くの国民が「我慢の限界」と感じたからだ。”“東側の不満は、米国のトランプ支持層同様に、EUの発展から取り残されたとの怨念によるものだ”とも。

****東欧諸国に寄せる「ファシズム」の波****
EU分断する「新たな鉄のカーテン」
欧州連合(EU)の東半分が、「先祖返り」に突き進んでいる。

東西冷戦時代と同様に、「ミニ・プーチン」のような小型独裁者が出現したり、世論操作にたけたポピュリストが政権を握ったりと、おかしな指導者が次々と登場。EUの「自由と民主主義」の理念に、新たな鉄のカーテンがひかれたように、東はEUと逆方向を進む。(中略)
 
(ポーランドでは)「法と正義」が政権奪還した一五年以降、カチンスキ氏は政府職につかず、党執務室にこもりきりで院政を敷く。アンジェイ・ドゥダ大統領、マテウシュ・モラヴィエツキ首相とも、委員長には逆らえない。
 
同氏率いる「法と正義」は、源流が自主管理労働組合「連帯」で、共産党政権時代には「民主化」を求めた。だがカチンスキ兄弟は次第に右傾化し、政敵に不寛容になった。

過去二年間で、言論統制や政敵排除、政府が恣意的に司法介入できる制度の法制化と、非民主的措置を矢継ぎ早に導入。EU本部も「制裁に向けた手続き」に着手せざるを得なくなった。首都ワルシャワでは毎週のように、反政府・親政府両派のデモが行われる。

オリガルヒたちが国を支配
ポーランドのボスが党本部の奥深く閉じこもるなら、ハンガリーのビクトル・オルバン首相に会うには、首都ブダペストから西に四十キロほど車を走らせて、首相が幼少期を過ごしたフェルチュートという小村のサッカー・スタジアムに足を運ばなければならない。
 
村は人口二千人足らず。新築の「パンチョ・アリーナ」はその倍の四千人が収容でき、「宮殿か大聖堂に近い」と評される堂々たる建築物だ。

首相は近くに別荘を持ち、スタジアムには特別席、特別駐車場がある。首相側近や親友専用の席、駐車場もあり、週末は国の「宮廷」がスタジアム内に引っ越してくる。「今の体形からは想像しがたいが、若い時にはセミプロのサッカー選手だった」(ハンガリー人記者)という首相の道楽だ。
 
村のチーム「プスカシュ・アカデミアFC」は、オルバン首相が〇七年に創設し、今はハンガリーの一部リーグ。チーム名は「二十世紀の世界最高選手」との評判もある、ハンガリーの国民的英雄フェレンツ・プスカシュ選手に由来する。

ふつうの国なら「田舎チームが何とおこがましい」と批判されようが、ハンガリーではそんなことは起こらない。フェルチュートの村長、ロリンツ・メーサーロシュ氏は首相の幼馴染みである上に、国内の地方紙百九十紙以上を所有するメディア王だからだ。
 
ハンガリー人記者は、「この人物がどう資産を築いたかは誰も知らない」と言う。オルバン首相再任後、急速に富と政治的影響力を増した。地元チームの試合ではもちろん、首相の隣で応援をする。
 
中・東欧の小型独裁者の中で、オルバン氏が最もプーチン露大統領に似ているのは、首相側近が、長者番付の上位を占め、「オリガルヒ(新興財閥)」となっていることだ。長者番付の上位には、娘婿や幼馴染み、側近が臆面もなく並び、オルバン支配を支えている。
 
チェコの首相、アンドレイ・バビシュ氏は昨年首相に就任するまで、同国で最も悪名高いオリガルヒだった。

共産党体制でエリート外交官の家庭に生まれ、パリやジュネーブで暮らして、各国語に堪能。自らは特権的商社に入社し、共産党体制崩壊後、自身の会社を起こした。食品や化学製品の商社としてあっという間に二百社以上を傘下に置く財閥に発展し、「チェコ版オリガルヒ」の頭目になった。
 
