孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  「米外交官」による射殺事件で高まる対米批判 不安定社会で進む核開発

2011-02-14 21:04:03 | 国際情勢

(パキスタン警察によって逮捕された「謎の外交官」デービス容疑者  “flickr”より By South Asian Foreign Relations http://www.flickr.com/photos/menik/5432156819/

正当防衛か意図的殺人か?素性は?】
アメリカにとってアフガニスタンでの戦いを行っていく上で、もっとも重要な同盟国がパキスタンですが、そのパキスタンの軍情報機関がアフガニスタンのタリバンを支援しているとか、タリバンにとっての人員・武器の補給地となっているアフガニスタン北西部のイスラム過激派掃討作戦にパキスタン側が消極的だとか、非常に危うい同盟関係であることは周知のところです。

特に、パキスタン国内で根強い反米感情がパキスタン政府の対米協力を大きく制約している面がありますが、1月下旬にラホールで起きた“米外交官が2人組の強盗を撃退しようとして射殺した事件”が、パキスタン国内の反米感情を刺激して、問題が拡大しています。

****パキスタン人2人射殺の「米外交官」、米国の釈放要求を警察が拒否*****
パキスタンで米外交職員とされる男性がパキスタン人2人を射殺したとして逮捕され、米政府が外交特権を理由に即時釈放を求めている問題で、パキスタン警察は11日、殺人容疑があるとして釈放を拒否した。ラホールの裁判所も、この米国人の勾留延長を認めた。

レイモンド・デービス容疑者は前月27日、ラホールでパキスタン人男性2人を射殺。直後、ラホールの米総領事館はデービス氏を救出するため現場に車を派遣したが、この車がさらに別のパキスタン人男性1人をはねて死なせた。
逮捕されたデービス容疑者は、警察の調べに対し、射殺した2人が強盗だったとして正当防衛を主張している。
米国は即時釈放を求めており、米議員らはパキスタンへの支援75億ドル(約6300億円)と軍事支援20億ドル(約1700億円)を凍結すると主張。米政府も、閣僚級対話が脅かされるだろうと警告している。

一方、反米感情の強いパキスタン国民の間では、デービス容疑者を裁判にかけるべきだとの主張が高まっており、支持率の低迷するパキスタン政府は圧力にさらされている。11日にはデービス容疑者の絞首刑を求めて500人規模の抗議デモがあった。

■「正当防衛ではない」とパキスタン警察
ラホール市警は11日、「レイモンド・デービス氏が殺人を犯したことは証明されている」と発表。動機については触れなかったが、「冷酷な殺人だ。目撃者の証言によると、相手に直接発砲し、1人が逃げ出したあとも発砲を続けた。故殺だ」と説明した。
また、死亡したパキスタン人2人の所持する銃の引き金からは指紋が検出されず、銃弾もマガジンに収まったままで装てんされていなかったことが確認されたと指摘。「(2人に)生存の可能性を与えなかったため、われわれは正当防衛ではないと考える。正当防衛ではない証拠がある」と述べた。
この発表を受け、カーメラ・コンロイ米総領事は改めて、デービス容疑者の即時釈放を要求した。

■カギとなる肩書きの謎
パキスタン警察はデービス容疑者が外交官査証を所持することを確認したが、デービス容疑者の素性をめぐっては激論が巻き起こっている。
米大使館は、事件翌日の1月28日にはデービス氏の身元を「ラホールの米総領事館職員」と発表したが、翌29日には「イスラマバードの米大使館に配属された外交官」と変更した。国際法上、大使館の外交官は全面的な外交特権を有しているが、総領事館職員は重大犯罪に関与した場合には地元当局が拘束することができる。【2月12日 AFP】
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「外交官」デービス容疑者は、1月27日、東部ラホール市内で車を運転中、オートバイで近づいてきた2人組を射殺したとされていますが、“地元メディアによると、容疑者は車内から窓ガラス越しに銃を連射、2人の背中や胸などに数発ずつ命中させた。2人の銃は発射の形跡がなく、反撃の間もなく射殺されたとみられる。その後、容疑者は携帯電話で2人の写真を撮り、車で逃走したが近くで拘束された。”【2月8日 朝日】とのことで、射撃の腕前が極めて高いことから特殊任務につくスパイではないかとの臆測が出ています。

“米民間警備会社の社員との米メディア報道があるほか、米中央情報局(CIA)の要員ではないかとの指摘も出ている。”【同上】とも報じられており、その素生は明らかでない部分があります。

また、“病院医師の話では2人組は背後から何発も撃たれていた。”【2月3日 時事】とのことで、「正当防衛」という主張にも疑問が投げかけられています。

パキスタン側は、高まる反米世論もあって、拘束延長を決めていますが、アメリカ側も圧力を強めています。
****2人射殺した米国人を審理へ パキスタン、拘置決める****
パキスタン東部ラホールでパキスタン人2人を射殺したとして米国人が逮捕された事件で、ラホールの裁判所は11日、この米国人の審理を今月25日に開始することとし、それまで14日間の拘置を決めた。米側はこの米国人には外交特権があるとして即時釈放を求めており、拘束の延長に対し、外交上の圧力を強める可能性もある。(後略)【2月13日 朝日】
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どうも、まっとうな「外交官」ではなさそうですが、アメリカ側の“米議員らはパキスタンへの支援75億ドル(約6300億円)と軍事支援20億ドル(約1700億円)を凍結すると主張”といった高圧的な対応は、危うい同盟関係をますます危険な状況に追いやるようにも思えます。

