孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカで拡大するシェールガス革命 日本への影響 国際関係・温暖化対策・原発政策にも影響

2012-11-15 23:08:45 | アメリカ

(カナダのシェールガス採掘現場 “flickr”より By Nexen Inc. http://www.flickr.com/photos/nexeninc/5740674035/

日本のLNGは15ドルほど アメリカのガスは3~4ドル
日本では東日本大震災後による原発停止で、火力発電所の燃料として液化天然ガス(LNG)の輸入が急増していること、しかし、その輸入LNGの価格がかなり高く、日本全体としてかなりの負担を強いられている(需給がひっ迫するなかで、日本は高値のLNGをつかまされている・・・)ことはよく耳にする話です。

経済産業省は、その液化天然ガス(LNG)の先物取引市場を2014年度にも創設することを発表しています。

****LNGの先物市場創設へ 14年度、世界初****
経済産業省は13日、液化天然ガス(LNG)の先物取引市場を2014年度にも創設すると発表した。資源会社や商社、金融業者ら関係者を集めた協議会の初会合を14日にも開き、東京工業品取引所での市場開設をめざす。LNGに特化した先物市場は世界初。

どのような価格指標を使うかや、LNGの受け渡しをどうするかなどを検討し、来年3月をめどに報告書をまとめる。LNGの先物市場は、枝野幸男経済産業相が9月、LNGの安定供給を話し合う国際会議で創設を表明していた。

日本はLNGの最大の輸入国。東日本大震災後に原発が停止したため、火力発電所の燃料として輸入が急増した。経済成長が続く東アジアでも、需要が大幅に増える見込みだ。

だが、アジアでのLNGの取引価格は高止まりが続き、北米との価格差が広がっている。原油に連動して価格が決まっているためだ。経産省はLNG市場を新設することで取引慣行を改め、価格を引き下げることを目標に掲げている。日本に次いでLNGの輸入量が多い韓国などにも将来、参加を呼びかける方針だ。 【11月14日 朝日】
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こうした方面の知識が全くない門外漢にとっては、今まで市場がなかったというのが不思議な感もありますが、そもそも世界の天然ガスの9割は陸続きのパイプラインで売買されており、液化してLNGになるのは1割にすぎないということで、LNGは商品的にはやや特殊な存在のようです。

しかも、2010年時点で全世界のLNG輸入の約3分の1(32%)を日本が占めています。最近の日本の輸入増加を考えると、今は日本の比率はもっと高くなっていると思われます。(2位は韓国で15%)
こうした事情もあっての日本・経済産業省は音頭をとっての先物市場づくりということのようです。

一方で、アメリカではシェールガスの大増産により、ガス価格が大幅に下がっているとも聞きます。
そうしたアメリカにおける価格下落と日本が輸入するLNGの高値の関係については、下記記事が説明しています。

****天然ガス価格、なぜ日米で違う? 日本は過去最高水準に****
日本が4~9月に輸入した液化天然ガス(LNG)の価格は前年より15%上がり、過去最高だった。ところが、米国では下がっている。同じ天然ガスなのに、日米で価格が違うのはなぜ?

財務省の貿易統計によると、4~9月に日本が輸入したLNGの額は3兆円。前年同期より24%増えた。原発が動かないので、輸入量が約4230万トンと9%増えたうえ、価格が上がったことが響いた。
ガスは種類によって熱量が違う。このため、価格を比べるときは「100万BTU(英国熱量単位)」という単位で比べる。1単位当たりでみると、日本のLNGは15ドルほど。ところが、米国のガスは3~4ドルだ。ガスを液化して船で運ぶ費用6ドルを加えても10ドルほどで、日本より安い。

価格がこんなに違うのは、天然ガスは気体での取引が多く、LNGと市場が分かれているためだ。世界の天然ガスの9割は陸続きのパイプラインで売買されている。一方で、液化してLNGになるのは1割だ。

