黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

司法修習生の意識は悪い方向に変化している?

2013-08-17 08:18:03 | 司法修習関係
 司法修習生や弁護士の就職難については,マスコミにも取り上げられ,一般市民の皆様にも事情が知られるようになってきました。現在,66期の司法修習生が修習を行っていますが,今どきの修習生はさぞかし就職活動で苦労しているだろう,と想像されます。
 しかし,実際に司法修習生と接し,就職活動の支援をしている先生から見た今どきの修習生の印象は,必ずしもそのようなものとは限らないようです。

 この問題に関連して,最近看過できない内容の記事を見つけました。
<参 照>
就職に対する修習生の意識の変化について思うこと(白浜の思いつき)
http://www.shirahama-lo.jp/blog/2013/08/post-180.html
 白浜先生のこの記事には,以下のように書かれています。
「しかし、数年前までなら、地方にも積極的にでかけて就職を確保するような人がかなりいたのに、最近では、履歴書の送付すらあまりやっていないような消極的姿勢の修習生も目立つようになってきたようにも感じる。一種のあきらめムードがあるような気がするのである。つい最近耳にした話では、人口過疎地域で募集があっても応募する修習生がほとんどいなかったり、企業からの募集があっても応募する修習生が少ないとか、当該地域での評価が低い事務所(ブラック事務所などと言われているようである。)には、たとえ給与水準が高くても応募する修習生すらいない(つまり、危ない事務所であってもとりあえず働いてみて弁護士経験積んだら独立したらいいんやというような冒険心のある人はいない。)というような状況になっているようである(誤解されると困るので、申し添えておきますが、私としてはブラック事務所にはいかない方がいいとは思っているので、ブラック事務所への就職を推奨しているわけではありません。)。」

 白浜先生以外にも,例えば履歴書を数通送っただけで就職先が無いと嘆くような修習生がいると書いている先生がいたりしますので,就職活動に関しても「やる気がない」修習生が増えているというのは,おそらく事実なのでしょう。
 また,白浜先生は,上記引用部分の前のところで,以下のようにも述べられています。
「ざっくりとした感想だが、数年前だと、「こんなに就職が大変だとは思ってもみなかった」ということを述べる修習生がかなりいたような印象があったが、最近では、そんな修習生はまずいないので、司法試験に合格したという資格を持ったということだけでは弁護士事務所にまともに就職できるのは奇跡に近いことなのだということを理解している修習生が多くなっているように思う。」

 この部分は,単純に「司法試験に合格しても就職は難しい」ということが司法修習生の間でも広く知られるようになったという趣旨にも読めますが,数年前なら履歴書を何百通単位で送ったり,連日就職活動に明け暮れたり,募集があるところなら地方にも出かけたりして,それこそヘトヘトになるまで就職活動を続けた結果「こんなに就職が大変だとは思ってもみなかった」といった感想を述べる修習生がかなりいたところ,最近はそういう必死の努力をしない修習生が増えてきたことの裏返しであるようにも読めます。
 そして,このような修習生が増加してきた背景として,白浜先生は次のような仮説を述べられています。
「このような消極的な姿勢の修習生が増えてきた背景にはロースクール入学者の変質があるのではないかという仮説を私は立てている。就職氷河期が続いていた中でもかなり大学生の就職環境は改善してきている今のご時世に、就職もできないようなロースクールにわざわざ入学するのは、自分の希望に添うような就職先がみつからなかったので、就職時期を少し先延ばしにしようとしてとりあえずロースクールでも籍を置いておこうかなということで入学した人がかなりいるのではないかという懸念である。実際、有名私学のロースクールで実務家教員として指導した経験のある弁護士からはこのような動機であまり目的意識もないままに入学してきている学生が増えているということを聞いたことがある。このような消極的な意識でロースクールに入って司法試験に合格したとしても、絶対に弁護士になろうというような意識になることもなく、漫然と時間が流れるのを待つというような人がでてくるのは自然なことであろう。」

 最近の法科大学院生については,検討会議の委員を務めた岡田ヒロミさん(消費生活専門相談員)も,このようにコメントしています。
「法科大学院は,数が多すぎますし,学校によってレベルの差があり過ぎます。私は法科大学院の評価委員もやっていまして,何校か訪問調査に行きましたが,学生にも,学校にも,温度差があると感じました。地方の学校に行くと,こんな状況では司法試験に受からないなと私みたいな素人でもわかるような感じでしたけど,ご本人たちにはそれがわからないように感じました。学生は勿論ですが,それ以上に入学者が唯一拠り所とせざるを得ない学校に,責任と危機感を持ってほしいと思います。」

