孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン 全土での治安権限委譲  外交攻勢とテロで政権を揺さぶるタリバン

2013-06-18 23:09:27 | アフガン・パキスタン

(6月18日、アフガニスタン・カブールで発生した爆弾爆発の現場から去る同国の警察官ら 【6月18日 AFP】http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2951188/10926687)

【「今後はわれわれの勇敢な部隊が全ての治安維持任務を担う」】
本来であれば、今日18日は長年の戦禍に苦しんできたアフガニスタンにとって「歴史的瞬間」であるはずなのですが、アフガニスタン国内でも、アフガニスタンでの戦闘に疲れたアメリカでも、アフガニスタン情勢を伝えるメディアにおいても、どうもそういった雰囲気は見られません。カルザイ大統領は別にして。

14年末までのアメリカなど外国軍隊の撤退というタイムスケジュールのひとつにすぎないということもあるのですが、先行きに関する不安感から現状を手放しに喜べないというところもあります。

*****全土の治安指揮宣言=カルザイ大統領「歴史的瞬間」―アフガン****
アフガニスタンのカルザイ大統領は18日、アフガン治安部隊が全土で治安維持の指揮を執ると宣言した。米国主導の攻撃でタリバン政権が崩壊してから約12年、アフガン情勢は大きな節目を迎えた。

国際治安支援部隊(ISAF)は2011年以降、アフガン各地で順次、治安権限の移譲を進めてきた。今回、最後の約90地区を移譲することで、反政府勢力との戦闘任務から退き、アフガン治安部隊の訓練など後方支援に回る。

カルザイ大統領は権限移譲の式典で「今後はわれわれの勇敢な部隊が全ての治安維持任務を担う」と宣言。「これはわが国にとって歴史的な瞬間だ」と強調した。

ISAFの主体となる北大西洋条約機構(NATO)のラスムセン事務総長も「10年前は存在すらしなかったアフガン治安部隊も、隊員35万人の強固な組織に成長した」と称賛。必要が生じれば、国際部隊が戦闘任務を支援するとしつつも、「14年末のISAFの任務完了までには、アフガンの治安は完全にアフガン人によって守られることになる」と述べた。【6月18日 時事】
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01年9月のアメリカ同時多発テロへの報復戦争として同年10月に始まったアフガニスタン戦争ですが、アメリカの主導する国際治安支援部隊(ISAF)とタリバンとの泥沼の戦いを経て、2011年7月以降、駐留外国軍からアフガニスタン治安部隊への治安権限移譲がアフガン各地で順次行われ、既に人口の8割が暮らす約300地区で完了しています。

タリバンの勢力が強く治安が不安定な東部・南部を多く含む約90地区が残されていましたが、その90地区の治安維持権限も今回アフガニスタン側へ委譲され、今後はアフガニスタン治安部隊が戦闘作戦などの主導権を握り、全土で治安維持の責任を負うことになります。

“現在約10万人いる駐留外国軍(うち米軍約6万6000人)は今後、アフガン軍の訓練など後方支援に回り、14年の任務完了へ向け順次撤収する。”【6月18日 毎日】というスケジュールになっています。

今回の権限移譲はNATOの定めたスケジュールに沿ったものですが、“カルザイ大統領がこの日程を維持したのは、来年、任期満了で退任する前に国の復興をアピールするためとみられる。また「外国軍が駐留する限り攻撃を続ける」と主張してきたタリバンに対し、アフガン政府側との和解や、大統領選への参加など政治参加を促す狙いもあるようだ。”【同上】とも見られています。

アメリカなどは早くアフガニスタンの泥沼から手を引きたい・・・というのが本音でしょうが、後をまかされたアフガニスタン治安部隊に治安維持の能力が本当にあるのか・・・という疑問は大方が抱くところです。
「歴史的瞬間」の記念式典当日にもタリバンによる爆弾テロが起きています。

****アフガニスタン部隊に全治安権限移譲、NATO軍から****
・・・・アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領は、首都カブール郊外の陸軍士官学校で演説し、警察と軍は反政府勢力と戦う用意が出来ていると語った。ただ同日もカブールでは爆弾が爆発する事件が起きており、同国の不安定な現状を浮き彫りにした形となった。

治安権限移譲の記念式典直前に発生した爆発は、議会へと向かう有力議員の車列を標的にしたもので、巻き込まれた民間人3人が死亡している。

「われわれの治安・防衛部隊が指揮を執る」と、カルザイ大統領は式典でアフガニスタンと北大西洋条約機構(NATO)の幹部らを前に語った。式典の場所と日時は、武装組織の襲撃の懸念から非公開とされていた。
「今後、治安上の全ての責任と指揮は我々の勇敢な部隊が執る。アフガニスタン人に治安権限が移譲されたことを国民が知れば、軍と警察は今まで以上に支持されるだろう」

アフガニスタンの治安部隊にタリバンを押さえ込む力があるかどうかは不明だが、今後もNATO軍が後方支援や航空支援、さらには戦闘における緊急事態では重要な役割を果たすことになる。

だが、NATOのアナス・フォー・ラスムセン事務総長は、18日に治安権限を移譲したことで、アフガニスタンの治安部隊は2011年3月に始まった5段階の移行プロセスを完了させることになると述べた。【6月18日 AFP】
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“隊員35万人の強固な組織”とは言うものの、急ごしらえでしで、隊員の資質にも懸念があり、しかもタリバン側と通じている者も多く混入しているとも見られ、一般的には信頼度が低いアフガニスタン治安部隊ですが、アメリカなどからの装備支援と訓練によって、タリバンを凌駕する戦闘力を備えるまでに成長しているといった指摘もあります。