一一年には、新党「ANO(そうだ!)二〇一一」を創設。チェコの市場経済化、EU加盟に不満を持っていた労働者層、中産層を引き付けて、ドナルド・トランプ米大統領が登場するはるか前から、チェコで同様の政治ブームを起こしていたのである。政治の素人がいきなり財務相になり、昨年の総選挙で第一党になって、ついに首相にまで上り詰めた。
 
この人物は、生涯が謎だらけだ。共産党体制で外国に駐在したことから、旧共産党のスパイ、さらに旧ソ連(ロシア)の諜報機関の工作員だったとの疑惑がたえない。(中略)

以前は旧共産圏の優等生扱いだった中・東欧三国で同時期に非民主的で、権威主義的傾向のある政府ができたのも、〇七年の世界金融危機以降、東欧にひどいしわ寄せが起こり、多くの国民が「我慢の限界」と感じたからだ。

EU本部との「関係改善は無理」
西側ではドイツが早々に危機を脱して、フランスと共に「さあ統合をもっと進めますよ」と言ってくるのだから、やりきれない。

昨年三月には、中・東欧のトリオにスロバキアが加わって、西欧に「もっと我々の声を聴いてほしい」と、同一歩調をとることを確認した。

その直後、独仏はイタリアとスペインを招いて、「中核グループ」結成を確認した。この後の東西対立は悪化の一途である。
 
ハンガリーは昨年、同国生まれのユダヤ系米国人富豪ジョージ・ソロス氏創設の「中央ヨーロッパ大学」の閉鎖を決め、さらに一線を越えた。教育研究機関の弾圧であるばかりか、ユダヤ系の狙い撃ちだ。EU本部には「関係改善は無理」との悲観論が漂う。
 
最近の中・東欧の動きは、同地域が一斉にファシズムに傾いた一九三〇年代を想起させる。ナチス・ドイツに代わって、今回の受益者はプーチンのロシアである。

少し南のルーマニアでは、過去六年で六人も首相が替わり、ほぼ全員が「汚職政治家」と見なされている。ブルガリアの大統領と首相はそれぞれ、旧体制時代に軍人、共産党要人のボディーガードだった人物で、民主主義とは程遠い。
 
東側の不満は、米国のトランプ支持層同様に、EUの発展から取り残されたとの怨念によるものだ。東西対立には階級闘争の側面もある。欧州再分裂の根は深い。【「選択」 2018年2月号】
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愛国主義的な歴史歪曲に進むポーランド
昨年12月20日、ポーランドの政権与党が進める司法改革が政府の司法介入を可能とし、EUが重視する「法の支配」に違反するとして、EUはEU基本条約に基づく、議決権停止を視野に入れた制裁に向けた手続きに着手すると発表していますが、ハンガリーがポーランドを擁護するなど加盟国内には慎重意見があり、議決権停止に至る可能性は低いとみられています。

そのポーランドが、国としてユダヤ人虐殺のホロコーストへの加担したと公に非難した者を罰する法律を制定して物議をかもしてします。

****ポーランドがホロコーストに加担」公言禁止法が成立****
ポーランドで、ナチス・ドイツによるユダヤ人の大量虐殺=ホロコーストに、ポーランドが国として加担したと公に非難することを違法とする法律が成立し、イスラエルやアメリカからは歴史の議論を妨げるおそれがあるとして懸念する声が出ています。

この法律はドゥダ大統領が6日、署名して成立したもので、ナチス・ドイツによるホロコーストにポーランドが国として加担したと公に非難した者に対し最高3年の禁錮や罰金を科します。

またナチス・ドイツがポーランドに造ったアウシュビッツなどの強制収容所についても「ポーランドの収容所」と呼ぶことも禁止するとしています。

大統領は「ポーランドの利益と尊厳、歴史の真実を守るものだ」だと意義を強調すると同時に、憲法裁判所に法律に問題がないか確認を求めるとしています。

これに対してアメリカやイスラエルからは懸念する声が出ていて、ティラーソン国務長官は6日、過去の戦争犯罪に関する自由な議論や研究活動を妨げるおそれがあると非難しました。