米国では、シェールガスといわれる新しい天然ガスの生産が増え、価格が下がっている。「アジアで高いガス価格が米国では落ちている。シェールガスの革命は止まらない」。英石油大手BP社のクリストフ・ルール氏は10月に東京都内であった講演会でこう話した。

LNGの価格の決め方も影響している。LNGは、原油のような国際相場がないため、原油を指標にした長期契約で買うのが一般的。原油とともに上がり、ガス生産の増えた米国との価格差が開いた。
「価格は数年おきに産ガス国と交渉して決める。資源価格が高いと、産ガス国も強気に出る」と大手商社幹部は話す。LNGは原油価格に一定比率をかけて計算する。交渉した時期や国によって比率が違い、同じLNGでも価格は輸入先によって違う。

価格が下がらないのは、燃料費の調整制度で、ガスを最も多く買う電力会社が消費者に簡単に価格転嫁できるという事情もある。国際エネルギー機関(IEA)の田中伸男・前事務局長は「電力会社は地域独占で、安く調達するインセンティブ(動機付け)がなかった」と改革の必要性を指摘する。

価格を引き下げるため、政府が期待するのが米国からの輸入。ただ、実現は早くて2016年ごろで、「米国の安値はいつまでも続かず、輸入量は限られる」(大手商社)との見方もある。

米国では、ガス価格の下落で火力発電の費用が下がり、原発が割高になっている。米エクセロン社は8月、計画中の原発新設をやめた。米ドミニオン社は10月、2033年まで運転が認められている稼働中のキウォーニー原発を「経済性を失った」として廃炉を決めた。 【11月14日 朝日】
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アメリカ産ガスの輸入は?】
当然の話として、日本は安価なアメリカ産天然ガスの輸入を望んでいますが、アメリカは安価な天然ガスの輸出については、自国利益を考慮して慎重な姿勢をとっています。

****アメリカは天然ガス輸出を認めるべきか*****
(日本の電力会社は相対的に安いアメリカの天然ガスを輸入しようと試みているが、米企業が天然ガスを含む特定資源を輸出するには、米エネルギー省がそうした資源輸出が「アメリカの国益に合致するかどうか」の判断を先ず示す必要がある)。

これをきっかけに、アメリカの天然ガス資源の輸出を認めるべきか、いなかをめぐって論争が起きている。
私は数週間前に(ニューヨークタイムズ紙で)天然ガスの輸出を認めることを提言し、その根拠を示した。
(中国のレアアース輸出制限に反対しておきながら、自国の資源の輸出制限をするのではつじつまが合わないし、自由貿易協定を結んでいるカナダやメキシコを裏切ることになる。さらに輸出をみとめれば、日本との貿易交渉で日本企業が望む天然ガス輸出を交渉ツールとして用いることもできる)。

だが、輸出を禁止し、米国内で天然ガスを消費するべきだと考える人もいる。例えば、T・ブーン・ピケンズは「クリーンで安価で豊かに存在する国内の天然資源を輸出し、汚染度が高く、より高価なOPECの石油を輸入し続けるとすれば、われわれはもっとも愚かな世代として記憶されることになる」と指摘している。(後略)【フォーリン・アフェアーズ リポート 2012年9月】
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アメリカ国内でも、日本へのガス輸出を求める動きが出ています。

****天然ガス輸出承認を=政府に要請、日本に追い風―米議員団****
米下院の超党派議員団は6月29日、米エネルギー省のチュー長官に書簡を送り、液化天然ガス(LNG)の輸出承認手続きを加速するよう要請した。

シェールガスと呼ばれる頁岩(けつがん)層に埋蔵された天然ガスの産地を選挙区に持つ議員が中心で、原発停止を受け代替エネルギーとして米政府に天然ガスの輸出承認を働き掛けている日本にとって追い風となる。