 法科大学院の入学者については,黒猫も2年くらい前から,実際は本気で弁護士になろうとしているというよりは,単なる就職モラトリアム組が多くなっているのではないかという懸念を抱くようになっており,最近の法科大学院生のやる気のなさは既に各方面から問題視されているのですが,司法修習生についてもそのような傾向が現れてきたということかも知れません。
 現状ではやむを得ない面もあるとは思いますが,黒猫が9605-sak@mail.goo.ne.jpのアドレスにて法科大学院に関するメール相談を受け付けたところ,現役の法科大学院生と思われる人から送られてきたメールには,何のために法科大学院にいるのか目的意識を持てないといった趣旨のものが結構目立ちました(なお,法科大学院に関するメール相談は現在も随時受け付けています)。
 しかも,今の「就職活動をしている司法修習生」は,法科大学院生の中でも以下のようなプロセスを経て「選抜」されてきた人たちなのです。

(1) 法科大学院生の中には,司法試験に失敗した人などの惨状を見て危機感を抱いた結果,在学中から企業等への就職活動を続け,就職先が決まったら修了後一度も司法試験を受験することなく就職する人が結構いる。運良く法科大学院在学中に就職先が決まると,法務博士の学位はマイナスにしかならないとして自主退学してしまう人も多い。
<参考サイト>
ロースクール就活生の思うこと
http://hidamarinrin.seesaa.net/
昭和42年生まれ元司法浪人無職童貞職歴無しの赤裸々ブログ
http://ameblo.jp/anokoronimodoritai/
(2) 法科大学院を修了し司法試験を受験する人の中にも,公務員試験や裁判所事務官試験などを併願する人は結構いる。特に,裁判所事務官は法曹の仕事とも親和性が高く,しかも司法試験終了後に受験でき司法試験より先に合否が決まるため人気が高い。運良く公務員の就職先を得られた人は,司法試験に合格しても司法修習に行くことなく就職してしまう。
(3) 法科大学院を修了し弁護士を目指す人でも,大手事務所等への就職を目指す人は,早ければ法科大学院在学中に,遅くとも司法試験の合格発表以前に就職活動をし,内定をもらってしまう。

 つまり,法科大学院生の中でも比較的就職を真面目に考えている人は,修習生になる以前から何らかの対策を立てているのであって,司法修習生になってから就職活動をするような人は,そもそも就活についてやる気がないか,あるいはどこにも就職先を決められず仕方なく司法修習生になった人が多数を占めるという社会構造が出来てしまっているわけです。
 政府(法曹養成関係閣僚会議)は,法曹有資格者(司法試験合格者)の活動領域について,各分野の有識者等で構成される有識者会議を設け,更なる活動領域の拡大を図るという方針を打ち出していますが,そもそも当の司法修習生に就活をする気がないのであれば,活動領域の拡大などを議論しても何の意味もありません。
 また,上記の話に関連するのかどうか分かりませんが,法曹養成制度検討会議の中間的取りまとめに対するパブコメでは,給費制復活を訴える意見が圧倒的多数を占める一方で,このような提出意見もありました。

「また修習の貸与制について,以前は反対でありましたが,最近考えを改めました。
 というのも一部の修習生は貸与で得たものを合コン等に使用していると思われるからです。
参考(ツイッターより
------
take-five 2月20日
俺の周りは,修習生の間で日本一合コンが多い班なんじゃないかと思うくらい,合コンが多い(笑)。多分修習始まってから班内の誰かが合コンに行った回数は,12~16回くらいにはなるんじゃなかろか。ほぼ毎週誰かが合コンに行ってる気がする。それとも各地ともそんなん?
(中略)
ツイート内
テキスト
@take_five_21さんへの返信
画像はリンクとして表示されます。
@take_five_21 各地そんなものかと。
(中略)
@wm_kobekko そうなんですね。やはり修習生はどこも合コン三昧か。
開く
@take_five_21 修習地の規模もあると思いますが,私だけで今月5回は行ってますからね笑
------
そうであるとすれば,給費に戻す必然性は少ないと考えます。」

提出意見前半の13頁,4月21日付け提出意見より抜粋)

 もっとも,上記は再々伝聞くらいの情報に過ぎないので,実際に合コンに明け暮れている司法修習生がいるかどうかは分かりませんし,いてもそんな人はごく一部だろうと思います。
 ただ,実際に合コンに明け暮れている修習生もいると仮定して,そういう人はおそらく修習開始前から大手事務所等の内定をもらっているか,あるいは親の事務所に就職できる当てがあるなど,修習生の中でも非常に恵まれた環境にある人の一部ではないかと思っていたのですが,修習生の中に一種の「あきらめムード」が漂っているとなると,話は変わってきます。
 すなわち,就職活動をやる前から就職は無理と決めてかかった挙げ句,実際には就職先が決まっていないのに,貸与金で合コンを繰り返すなどの現実逃避に走っている修習生もいないとは限りません。実際,生活保護費をパチンコで浪費してしまうような人もいるわけですし。

