孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス・メイ首相の前倒し総選挙の賭け “圧勝”予想から一転して労働党の追い上げを許す展開

2017-05-28 22:44:30 | 欧州情勢

(【5月26日 木村正人氏 YAHOO!ニュース】
保守党支持は依然として4割超の水準にあって、このところの労働党の追い上げは、本来の労働党支持層が戻ってきたということで、今後も一本調子に労働党支持が伸びていくということでもないでしょうが・・・・)

4選への態勢を固めるメルケル首相、上げ潮のマクロン大統領
9月に総選挙を控えるドイツでは、社会民主党(SPD)が1月末、前欧州議会議長のシュルツ氏を総選挙の「首相候補」に決定、2月には、10年ぶりに支持率でメルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)を上回り、ドイツのみならずEUをけん引してきたメルケル首相も今回は・・・との雰囲気もありましたが、その後CDUは復調傾向にあります。

5月14日に行われた最大の人口を抱える西部ノルトラインウェストファーレン州の州議会選挙では、メルケル・CDUがライバルの州与党SPDを破っています。

独西部ノルトラインウェストファーレン州は「SPDの牙城」と言われてきた地域で、SPD党首シュルツ氏の地元でもあり、ここでのメルケル・CDU勝利は大きな価値があります。

これでCDUは今年あった三つの州議会選挙で3連勝し、総選挙の勝利とメルケル氏の首相4選に向けて大きく弾みをつけています。

支持率でも、CDUが39%とSPDを14%ポイント上回り【5月23日 ロイター】、メルケル首相は万全の態勢を固めつつあります。

フランスでは大統領選挙で「反ルペン票」に支えられてマクロン氏が圧勝はしましたが、議会内に既存の基盤を持たないマクロン大統領は6月の総選挙で支持勢力を確保できないと、今後非常に苦しい政権運営が予想されています。

最新世論調査では、そのマクロン大統領率いる新政党「共和国前進」が絶対過半数をうかがう勢いとなっているようです。【5月26日 ロイターより】

【“圧勝”予想だった前倒し総選挙 労働党の急速な追い上げを許す
勝利を固めつつあるドイツ・メルケル首相、上げ潮ムードのフランス・マクロン大統領に対し、当初は6月8日総選での圧勝確実とも見られていたイギリス・メイ首相は急速に情勢が厳しくなっています。

****英与党、リード縮小=野党追い上げ―総選挙調査****
28日付の英日曜紙サンデー・テレグラフは、6月8日投票の英総選挙に関する世論調査で、メイ首相率いる与党・保守党が最大野党・労働党の追い上げを受け、支持率のリードが6ポイント差に縮まったと報じた。5月上旬時点では15ポイント差をつけていた。
 
調査は英中部マンチェスターで22日起きた自爆テロ後の24〜25日に行われた。保守党の支持率は44%と、3〜4日に実施した調査から2ポイント低下。一方、労働党は38%と7ポイント伸ばした。【5月28日 時事】 
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メイ首相が総選挙の実施を発表した4月18日の後の世論調査では保守党が24%リードといった数字でしたので、“様変わり”とも言える状況です。

当初の“保守党の地滑り的大勝利”の予測から一転、いずれの政党も過半数に届かない、いわゆるハングパーラメント(宙づり議会)となる可能性も出てきました。

もともと総選挙は2020年5月に予定されていましたが、メイ首相はEU離脱交渉の日程をにらんで、保守党内にも多く存在する強硬派を抑え込み、離脱交渉に対する国民の支持を明確にするために早期解散にうって出た経緯があります。

****英首相、離脱交渉にらみ決断 総選挙6月8日投開票決定 党内造反に備え議席増狙う****
英下院は19日、メイ首相が表明した2020年予定の総選挙の前倒しを圧倒的多数の賛成で承認した。(中略)メイ氏の決断の背景には、欧州連合(EU)離脱に向けた交渉日程や与党内の反欧州派の存在がある。
 
「選挙を今行うことは英国の利益だ」。メイ氏は19日、下院での総選挙前倒しの採決を前に、そう訴えた。EUからの離脱をめぐる交渉で「英国の立場を強める最もよい方法だからだ」と説明した。
 
