黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

こんな「定義規定」はいらない!

2011-09-15 10:35:45 | 民法改正
 ども。黒猫です。最近またご無沙汰してますが,これは民法改正や会社法改正の資料作りなどに追われているという原因もありまして,その中でも民法では,非常にくだらない論点の検討に時間を割かれています。
 真面目に書くような話ではないので,以前使ったお二人にまた登場してもらいましょう。ただ,AさんとBさんというだけでは味気ないので,女の子の方(Bさん)については設定を明らかにしておきます。
 女の子の名前はテオドラといい,ビザンティン帝国の皇女様です。17歳で,自他ともに認める美人なのですが,傍若無人でろくに仕事をしない,趣味は他人の揚げ足を取ることという救いのない性格の持ち主です。今回はそのテオドラ皇女様が,日本の民法学者の立場になり切って,民法改正についての考え方を語るという設定になっています。それではどうぞ。

「さあ,次は条件のところね」
「ふーん。まあ,条件の規定は実務上あまり気にしてないから,どうでもいい気がするけど」
「何をいうの! 条件についても,重要な問題があるのよ!」
「どんな?」
「まずは,今の民法で使われている「停止条件」と「解除条件」の定義を明確にする必要があるわね」
「はあ」
「今の民法127条には,停止条件や解除条件が成就した場合の効果に関する規定はあるけど,「停止条件」や「解除条件」という用語の定義規定はないわ。でも,条件っていう言葉は,日常用語としては結構いろんな意味に使われているから,この際法律用語としては,その意味を明確に定めておく必要があると思うの。これなら異論はないわよね?」
「まあ。でも,一体どんな定義規定を作るつもりなの?」
「具体的には,「停止条件とは,将来発生することが不確実な事実が発生したときに法律行為の効力の全部又は一部が発生する旨の特約をいう」ものとするわ。同様に,「解除条件とは,将来発生することが不確実な事実が発生したときに法律行為の効力の全部又は一部が消滅する旨の特約をいう」ものとすべきね」
「長っ!」
「あと,条件という用語を定義するときには,条件の発生により効果が生ずるもの(積極条件)と一定期間内における条件の不発生により効果が生ずるもの(消極条件)とを区別し,後者のような条件の定め方も可能であることを注意的に明らかにすべきであるという考え方もあるから,こういう規定の要否についても検討する必要があるわね」
「そんな規定要らないよ! そこまでまどろっこしい話になるなら,いっそのこと今のままでいいよ!」
「でもあんた,さっきは異論無しって言ってたじゃない」
「異論無しとまでは言ってないし,そこまで積極的に賛成してるわけじゃないよ! たしか今回の民法改正って,国民に分かりやすい民法を目指すんだよねえ。そんなごたごたした規定を作ったら,かえって条文が読みづらくて分かりにくくなるよ」
「しょうがないわねえ。じゃあ多数決。はい,賛成多数により,本件は可決されました」
「なんで!?」
「ふっ。甘いわね。この法制審議会民法(債権関係)部会は,委員の半数近くをあたしたち民法学者が占めてるし,官僚とか裁判官とか国のやることにはあまり反対しない人達を含めれば優に過半数に達するから,委員2人しかいないあんたたち弁護士が何を反対したところで,最後は数の力で押し切れるわよ。無駄な抵抗はやめることね」
「ひどい・・・。上智大学の偉い先生が,今回の民法改正は民法典の劣化だって非難してたけど,それはこういうことだったのか・・・」