第2次世界大戦中、ポーランドはナチス・ドイツと旧ソビエトに侵攻され、ユダヤ人300万人を含む600万人が死亡するなど甚大な被害を受けました。

多くの国民がユダヤ人を守ろうとした一方で、一部のポーランド人がユダヤ人を虐殺したという調査もありますが、今回の法律は、保守系の与党「法と正義」が愛国心に訴える政策の一環として国民の支持を得る狙いがあるものと見られています。【2月7日 NHK】
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確かに「ポーランドの収容所」といった表現にポーランドが不満を感じるのはわかります。

しかし、ポーランドにアウシュビッツを建設したのはナチス・ドイツですが、ユダヤ人虐殺にはポーランド人も加担した歴史的事実があるとイスラエルは強く反発しています。

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ポーランドは1939年、ナチス・ドイツに侵攻、占領された。ホロコーストで殺害されたポーランド系ユダヤ人300万人を含め、市民数百万人が命を落とした。

ポーランド政府はかねてから、アウシュビッツ強制収容所などナチス・ドイツがポーランド領内に作った施設を「ポーランドの死のキャンプ」などと呼ぶのは、ポーランドにも責任があったかのような印象を与えると、強く反発してきた。

イスラエルのナフタリ・ベネット教育相は(中略)「多くのポーランド人がユダヤ人の殺害を支援したのは、歴史的事実だ。ユダヤ人を引き渡し、虐待した。ホロコーストの最中とその後で、自分たちでユダヤ人を殺したこともあった」と述べ、ポーランドの法案を「真実を無視する恥ずべきもの」と呼んだ。

ポーランド政府は、法案はホロコーストに関する研究や議論の自由を制限するのが目的ではなく、海外における国の名誉を守るためだと説明している。

法案を起草した法務省のパトリク・ヤキ副大臣は、イスラエルの反応がまさに「いかにこの法案が必要かという証明だ」と述べた。【2月1日 BBC】
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国家の加担を否定するだけでも歴史認識を歪曲している問題がありますが、公言することを禁じるというのでは、異論を封殺するファシズムとの批判もやむをえません。

ユダヤ人迫害はナチス・ドイツだけにたどまらず、欧州で広く存在した動きです。

フランスでも、ヴィシー政権下でユダヤ人虐殺に加担した事実をどのように認識するかが、ドゴール以来の歴代政権に問われてきました。(ドゴールは、「ヴィシー政権はフランスではない」として一切責任を認めようとしていませんでした。)

オランド前大統領は、ヴェロドローム・ディヴェール大量検挙事件(1942年7月16日~17日 4115人の子供を含む1万3152人のユダヤ人を一斉検挙した事件。ユダヤ人はその後「ポーランドの収容所」などへ送られ、終戦まで生き延びたのは大人100人ほどだけだったとされています。)に関し、「この事件に直接手を下したドイツ兵は一人もいない。事件はフランスでフランス人によって行われたというのが真実だ」といった主旨の発言を行い、フランスの責任を認め謝罪しています。(2012年7月23日ブログ“フランス ヴィシー政権下のユダヤ人迫害について、オランド大統領が謝罪”)

人も国家も、しばしば過ちを犯します。それはやむを得ないものもありますが、大事なことは自らの過ちから目をそらしたり、否定したりすることではなく、過ちと正面から向き合い、その責任を認め、再び同じような過ちを犯さないことを誓うことです。

歴史を歪曲する政治指導者だけでなく、「我が国は間違ったことはしていない」といった耳障りのよい言葉を歓迎するような国民一般にも問題があります。

中露の影響が拡大するバルカン諸国を取り込むEU しかし、深刻な問題も抱えるこれらの国々
上記のようなポーランド・ハンガリーなどとの“東西分裂”だけでも大変なEUですが、さらにバルカン半島旧ユーゴスラビア諸国などへの拡大を続ける方針のようで、実現すれば、さらに異質な国家を取り込み、EU一体化に苦労しそうです。