 司法修習生に一切合コンをするなとまでは言いませんが,数だけは多くてもこのようにやる気の感じられない修習生ばかりでは,弁護士をはじめとする法曹界はお先真っ暗です。弁護士だけでなく,裁判官や検察官になる人の質も下がり,長期的には日本の治安悪化や法的インフラの崩壊を招き,日本経済にも重大な悪影響を及ぼすことが懸念されます。
 このような司法修習生のやる気低下は,言うまでもなく法科大学院制度と司法試験合格者が多すぎることに起因しており,同じ法曹志望者でも,合格者数の極めて少ない予備試験を通ってくる人のやる気はもの凄いものがあると聞いています。
 現状を打開するためには,一刻も早く法科大学院制度を廃止し,司法試験の合格者数を適切な水準に絞った上で司法修習生に対する給費制も復活し,法曹養成制度を正常化することが欠かせません。

 なお,司法修習生でこのブログを読んでいる人がいるかも知れないので念のため言っておきますが,今回の記事は,今どきの司法修習生に就職先が見つからないのは本人のやる気のなさに起因するところも多く,もっと必死になって就職活動を行えば,あるいは就職先を見つけられるかも知れないということも意味しています。
 貸与制の下で,今の司法修習生が経済的に極めて苦しい生活を送っていることは黒猫も理解しているつもりですが,就職について自助努力をしない修習生に救いの手を差し伸べようと考える人はあまりいないと思いますし,仮に救いたいと考えても,本人にやる気がないのなら手の差し伸べようがありません。
 法曹界で生き残りたいという意欲が少しでもあるなら,まずは真剣に就職活動をして,崖っぷちから這い上がろうとする努力をしてください。就職先が見つからないからという理由で安易に自宅などで即独しても,成功する可能性はまずありません。



5 コメント

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Unknown (Unknown)
2013-08-17 13:05:21
黒猫先生と同意見です。

最近、委員会・勉強会などによく顔を出す積極的な修習生がいました。案の定、採用してくれないかと頼まれましたが、私にも余裕はないので、事務所の収支を説明し、「すまないが君の希望には添えない」とお断りしました。
しかし、彼は「そうだろうと思いました。でも勉強会などでもらった知識はしっかり就活に役立てていますから」と笑ってくれました。

こういう修習生にはおのずと道が開けると思います。
本当にやる気のない修習生が増えているのなら、積極的な修習生はかなり目立ちますから。
Unknown (Unknown)
2013-08-17 18:45:09
残念ながら、65期の人たちと接していて最近感じている感覚とこの記事と齟齬はないです(もちろん例外はいます)。

ただ、彼らをフォローするとすると、業界そのものがブラック化していることが、特別の意欲があるわけではない「普通の人」の意欲を奪うには十分な環境にあるということだと思います。

加えて、モラトリアム化については、法曹界という、かつては花のあった「古い名」が、現実逃避をするには魅力的なのでしょう。「そうはいっても法曹だし何とかなるのではないか」という希望的観測が、現実は違うと薄々感ずいていても、現在の就職からの逃避の理由に担ぎ出すのには魅力的なのですよ。彼らにとって法科大学院は甘い罠であって、蟻地獄の巣の入り口でもあるのです。
Unknown (Unknown)
2013-08-17 19:48:49
思ったのですが、法科大学院というのは、モラトリアム組が流れ着いてしまうモラトリアム界のサルガッソのようなものですね。
Unknown (Unknown)
2013-08-18 05:40:07
66期です。就活に関してですが、この超氷河期と言われている中で、比較的あっさり決まったなと思ってます。司法試験の成績がそんなによくなくて、修習前は半ば絶望していたのですが。

黒猫先生の記事に賛同する所が多いのですが、周りを見た感じから思うのは、奨学金+貸与金で首が回らなくて、どうしてもサラリーを重視せざるを得ないと考える修習生がいるわけです。それに法律事務所の多くは5年程度でイソ弁が独立する事を前提で採用しますから、稼げるうちに稼いでおこうと考える方もいるようです。

もちろん事務所のフィーリングと合わず、短期間で退所すれば元も子もないのですが、今年の11月から奨学金の返済が始まるような状況では、さらに視野が狭くなる。貧ずれば鈍ずる、分かっていても意識が高くできない方もいるのです。

もちろんだからと言って修習生に慈悲の心を持って欲しいとは言いませんし、私も持っていませんが、ローや司法試験がモラトリアムの延長と言うのも違うと思うのです(そういう方は一定数いるでしょうが)。

結局、今の法曹界は、前向きでいられるかの競争が起きていると思っています。もちろん勉強し続ける事が前提で。
Unknown (上のコメントを書いたものです)
2013-08-18 06:09:05
寝起きに書いたので、分かりづらい点があるため、補足させていただきます。申し訳ありません。

上のコメントで私は、サラリーが低いとそれだけで就職活動のモチベーションが下がる方がいる、長期的な展望に立って借金を弁済すると考えられなくなっている方がいる、と言う事を言いたかったのです。