天然ガスの輸出をめぐっては、これまで米議会では輸出拡大による国内価格の上昇などを懸念し、慎重な対応を求める声が目立っていたが、今回の書簡送付は輸出賛成派による初めての表立った行動と言えそうだ。【6月30日 時事】
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“輸出承認手続きを加速”ということで、アメリカ産天然ガス輸入が現在全く認められていない訳ではないようです。

****米国産シェールガス輸入へ 大阪ガスと中部電****
大阪ガスと中部電力は、米国産シェールガス(岩盤層にある天然ガス)を輸入する契約を米国企業と結んだ、と31日発表した。2017年からそれぞれ最大年220万トンを輸入する。

大阪ガスが出資している米国の液化天然ガス(LNG)会社「フリーポート」の子会社と契約した。今回の契約で確保したガスの価格は原油価格に連動せず、東南アジアや中東から輸入しているLNGと比べ3~4割安いという。
大阪ガスは「多様な調達先を持つことで購入時の価格交渉もしやすくなり、ガス料金の値下げや供給の安定化につながる」としている。【7月31日 朝日】
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今後の動向は、【フォーリン・アフェアーズ リポート】にあるようなアメリカのエネルギー政策、【6月30日 時事】にあるようなアメリカ国内のガス産出地の議員団などの働きかけのほかに、現在の最大の輸出国カタールなどのガス産出を担っているエネルギー関連巨大企業・石油メジャーが、安価なアメリカ産ガス輸出による価格下落を座視するか・・・という側面もあります。

これまで天然ガス取引で利益を挙げてきたシェル、BPなどの石油メジャーは、アメリカ以外でのシェールガス産出に一定の投資はしていますが、その生産を加速させる動きはなく、むしろ生産を抑制することで現在の高値水準を維持しようという思惑が見られるとも言われています。【選択 11月号より】
当然にアメリカ政界への働きかけも行っているでしょう。

ただ、アメリカのシェールガス増産・価格下落でアメリカ国内の発電用石炭が天然ガスに変わり、余った石炭が安値で欧州に輸出され、欧州ではロシアからの高い天然ガス輸入を減らし、ロシアは欧州に変わる天然ガスの販路として日本にアプローチする・・・というように経済は互いに連動しながらダイナミックに変動していきます。
政治力もある巨大企業石油メジャーと言えども、一時的ならともかく、長期にわたってそうした流れを止める力があるか・・・個人的には疑問です。止めようとすれば、必ずその網をくぐりぬけて利益を得ようとするものが出てくるものです。

アメリカ:中東依存を脱却し、「エネルギーの自給」へ
アメリカのエネルギー資源事情は、シェールガスの登場で様変わりしているようです。
シェールガスに加え、油分を含む頁岩「オイルシェール」から得られるシェールオイル産出の技術により、大幅な増産が進み、2020年ごろまでにはサウジアラビアを抜いて世界最大の産油国になるだろうと推測されています。

****シェールオイル、米国変える 20年後には「脱中東***** 
世界最大の石油消費国である米国が、その輸入で「脱中東」を果たす見通しになった。国際エネルギー機関(IEA、本部パリ)が明らかにした。岩盤層からしみ出す米国産「シェールオイル」の増産が続き、2030年代前半には南北アメリカ内で全量調達できるという。

■米州内で自給 実現へ
(中略)
米国の石油(天然ガスが由来の液体燃料などを含む)消費は11年、日量1880万バレルだった。840万バレルは輸入でまかない、うち2割以上を占める184万バレルをサウジアラビアなど中東諸国に依存していた。

(IEAの首席エコノミスト)ビロル氏によると、減少傾向をたどり始めた米国の輸入は20年に600万バレル程度になり、35年までには400万バレル未満となるという。

支えは、国産のシェールオイル。現在の日量90万バレルが20年には200万バレルを超え、中東からの輸入分を上回る規模になるとみる。シェールオイルは、国際市場で決まる原油価格が1バレル=50~60ドル以上なら採算があうとされる。IEAは油価が80~100ドルの高止まりが続くと推定しており、開発ペースは衰えそうにない。乗用車やトラックの燃費規制の強化による需要の抑制も輸入減につながる。