ブット元首相暗殺計画の情報を知りながら、適切な警備態勢を取らなかった疑い
最近のパキスタン関連のもうひとつの話題は、ブット元首相が2007年12月に暗殺された事件をめぐり、ムシャラフ前大統領が関与していた疑いが強まったとして逮捕状が出されたというものです。

****パキスタン:ムシャラフ氏に逮捕状…元首相暗殺めぐり****
パキスタンのブット元首相が2007年12月に暗殺された事件をめぐり、同国ラワルピンディの裁判所は12日、当時の警備態勢などに関し、ムシャラフ前大統領から事情を聴く必要があるとして逮捕状を出し、裁判所へ出頭するよう命じた。出頭期日は19日。応じなかった場合、国際手配などの手続きが取られる見通し。

08年2月の総選挙でブット元首相の夫ザルダリ氏(現大統領)率いるパキスタン人民党(PPP)が勝利し、ムシャラフ氏は大統領を辞任。在任中の弾圧行為などで訴追されることを恐れ、ロンドンに滞在していた。政界復帰を目指し、昨年10月に新党結成を発表したが、逮捕状が出たことでさらに帰国は難しくなった。
地元メディアによると、捜査当局はムシャラフ氏が元首相の暗殺計画の情報を知りながら、適切な警備態勢を取らなかった疑いがあるとしている。【2月12日 毎日】
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パキスタン警察は前年12月、事件当時ラワルピンディの警察署長だったサウド・アジズ容疑者と、同市警察幹部だったクラム・シャザド容疑者を、ブット元首相の暗殺を防げなかった職務放棄の容疑で逮捕しています。
捜査当局は7日に裁判所に提出した報告書で、この十分な警備を怠ったとして逮捕した元警察官2人とムシャラフ前大統領が連絡を取り合っていた形跡があると指摘しています。

“ムシャラフ氏のスポークスマンは、「裁判所から2月19日に開かれる次回審問に出廷するよう要請があった」と明らかにし、同氏の関与については「つまらない根拠のない主張」だと否定。事件についての説明を求められれば、同氏は裁判所に協力すると述べたが、出廷するかどうかについては明らかにしなかった。”【2月13日 ロイター】

ロンドンに滞在しているムシャラフ前大統領は、昨年10月には新党結成を発表し、2013年までに予定されている選挙のために帰国する意向を示していました。
今更、ムシャラフ前大統領が大きな政治的影響力を発揮できるとも思われませんが、新党で選挙に臨むとするムシャラフ前大統領の思惑、そのムシャラフ氏への逮捕状を出して、事実上帰国を阻止しようとしている政権側の思惑・・・そこらはよくわかりません。
ある政治アナリストは、ムシャラフ氏への逮捕状が象徴的なもので、同国の政治への影響はないとしています。

自爆テロにパイプライン爆破
“謎の外交官”や“ムシャラフ前大統領へ逮捕状”といった話題意外にも、“相変わらず”のところでは、自爆テロのニュースも入っています。

****制服姿の少年が自爆、27人死亡 パキスタン*****
パキスタン北西部のカイバル・パクトゥンクワ州マルダンの軍の施設で10日、自爆攻撃があった。
現地の警察幹部によると、犯人は学校の制服を着た10代の少年で、厳重に警備された軍施設で自爆し、近くにいた新兵たちが爆発と爆弾に入っていた金属片で死亡した。
同州の情報相は新兵27人が死亡、35人が負傷したと発表した。現地の警察も同じ死傷者数を確認したが、軍は新兵20人が死亡したとしている。

アフガニスタンの旧支配勢力タリバンはこの自爆攻撃について犯行声明を出し、米国の無人機とパキスタン軍がパキスタン北西部の部族地域でイスラム武装勢力を攻撃していることへの報復として、近日中にさらに大きな攻撃を行うと警告した。
パキスタンで起きた自爆攻撃としては、2010年12月25日に部族地域のバジョール地区に世界食糧計画(WFP)が開いた食糧配給所の外で女が自爆し、43人が死亡した事件に次ぐ惨事となった。【2月10日 AFP】
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また、パキスタン南西部で10日未明、天然ガスのパイプラインが反政府勢力によって爆破されています。パイプラインが爆破されたのは今週2度目で、約20万人のガス供給が止まる事態となっているとか。
この爆破については、政治的権利拡大と天然資源の利益還元を求めるバルチ人の武装勢力「バルチ共和軍」が犯行声明を出しています。

進む核兵器開発
こうした社会・政治混乱のなかでも、核兵器開発だけは着実に進めているようです。
****軍事原子炉、4基目建設か パキスタン、衛星写真で判明*****
パキスタンが同国中部クシャブに4基目となる軍事用原子炉を建設している可能性が高いことがわかった。
米シンクタンク、科学国際安全保障研究所(ISIS)が入手した衛星写真によって判明した。ISISのデビッド・オルブライト所長らは11日までに出した報告で「パキスタンは核兵器用のプルトニウムを大量生産する決意だ」と分析している。(中略)
パキスタンは隣国インドに対抗するために1970年代に核開発に着手。米国メディアは先月、パキスタンの保有核弾頭数を100発超とし、インドを上回ったと報じていた。【2月12日 産経】
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逆に言えば、インドを上回る核弾頭を保有する国の社会・政治が混乱していることが、国際的に見ると懸念される問題となります。

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