孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン・ミンダナオ島  BIMP、赤道アジア、和平交渉、ダバオの“処刑人”市長

2008-07-11 14:59:36 | 国際情勢

(ミンダナオ島のゲリラ 戦闘訓練の様子 タグには“MILF”とあります。
ただ、撮影が1999年ですから、その後の和平交渉で様変わりしているかと思われます。
本文中の記事によると、MILF兵士は現在、普段は街で暮らし、時折訓練のためジャングルに呼び集められるそうです。 “flickr”By Keith Bacongco
http://www.flickr.com/photos/kitoy/2142555559/)

【BIMP-EAGA】
BIMP-EAGAという略称があるそうで、紹介するサイトをみると“BIMPって知っていますか?”というクイズ形式で話を始めていることが多いようです。
それだけ一般に馴染みがなく、また、とってつけたような名前ということでしょう。

BIMPはブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピンの4カ国の頭文字。
EAGAは「東ASEAN成長地域」の略称だそうです。

****アジアの海洋経済圏 進展左右「ミンダナオ」=西川恵****
【7月5日 毎日】
(BIMP-EAGAは)4カ国の辺境の遅れた地域を共同で開発していこうとの考えだ。
 92年にフィリピンのラモス大統領が提案し、94年に取り組みがスタート。当初、ミンダナオ島(比)、ボルネオ島(ブルネイ、マレーシア、インドネシア)、スラウェシ島(インドネシア)の3島が対象地域に選ばれた。この3島は半径ざっと300キロの内海を形作っており、中に無数の島々が散らばる。
 その後、パラワン島(比)、イリアンジャヤ(インドネシア)など10地域が新たに含まれたが、構想は進展していない。最大の障害はミンダナオ島の和平問題である。主要3島のうちの1島が不安定では、構想も具体化しようがない。
 ここをアジアの国境を超えた将来の海洋経済圏とすると、これに対応する内陸経済圏は大メコン圏地域(GMS)である。メコン川流域のタイ、カンボジア、ラオス、ベトナム、ミャンマー、中国(雲南)の6カ国を包む一帯だ。BIMPと同時期の92年に6カ国による開発プログラムが始動した。
 かつてここも辺境の不安定地域だった。しかしインドネシア情勢が安定し、麻薬地帯もタイ政府の撲滅運動で一掃。国境を超えた経済、エネルギー、物流などの協力が加速中で、将来の成長センターだ。構想スタートはBIMPと同じだが、いまはずっと先を行く。
 ミンダナオ和平問題が解決した暁に、この海域がどう変容するか、GMSが先例を示す。見晴らしの利いた海洋経済圏が登場するはずで、その波及効果は海洋国・日本にとって極めて大きい。現在、日本もかかわるミンダナオ和平問題は一般に遠い出来事だが、実は日本に直結しているのである。
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BIMPがうまく機能しない原因としては、ミンダナオの問題のほか、この地域には全体を牽引していくような中核がないという問題もありそうです。

【“無視された地域”】
“4カ国の辺境の遅れた地域”という表現がありますが、“無視された地域”とも言われています。
フィリピンの場合は政治・経済的に豊かなルソン島が中心で、ミンダナオは貧しい僻地になる訳ですが、宗教面でも多数派のキリスト教に対し、ミンダナオ島はイスラムと何かと対極にある地域です。
ボルネオ島のマレーシア半島部に対する関係、ジャワ島中心のインドネシアにおけるスラウェシ島やイリアンジャヤの関係も“辺境” “無視された地域”にあたります。

BIMP-EAGAの4カ国の役割分担は、ブルネイが運輸・インフラ分野、インドネシアは天然資源分野、マレーシアは観光分野、フィリピンは中小企業分野だそうです。

【赤道アジア】
観光については、2006年頃の情報ですが、“日本アセアンセンターが日本旅行業界に向け、新たなデスティネーションとして「赤道アジア」を打ち出し、旅行会社の認知向上を目指した取り組みを進める”というものがありました。

「赤道アジア」というネーミングはとても気にいりました。
BIMP-EAGAなんて訳の分からない名称より、はるかに良くイメージが湧きます。
地図を眺めると、まさにこの地域は「赤道アジア」です。
名前だけでも、大メコン圏地域(GMS)に対抗できそうです。

「まだ成長していない、これは『これからの地域』の裏返しである。」
「一般的なアジアのシティやリゾートを売るのとは違い、原始の中で旅をするということを考えなければならないと思う」
「遅れているだけに遺されたものはたくさんあり、遺されたものをどう表現して、日本の方々に打ち出していくか・・・」との関係者の話です。個人的には興味があります。