「何をするかわからない」と、政府軍が国民から恐れられる事例は紛争国には多々ありますが、恐れられるのではなく、固い規律と強い意思を持って国民から信頼される存在になれるかどうかが、今後の分かれ道でしょう。
汚職・腐敗が横行しているといわれるカルザイ政権にあって、急ごしらえの治安部隊にそれを期待するのは難しい話ではありますが。

テロによって、弱体化したカルザイ政権を揺さぶる狙い
一方のタリバンも長い戦闘で疲弊し、最高指導者オマル師の生存は相変わらず不明な状況で、組織的にかなり弱体化・混乱しているという指摘もあります。軍事的な攻勢をかける力はなさそうです。
今後は、外国部隊撤退を睨んで、外交攻勢をかけながら、その一方でテロによって弱体化したカルザイ政権を揺さぶる戦略をとると見られています。

****タリバーン、攻勢に拍車 外交とテロ駆使 アフガン空港砲撃****
アフガニスタンの首都カブールで10日、タリバーンを名乗る武装集団が国際空港近くの建物に立てこもり、空港にロケット弾を撃ち込んだ。

アフガン大統領選や米軍撤退をにらんで、タリバーンは外交攻勢をかけているが、その一方でテロによって、弱体化したカルザイ政権を揺さぶる狙いがあるとみられている。

現場は、米軍主導の国際治安支援部隊(ISAF)の空軍司令部などがある軍民両用のカブール空港の敷地から、道路1本を隔てた4~5階建ての建設中の民家2軒。警察当局によると、早朝、車で乗り付けた武装集団は、上層階にロケット弾や機関銃、手投げ弾などを大量に運び込み、約300メートル離れた空港内の軍用倉庫群に攻撃を始めた。

その後、建物を取り囲んだ治安部隊と銃撃戦となり、2人が自爆し、残る5人全員が約5時間後に射殺された。タリバーンが犯行声明を出した。カブール空港は早朝から閉鎖され、正午前まで全便の発着を見合わせた。

タリバーンは今年、カブール市内だけでも、国際移住機関(IOM)や、国防省、情報機関、交通警察などを標的とした攻撃を繰り返してきた。
自爆要員を含む数人の決死隊が、治安部隊に全員殺害されるまで数時間にわたり戦闘を繰り広げるケースが目立つ。国防省報道官は「重要施設の周りの建物から攻撃を仕掛ける手法が増えており、事前に抑え込むのは非常に困難だ」と認める。

アフガンでは来年、4月の大統領選に加え、年末には米軍戦闘部隊の完全撤退が予定されている。政治情勢が激変するのを前に、タリバーンは最近、日本やフランス、イランで開かれた国際会合に代表団を派遣し、和平への意思をアピールするなど、外交面での動きを活発化させていた。

カルザイ大統領は9日から、タリバーンの外交拠点となっている中東カタールを訪問中で、直接交渉の糸口をつかむため、仲介役のカタール政府当局者との協議が予定されていた。

元外交官で政治アナリストのアフマド・サイディ氏は「タリバーンは国際的にソフトイメージを振りまきつつ、国内ではテロを激化させ、カルザイ政権の無力さと、自らの存在感を示そうとしている」と指摘する。【6月11日 朝日】
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アフガニスタン当局及び外国軍当局は、犯人グループがアフガニスタン治安部隊によって制圧されたことを、治安部隊が最近役割を果たしつつあることの証明であるとしていますが、そもそも首都重要拠点が攻撃にさらされることに治安上の問題があるとも見られています。

不透明な外交交渉の道筋
外交交渉に関しては、下記のような報道もあります。

****ドーハに事務所開設か アフガン反政府勢力****
アフガニスタンで反政府武装勢力タリバンとの和平交渉を主導するカルザイ政権の「高等和平評議会」の報道官は17日、タリバンが対外的な窓口となる事務所をカタールの首都ドーハに近く公式に開設する可能性があると述べた。アフガン・イスラム通信が報じた。

情報源は明らかにしていない。アフガンに駐留する国際治安支援部隊(ISAF)の戦闘部隊は来年末までに撤退するが、タリバンは戦闘を続けており、和平交渉が焦点となっている。

同報道官は、タリバンの事務所が政権とタリバンとの交渉だけに使用されると強調した。【6月17日 共同】
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ドーハにタリバンの事務所を設置する案は昨年、アメリカとタリバンとの接触で浮上したものです。そのときは、タリバンがアメリカ側への不信を深めて接触を断ち、立ち消えになりました。
カルザイ大統領には、アフガニスタン政府主導でドーハ事務所設置計画を復活させる狙いがあると思われ、3月末にもカタールを訪問しています。

しかし、タリバンはカルザイ政権を認めていません。
“タリバンのムジャヒド報道官は、AFP通信に対し、「タリバン事務所開設は、タリバンとカタール政府間の協議事項でカルザイ(大統領)とは関係ない。カタールにいる我々の代表は(カルザイ氏側とは)会いもしないし話もしない」と発言。タリバンとアフガン政府が和平交渉に入るのは難しい情勢だ。”【4月1日 毎日】

ただ、来年4月には大統領選挙が行われ、カルザイ大統領は退陣します。
そのあたりで、タリバン側もアフガニスタン政権との交渉に入る余地も出てくるのではないでしょうか。
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