労働党のコービン党首は「選挙は、英国が進む方向を変える機会を国民に与える」と対決姿勢を打ち出した。採決では、賛成が522票、反対が13票だった。
 
メイ氏が総選挙の前倒しに踏み切った大きな理由は、EUとの離脱交渉日程との関係だ。
 
英政府は3月29日に離脱通知済み。今後2年間の交渉期間内にEUとの交渉をまとめたい意向だ。その主な手続きは(1)離脱協定交渉(2)移行措置交渉(3)英EU間の自由貿易協定(FTA)交渉を含む新協定交渉――となる。
 
英政府は三つの交渉を同時に進めたい意向だ。だが、EU側は今月29日、英国を除く27加盟国の首脳会合で、離脱協議とFTAの並行協議を行わないことなどを盛り込んだ離脱交渉の指針を採択する。

そうなると、英国の国益に直結するFTA交渉は後回しになり、交渉期限後の2019年春以降に本格化する可能性が高い。

総選挙を当初予定の20年5月に実施すれば、FTA交渉の重要局面と重なる可能性が高い。今回、前倒し実施することで次回総選挙は5年後の22年となり、選挙で争点となるまで「時間稼ぎ」ができる。
 
与党保守党内には、EUとの一切の妥協を拒む反欧州派の議員グループが40~50人程度いるといわれる。メイ氏にすれば、今回の選挙で下院の安定多数を得られれば、FTA交渉でEU側と妥協した場合に党内の反欧州派が造反しても、議会運営を乗り切れるとの計算も働く。(後略)【4月20日 朝日】
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世論調査の支持率などでみても、また、堅調な経済状況、労働党のコービン党首の指導力への疑問の声などもあって、“楽勝”が予想されたメイ首相の決断でしたが、裏目に出る可能性も高くなりました。

もちろん、当初から“圧勝の予測に反発してバランスを取ろうとする層が増えるとの見方もあり、思惑通りになるかは不透明だ。”【4月19日 毎日】といった指摘はありましたが。

過半数をわずかに上回る程度では、保守党内のEU強硬離脱派ら不満分子の動向に振り回されることにもなります。

想定上の反発を招いたメイ首相の“「勇敢」な政策”】
労働党の急速な追い上げを許している大きな原因として、保守党が発表したマニフェストの不評が挙げられています。

****メイの誤算****
・・・・世論調査で両党の差が大きかった主な原因は、労働党の党首コービンに首相となる能力がないと見る人が多かったのに対し、メイ首相の能力が高く評価されていたためだ。特にこの総選挙直後に始まるEUとの離脱交渉でメイに期待を寄せる人が多かった。

ところが、保守党のマニフェストに含まれた「勇敢」な政策が多くの有権者に保守党への支持をためらわせる効果を生んでいる。

保守党のマニフェストそのものは、権威ある中立のシンクタンク財政問題研究所(IFS)が前向きに評価した。しかし、保守党は、所得税や国民保険料のアップを否定していない。その中でも特に大きいのは、高齢者ケアの受給者負担を増加させ、年金生活者への現金補助を減らす政策である。

メイの前任首相キャメロンは、投票率の高い高齢者を厚遇し、しかも有権者の資産を家族に引き継がせたいという希望をかなえさせるため、相続税の大幅な緩和を実施した。(中略)

ところが、高齢者ケアの受給者負担の増加は、持ち家志向のあるイギリス人の相続に大きな影響を与えるものである。

特に、焦点が当たったのは、認知症で在宅ケアを受ける場合、ケアの支払いに新たにその住宅の価値を資産に入れる政策のため、支払いがかなり高額になる可能性があり、しかもそのケアの受給が長期になれば、最後に残った10万ポンド(1450万円)以外のすべてを失う可能性があるということである。

イングランドの住宅の平均価値は、23万ポンド(3300万円)だが、遺産の受益者の受け取る額はかなり少なくなる。そのため、これは「認知症税」と表現されている。

もちろん、高齢者が急増する中、そのケアのコストに対する対応は必要である。

メイが下院で大きなマジョリティを得ても、公選でない上院では少数派である。上院は総選挙のマニフェストで謳われた政策には反対しない慣例があり、これらの政策をマニフェストではっきりと明言しておけば上院での反対を防げるという効果がある。