「さあ,次は期限のところね」
「・・・まだやるの?」
「何よ,そのやる気なさそうな目は。期限のところにも,それはまた極めて重要な論点があるのよ」
「何をする気なの?」
「まず,今の法律には明文の規定がない,期限の始期,終期といった言葉の意味を明確にする必要があるわね」
「どう明確にするつもりなの?」
「具体的には,「始期とは,将来発生することが確実な事実が発生したときに法律行為の効力の全部又は一部が発生する旨の特約をいう」という規定を設けるわ。同じよう様に,「終期とは,将来発生することが確実な事実が発生したときに法律行為の効力の全部又は一部が消滅する旨の特約をいう」ものと規定しておけば完璧ね」
「何その呪文みたいに長い定義。そんな規定無くても,始期とか終期とか書いてあれば大体意味は分かると思うけど」
「大体じゃだめなのよ! 正確無比な定義規定を作り上げることこそが,国民にとって分かりやすい民法を実現するためには必要不可欠なのよ!」
「街頭でアンケート調査をやったら,たぶん100人中90人くらいは「かえって分かりにくい」って答えるような気がすると思うけど・・・」
「それと,始期については,法律行為の効力の発生に始期が付されるもの(停止期限)のほかに,履行の請求に付されるもの(履行期限)があるから,このことを条文上明記する必要があるわね」
「書いてなかったっけ?」
「ちゃんと書かれてないわよ。今の民法135条は,「法律行為に始期を付したときは,その法律行為の履行は,期限が到来するまで、これを請求することができない。法律行為に終期を付したときは,その法律行為の効力は,期限が到来した時に消滅する。」とだけ書いてあって,始期のところでは履行期限,終期のところでは停止期限のことしか書いてないわ。これでは規定の内容が明らかにバランスを欠いているわ」
「バランスを欠いているって,別に実務上それで困ってるわけじゃないんだけど・・・」
「そんなぐうたらな発想が民法を駄目にするのよ! こんなバランスを欠いた規定が万一そのまま残るようなことがあったら,あたしは気になって夜も眠れないわ」
「・・・まあ,その程度なら別に変えてもいいよ。どうせ反対しても数の力で押し通されるんだろうし」
「よく分かってるじゃない。聞き分けのよい子だとお母さん助かるわ」
「・・・別に君の息子になった覚えはないけど」
「それと,今の民法で使われている確定期限,不確定期限という言葉の定義も明確にする必要があるわね」
「まだあるの!?」
「そうよ。具体的には,「期限のうち,いつ到来するかがあらかじめ定まっているものを確定期限といい,いつ到来するかがあらかじめ定まっていないものを不確定期限という。」ということを条文上明記するわ」
「もう,何か呆れていちいち反論する気も起きない・・・」

 会話形式なので多少冗談めかして書いているところもありますが,基本的に今の民法改正はこんなしょうもない論点のオンパレードです。実務の需要でも国民にとっての分かりやすさでもなく,一部民法学者の自己満足と法務省民事局による組織防衛のために民法を改正しようとしているのです。その行き着く先は,立法担当者の解説でも読まなければ意味の分からない,長文の官僚用語で埋め尽くされた民法典であり,これは明らかな民法典の劣化なのです。
 そして,弁護士その他実務家の検討チームは,法制審議会内部では明らかな多勢に無勢という状況の中で,民法典の劣化を少しでも防止しようと,必死の孤軍奮闘を続けているのです。正直なところ,今回の民法改正が国会審議で紛糾し廃案になったとしても,現役弁護士の大半はこれを悲しむどころか,むしろ安堵するでしょうね。

3 コメント

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Unknown (通りすがり)
2011-09-20 23:20:28
まあ、定義規定がわかりにくいのはどうしようもないですが、「停止条件」の意味が分かる人が日本人の1割もいないのに定義が不要というのも不親切というか、法律家の思い上がりがそこには見えるのですが。
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過去の記事について。。 (kolk)
2011-10-01 03:01:12
前の記事で、「弁護士なんて暗い仕事は、遊び心がないとやってられない」と、書いてありますが、
弁護士が暗い仕事だと思われる理由は何ですか?

私は、遊び心一杯の法曹志望者です☆

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Unknown (Unknown)
2011-10-03 15:18:41
そんなことより、登録外したの?
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