残る輸入はカナダやメキシコ、ブラジルなど米州からが大半を占める。カナダでは、シェールオイルのほか、粘度の高い砂岩から石油を取り出す「オイルサンド」の開発も進む。ブラジルでは数千メートルの海底から掘り出す「超深海油田」も見つかった。ビロル氏は「30年代前半には中東依存がほとんどない状態になる」と分析した。

米国は1973年の石油危機以来、経済活動や暮らしに欠かせない石油の中東依存を脱却する「エネルギーの自給」が大きな課題だった。近隣の友好国で政情も安定した米州での「自給」が現実味を帯び、石油不足の心配が小さくなることで、「ガソリンがぶ飲み」の消費国から他国の支え手に回る余力が生まれ、新たな資源外交を探りはじめた。ビロル氏は「エネルギーをめぐる安全保障の国際地図が書き換わるかもしれない」と指摘した。【8月12日 朝日】
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アメリカがエネルギーの実質的自給を確立し、「脱中東」を実現すれば、当然にアメリカの中東戦略も変わってくるでしょう。

温暖化防止、環境汚染、原発政策への影響
そうした「エネルギーをめぐる安全保障の国際地図が書き換わる」という話の一方で、温暖化防止対策として進み始めた「脱化石燃料」の動きが「ガソリンがぶ飲み」状態に戻ってしまう懸念も感じます。
4年前に「化石燃料依存を終わらせる」と訴えていたオバマ大統領も、前回選挙では「あらゆるエネルギー源の開発を進める」という立場に転じています。

短期的には、「シェールガス革命」は温暖化防止にも効果があるとされています。
アメリカは今でも発電の4割を石炭に頼っています。シェールガス増産によって、石炭に比べ発電量あたりの温室効果ガスの排出が約半分で済む天然ガスに切り替えるだけでも大幅な温室効果ガス削減が可能となります。
ただ、長期的には再生可能エネルギー開発の勢いを削ぐ可能性も考えられます。

なお、2011年5月、コーネル大学のHowarth教授は、シェールガスは燃焼時の二酸化炭素だけでなく、採掘時のメタン漏洩も含めると、トータルで石炭に匹敵または超える温室効果があるとする論文を発表し、注目を集めました。これには反論もあります。

また、“シェールガスの採掘に使われる水圧破砕(ハイドロフラクチャリング)という技術は、化学物質を添加された大量の水を地下に圧入することで、ガスが存在する地層にヒビを入れてガスを取れやすくします。その際に使用した水の一部は、地上に戻り一時的に作られたため池に入れられ、処理をして再利用されるか、地下や川などに捨てられます。これらのプロセスにおいて、水質汚染・水不足・地震のリスクが発生します”【4月23日 日経ビジネス】
実際、中国では水不足の問題、欧州では環境汚染の問題からシェールガス開発は進んでいません

また、「シェールガス革命」は原子力発電の動向にも影響します。
福島第1原発事故後、原発の安全性に関する関心が世界的に高まっているのは事実ですが、実際にアメリカで原発計画取り止めに追い込んだ要因は、そうした安全性の問題ではなく、天然ガス価格下落によって原発が発電コスト競争力を失ったという単純明快な話のようです。
アメリカのエネルギー情報局(EIA)が昨年4月発表した数字では、天然ガス火力発電5.2円に対し、原発9.1円となっています。

日本では、エネルギー環境会議が11年12月に発電コスト試算を発表しています。それによれば、天然ガス火力発電10.7円に対し、原発8.9円となっています。
しかし、この数字は現在の高価な天然ガス輸入を前提にしており、今後安価なアメリカ産ガスが輸入可能になれば話は変わってきます。また、原発について十分な安全対策コスト・廃炉コスト・損害賠償コストが反映されているのかという問題もあります。【選択 11月号より】
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