****西バルカン6カ国、EUが取り込みへ 加盟の後押し狙い新戦略 中ロの台頭を意識****
かつて「欧州の火薬庫」といわれ、1990年代には激しい紛争があった西バルカン諸国について、欧州連合(EU)の欧州委員会は6日、EU加盟に向けた新戦略を発表した。

この地域でロシアや中国の影響力が強まっており、EU加盟を強く後押しする狙いだ。だが、課題は多く残る。
 
新戦略の対象は西バルカンの6カ国。加盟に向けてすでにEUと交渉を始めているセルビア、モンテネグロについて、2025年を目安として加盟の条件を満たせるよう、国内の制度改革を後押ししていく。
 
残るマケドニア、コソボ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、アルバニアもEUが経済的支援などを強める。
 
EUにとって、西バルカン諸国の加盟は長年の懸案だった。旧ユーゴスラビアの崩壊が1991年に始まると、民族や宗教が異なる勢力間の争いに発展した。その後、平和と経済の安定を求め、各国がEUへ加盟を申請。スロベニアが2004年、クロアチアが13年に加盟を果たした。
 
だが、欧州の債務危機などの混乱があり、西バルカンへのEU拡大の機運はしぼんだ。加盟条件である民主主義や法の支配など、EUと共通の価値観を実現するための政治、社会的改革が各国で進まなかったこともブレーキになった。
 
流れを変えたのはロシアと中国だ。ロシアは近年、歴史的に関係が深いセルビアと軍事協力を強めている。
アジアや中東、欧州を結ぶ壮大な経済圏「一帯一路」構想を掲げる中国も、この地域で投資を活発化させる。

EUは「バルカン地域は大国の覇権争いの場になりやすくなっている」(モゲリーニ外交安全保障上級代表)とし、安全保障の観点からも、西バルカン諸国を取り込む考えだ。

 ■「欧州の火薬庫」、なおも影
対象の各国は、時間がかかってもEU加盟をめざすことを国の基本路線とし、法の支配の確立など改革に取り組んでいる。一方、過去の争いを引きずる外交課題の克服も必要だ。
 
その代表例が、セルビアとその自治州だったコソボの関係。

アルバニア系とセルビア系の民族・宗教対立から1999年に紛争が激化し、北大西洋条約機構(NATO)によるユーゴ空爆に発展。コソボは08年に独立を宣言したが、セルビアは認めていない。EUの仲介で関係正常化に向けた協議を続けるが、感情的対立を解くのは簡単ではない。
 
コソボは日本を含む100超の国から国家承認を受けているが、EU内でも、国内で地域の分離独立問題を抱えるスペインなどがまだ承認していない。
 
このほか、スロベニアとクロアチアがアドリア海の湾内の境界線をめぐって対立するなど、領有権の絡む問題も複数、残っている。【2月7日 朝日】
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ボスニア・ヘルツェゴビナも、セルビアとコソボの対立と同様の内戦以来の深刻な民族対立を国内に抱えており、国家としての一体化もままならない状況です。

マケドニアはギリシャと揉めていた懸案の国名問題で、最近歩み寄りの姿勢も見せてはいますが、両国ともに譲歩に反対する勢力も根強く、問題解決に至るかどうかは不透明です。

アルバニアは、世俗的ながら「ヨーロッパ唯一のイスラム国家」で、社会主義時代は“鎖国状態”にもあった国です。

EUとしては、もめ事を内部に持ち込ませたくないので、加盟にあたっては、関係諸国との関係改善を前提としていますが、なかなか難しそうな国ばかりです。

仮に実現しても、先述のように異質な側面も強い国々を取り込むことは、EU一体化にとって大きな負担ともなります。

もちろん、異質な国を“排除”せず、ひろく協調・協力体制を築き上げていく・・・・というのは、りっぱなことではありますが、単にロシア・中国の影響が強まる前に自陣に取り込もうといった話であれば、どうでしょうか?
今後は、今以上に異質さを前提にした共同体づくりが必要になってきます。
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