【ミンダナオ島の和平交渉】
さて、「赤道アジア」のネックとなっているフィリピン・ミンダナオ島情勢ですが、長くイスラム武装勢力と政府軍の争いが続いています。
70年代、急進派イスラムグループが島の分離独立を目指し「モロ民族解放戦線」(MNLF)を結成して武力闘争を開始。MNLFは96年に和平合意しましたが、分派した「モロ・イスラム解放戦線」(MILF)は闘争を継続、03年に政府と和平準備交渉を開始しました。

この和平交渉はマレーシア政府を仲介に進められており、国際停戦監視団が、マレーシア41人、ブルネイ10人、リビア5人、日本1人の計57人で構成されています。
この活動は国連の平和維持活動ではありません。

しかし、自治権をどの程度付与するかをめぐってフィリピン政府が難色を示し交渉は停滞しています。
しびれを切らしたマレーシア側は、すでに30人を撤退させ、任期が切れる8月末に残りを引き揚げる予定です。
これを受けて、フィリピン・アロヨ大統領側も打開に向けた交渉をMILFに呼びかけているとの話もあるようです。

MILF兵士のひとりにインタビューしたリポート。
****20歳兵士、募る不安…ミンダナオ島*****
先祖代々暮らしてきた土地に政府軍が侵攻し、10代前半で志願して兵士になった。戦場では「下っ端の兵士」のため、常に最前線近くに配置された。対戦車砲を抱え弾薬を体に巻きつけ闇に潜む。砲弾をかいくぐって食料や弾薬を運ぶ役もやらされた。
 だがそんな戦場での生活は、03年の政府との停戦合意と、04年10月の監視団の活動開始で一変した。年間数十件あった戦闘は激減。いまも時折、訓練のため呼び出されてジャングルに戻るが、普段はコタバト市の自宅で暮らし、市場で働いて家計を助けている。
 近所に住む親類の中には、国軍の兵士が何人かいる。戦場で銃を向け合ったこともあるが、ここでは誰も密告はしない。「誰も争いを好まない。みんな普通の生活をしたいだけだ」と話す。
 多数派キリスト教徒に対する、イスラム教徒の戦いだったのか、と尋ねると「違う」と即座に否定した。「宗教戦争ではなく、我々の土地を侵した政府や貧しい人を無視する政府との戦いだ」。キリスト教徒の友人も大勢いる。
 「平和になったら、警察官になって不正を取り締まりたい。その前に結婚相手も探したい」。兵士はそういってはにかんだ。【6月17日 毎日】
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やや出来すぎの感もある記事ですが、このまま交渉が破綻するとこの兵士もジャングルでの戦闘に戻ることになります。
日本も現在監視団に1名派遣していますが、ODAの活用などでフィリピンなど関係国への働きかけも可能な立場にあるように思われます。
ミンダナオ島とフィリピン政府の確執が強いようなら、国境を越えて、BIMPだか赤道アジアといった視野での支援の枠組み構築もありうるのでは。
歴史的にミンダナオ島は日本と関係が深い土地で、戦争中には民間人を含む数万人の日本人犠牲者を出しています。
現地での反日感情も強かったようですが、現在はどうでしょうか。

なお、アルカイダやジェマ・イスラミアと関係があるとされるイスラム過激派組織「アブサヤフ」は、アロヨ大統領のもとでの米軍との共同掃討作戦によって、ひところより勢力は随分小さくはなったようですが、まだ活動は続いているようです。
先月、ホロ島で国内最大手のテレビ局の有名女性記者や大学教授ら4人が武装集団に誘拐された事件(その後解放)で、国家警察は誘拐したのは同島を拠点とする「アブサヤフ」のメンバーとしています。

【ダバオのダーティー・ハリー】
まだ治安が不安定なミンダナオ島ですが、ミンダナオ島の中心都市ダバオ(人口130万人、世界最大の行政面積を持つ都市)だけは全く別世界で、首都マニラなんかよりはるかに治安がいいそうです。
それには理由があって、「処刑人」とも「ダバオのダーティー・ハリー」とも呼ばれるドゥテルテ・ダバオ市長が私的な“殺人課”を有しており、殺人・強盗・麻薬などに関係した者を次々に“処刑”しているからだそうです。

在フィリピン日本国大使館によると、“麻薬関係者や重犯罪者がバイクに乗った何者かに銃殺されるという所謂「即決殺人」による事件が2003年は91件、2004年には 80件近くが発生し・・・”とのこと。
以前は夜になると市長自らバイクにまたがって“治安維持”に活躍していたとか。
このドゥテルテ市長の活動で、ダバオの治安は非常によく保たれており、市民からは絶大な支持が寄せられているそうです。また、アロヨ大統領の信任も厚く、大統領の要請を受け、誘拐・麻薬対策特別委員会の顧問に就任しています。

実際、ドゥテルテ市長の仕置き人的な“処刑”で治安が保たれている訳ですから、きれいごとばかりも言えません。
ただ、こういう形でしか治安回復できないというのは、正直残念な思いもします。
コメント
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