ただし、メイは、2025年までに財政を均衡させるとし、高齢者ケアや年金生活者への補助カットなどからもかなりの金額を国庫に入れられると計算したようだ。

しかし、その結果、有権者の「家」に対する感情をいらだたせ、多くの有権者に大きな不安を与えているようだ。

労働党は、高齢者ケアと年金生活者のこれまでの権利を守る立場をとっている。そしてこれらの権利をこの選挙の中心の論点とし始めている。

労働党のコービン党首の能力に疑問を持つ有権者はまだかなり多い。しかし、どの党に投票するか迷っていた、これまでの労働党支持者に労働党に回帰する傾向が強まっている他、比較的若い世代に支持が広まっている。
サッカー場で開かれた音楽コンサートでスピーチした際には、ロックスター並みの歓迎を受けた。

有権者登録は、5月22日に終了するが、4月18日にメイが総選挙の実施を発表して以来、既に200万人以上新たに登録しており、あと2日でさらに大きく増加する見込みだ。コービンが労働党の党首選挙で勝利した雰囲気を思い出させる。

この状況に加え、メイの高齢者福祉に疑問を持つ有権者の支持がある程度労働党へ向かっているようだ。

一方、EU離脱交渉の行方への関心が比較的に弱まっている。メイの誤算が総選挙の構図を変えた。この総選挙の結果は初めから決まっているという見方が強かったが、これからの展開が注目される。【5月21日 菊川智文氏 「British Politics Today」】
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“圧勝”予想もあって、国民に不人気な“「勇敢」な政策”も打ち出したところ、想定以上の反発にあっている・・・といったところでしょうか。

メイ首相側も慌てて、軌道修正をはかっています。

****メイ氏リード縮小で焦り、不人気な選挙公約の軌道修正****
メイ英首相は22日、社会保障制度改革の一環として選挙公約に掲げている一部高齢者の負担増について、上限があると訴え、過度な負担はないと言明した。

過去3日に公表された6つの世論調査では、首相が率いる与党・保守党がなお勝利する見込みだが、最大野党・労働党に対するリードは軒並み2─9%ポイント縮小。首相は不人気な選挙公約の軌道修正を余儀なくされた格好だ。

メイ首相の改革案を巡っては、一部の高齢者が福祉費用を捻出するため、住宅売却を余儀なくされるとの懸念も浮上。メイ首相は労働党のコービン党首らが間違った情報を伝えて、高齢者の不安をあおっていると批判した。

その上で「誰も住宅売却を余儀なくされないようにする。負担には必ず上限を設ける」と主張した。

メイ首相は欧州連合(EU)離脱交渉を優位に進めるため、総選挙で与党の政権基盤を固める賭けに打って出た。だが前任のキャメロン政権時に行われた2015年の選挙を大きく上回る議席数を確保できなければ、賭けは失敗に終わる。

メイ首相は主張を変えたとの記者団の指摘に不満をあらわにし、「何も変わっていない」と声を上げた。(後略)【5月23日 ロイター】
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急進左派主張全開の労働党コービン党首
労働党・コービン党首は“中産階級にターゲットを絞ってきたブレア以降の「ニューレーバー(新しい労働党)」路線を全面否定し、資本家vs労働者の階級闘争を思い起こさせる富裕層攻撃を展開しています。”【下記木村正人氏記事】

また、“イギリス政府が関与する海外での戦争と国内でのテロの間には関連性がある”と指摘して、持論でもある反戦主義、非暴力主義の主張を展開しています。

****イギリス総選挙 カネ持ち攻撃で強硬左派ジェレミー・コービンは復活した****
25ポイント差が5ポイントまで縮まった

与党・保守党の地滑り的勝利と予想されてきたイギリスの総選挙が風雲急を告げてきました。最大野党・労働党の党首ジェレミー・コービンが富裕層攻撃に加え、緊縮財政の即時撤回と大胆な公共投資を柱とするマニフェスト(政権公約)を発表してから労働党の支持率は急上昇、最大25ポイント開いていた差はなんと一気に5ポイントまで縮まりました。

政界は本当に一寸先は闇です。

「マンチェスターで起きた自爆テロはどこで起きてもおかしくない」「わが国の外交政策はテロの脅威を減らすどころか、逆に増やしている」―― 死者22人、負傷者116人を出したマンチェスターの自爆テロについて、アフガニスタン、イラク戦争、リビアやシリアへの軍事介入に徹底して反対してきたコービンは演説で訴えました。

コービンの「反戦演説」は吉と出るのか、凶と出るのか。選挙結果は、欧州連合(EU)離脱交渉の行方を大きく左右するだけに目を離せなくなってきました。

マンチェスターの自爆テロで選挙活動は3日間自粛されましたが、26日から再開。反戦主義、非暴力主義者のコービンは演説でこう力を込めました。

「対テロ戦争は全く機能していないことを認める勇気を持たねばならない」「もし労働党が総選挙に勝利して政権につけば、国内外でテロ対策を変更する」
「わが国の情報機関や治安当局の関係者を含む多くの専門家はイギリス政府が関与する海外での戦争と国内でのテロの間には関連性があると指摘している」
「テロリズムの原因を深く理解することは、テロリズムを助長させるのではなく国民を守る効果的なテロ対策を進める上で欠かせない」(中略)

ブレグジット・ブームの富裕層を攻撃せよ!
リーダーシップに欠けるコービンに、メイは「EU離脱交渉の舵取りを任せられるのは私、それともコービン?」と総選挙の争点をブレグジット1点に絞って有権者に問いかけています。

これに対して、事実上の共産主義者コービンは、中産階級にターゲットを絞ってきたブレア以降の「ニューレーバー(新しい労働党)」路線を全面否定し、資本家vs労働者の階級闘争を思い起こさせる富裕層攻撃を展開しています。

毎年、イギリスの長者1000人を発表している高級日曜紙サンデー・タイムズによると、今年のトップ長者500人の個人や家族の資産を合わせると、2016年の長者1000人の合計資産より多くなったそうです。

コービンは「この1年間で、長者1000人は資産を14%(830億ポンド)増やし、合計では6580億ポンドに達した。NHS(国民医療サービス)予算の実に6倍だ」と批判の矛先を向けました。イギリスのEU離脱決定で、通貨ポンドが下落し、株式などの資産バブルが加速したのが原因です。

「公共セクターの労働者の給料が年に14%も上昇するだろうか。しかし保守党政権下で富裕層は減税され、金持ちはさらに金持ちになった。制度は金持ちに有利になるようにごまかされている」と、コービンは語気を強めています。

アメリカ大統領選の民主党指名候補選びで自称・民主社会主義者バーニー・サンダースが、フランス大統領選の第1回目投票で反骨の急進左派、左翼党共同党首ジャン=リュック・メランションが大旋風を巻き起こしたように、コービンもイギリスの総選挙で嵐を起こそうとしています。(後略)【5月26日 木村正人氏 YAHOO!ニュース】
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良し悪しは別にして、急進左派の面目躍如といったところです。
ポピュリズム的とも言えますが、EU離脱が国策となっている現在では何でもありでしょう。

労働党議員の「急進派コービンでは選挙に勝てない」との反対を、党員選挙で押し切る形で党首に就任したコービン氏ですが、アメリカ・サンダース氏やフランス・メランション氏を押し上げたのと同じ“風”に乗っているようです。

EU離脱については、国民投票時に労働党は「残留」支持で戦いましたが、コービン党首は残留に消極的(従来の言動から、本音ではEUに批判的とみられています)で、残留支持のための積極的行動を怠ったとして、離脱決定後は党内議員から“戦犯扱い”も受けました。

仮に、今回選挙で、今後の離脱交渉を大きく左右する影響力を獲得した場合、どういう対応をするのかが注目されます。

それにしても、アメリカ・サンダース氏やフランス・メランション氏、そしてイギリス・コービン氏に対するような急進左派への若者らの支持の動きが、日本ではなぜ起きないのか・・・は、一考の価値があるテーマでしょう。
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