黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

法科大学院は「日本国憲法」の理念を実現するためにある?

2013-05-22 18:23:58 | 法科大学院関係
 黒猫はフェイスブックをほとんど利用していないのですが,先日紹介した浜辺陽一郎弁護士(青山学院大学法科大学院教授)は,わざわざこのブログの記事を引用して色々と反論しているようです。何でも,伊藤塾の人が夜遅くに電話をかけてきて,伊藤塾としては黒猫の考え方と同じだ,反論を求めるなどという話があったとか。
<参照>浜辺陽一郎弁護士のフェイスブック(発言内容の閲覧には登録が必要です)
http://www.facebook.com/yoichiro.hamabe

 5月21日から22日にかけて行われた浜辺弁護士の反論は長いので,こちらの記事の引用部分や「本を読め」とか書いてある部分は省略し,実質的な反論部分と思われるところだけ太字で引用します。

「私がどういう気持ちでこの問題に取り組んでいるかは、早稲田大学での学部での授業やゼミとか、青学での授業ではそれなりに説明していますけれども、そこで強調しているのは、法科大学院で何が行われているかということです。そこでの実態を踏まえると、現在、法科大学院に来ている人たちは、それなりにリスクをも認識しているだけ、前よりは気骨のある人たちが多くなっています。そして、たとえば多くの私学では授業料を免除するコースがたくさんあって、返す必要は全くない奨学金がたくさんあり、定員にはまだまだ余裕があります。法律家を目指すのであれば、どういう選択肢があるのかを調べればいいし、また司法制度改革の理念ももう少し関心を持ってほしいと思います。法科大学院では、まずそれを共有するところから始めます。これは社会改革の基本の理解です。」
 「法科大学院で何が行われているか」という問題提起をしておきながら,驚くべきことに,それに対応する具体的な指摘は何一つありません。現役の法科大学院教授が例の一つすらも挙げられないのであれば,おそらく特筆すべきことはやっていないものと考えるしかありません。
 あるいは,「司法制度改革の理念を共有するところから始める」というのが答えのつもりなのかも知れませんが,仮にそうであれば,法科大学院で行われているのは教育ではなく,司法改革という「宗教」の押しつけに過ぎません。司法制度改革の理念について浜辺教授の見解を「共有」したところで,司法試験には何の役にも立ちませんし,就職で有利になるわけでもありませんし,実務に役立つこともありません。罰金付きで学生に意味のない強制労働を行わせるだけでは飽きたらず,思想統制までやっているのであれば,まさに法科大学院は北朝鮮並みの労役場です。いや,いくら北朝鮮でも収容者から高額の授業料を取ったりはしていないと思うので,実際には北朝鮮以上にひどいということになります。
 また,多くの下位校(最近は私立に限らず国立のローも含む)では,成績優秀者の授業料を全額免除するとか,もっと凄いところでは既修者コースの授業料全額免除,専用の学生寮をごく低額で利用できる,さらに司法試験合格者で修習に行く人には特別奨学金200万円といった,採算無視の出血大サービスをやっているところもありますが,それでも学生は集まらず,法科大学院全体の入学定員どころか,奨学金制度の定員すら埋められないところが大半を占めています。
 一見,授業料全額免除なら入学しても良いように思われるかも知れませんが,世の中には「無料ほど高いものはない」という諺があります。特に下位校では,例え授業料は無料であっても,司法試験に合格するには別途予備校通いをすることが必須であり,親の援助を受けられない学生が予備校の授業料や生活費で借金を作ることは避けられません。ローの授業と予備校のダブルスクールはかなりの負担であり,これに並行してアルバイトもするのは物理的に困難でしょう。
 さらに,卒業まで授業料の全額免除を受け続けるには,法科大学院内部で相当の高い成績を収めなければならず,教育能力どころか担当科目の知識にも問題のあるような教授の退屈な授業にも耐え,貴重な司法試験の勉強時間を割いて,むやみに時間ばかりかかる授業準備やレポート課題にも取り組まなければなりません。
 例えば青山学院ローで,浜辺教授の説く司法制度改革論がおかしいと思っても,異論を唱えたりしたらどんな報復を受けるか分かりませんから,結局何を言われても目上の人には絶対服従,という人しかローでは生き残れません。最近は弁護士になってからも,訴訟を起こす前に裁判所へお伺いを立てに行き,裁判官から「これは無理でしょう」と言われたらすごすごと引き下がるような若手が増えているそうですが,これもおそらく法科大学院教育の「成果」でしょう。
 さらに,最近は新人・若手弁護士の能力低下があまりにひどいことから,裁判所が自ら新人弁護士の研修強化に乗り出している地方もあるようですが,そうなれば弁護士にとって,裁判所はますます頭の上がらない存在になります。

「世界的に通用する人材を育てるためには、昔の試験信仰は通用しないのです。そのためのプロフェッショナルスクールを育てていくことが必要です。これが司法制度改革審議会で議論した結論でした。そこで創設された法科大学院で学んだことは決して無駄にならないようなキャリアをいかに切り開いていくかが重要なのであり、その前提としての法科大学院をいかに充実させていくかが大きな課題です。それが試験ばかりに注目されているところに、現代のこの問題の一つの不幸の一因があるように思います。」
 司法試験に対する「信仰」を捨てて,真に世界的に通用する人材を育てるようなプロフェッショナルスクールを作りたいというのであれば,法科大学院修了を司法試験の受験要件とするのをやめて,スクールとしての実力だけで勝負すればよいのです。そうすれば真に教育力のあるロースクールだけが生き残り,存続自体にはほとんど誰も反対しなくなるでしょう。
 また,法律実務の専門家を養成したいというのであれば,まず実務でどのような法的素養が求められているかを客観的に分析した上で,そのためにはどのような教育が必要なのかを考える必要があるところ,浜辺教授は,まず法科大学院を充実させた上で,それが無駄にならないようなキャリアを切り開いていくという,完全に順序の逆転した議論を展開しています。需要を見ずに製品を作るというのは,必ず失敗する国営企業やダメな企業の良いお手本ですね。
 アメリカのロースクールでは,研究者の評判等を重視するUSニュース&ワールドレポートの格付けがほぼ唯一の評価指標となっており,格付けの評価を上げるために研究者教授の給料値上げ競争や過剰な設備投資が行われたり,卒業生の就職率等に関する悪質な数字操作が常態化したりしているそうですが,日本における司法試験の合格率は,少なくともアメリカの格付けに比べれば余程客観性の高い公正な評価基準であると言えます。

「いってみれば、復古調の旧司法試験的な制度に対して、法科大学院制度は、「日本国憲法」の理念を実現するためだというのが、司法制度改革の理念なんですから。」
 今回読んだ発言内容のうち,上記は黒猫が一番頭に来た部分です。理念は口先だけで何とも言えますが,現実の法科大学院制度は,日本国憲法の理念の実現とは全く逆の方向に進んでいます。
 まず,司法試験の受験には原則として法科大学院の卒業が強制されることから,お金とヒマのある人以外は法曹資格に手が届かなくなり,実質的な能力担保という観点からは到底説明できない,職業選択の自由に対する不当な制限が行われています。しかも法曹は普通の職業ではなく,司法権の一翼を担う公職就任権という性質もありますから,司法試験における受験機会の平等については格別の配慮が必要であるはずなのに,法科大学院関係者はそのような配慮を一切しようとせず,さらに法科大学院を守るため予備試験の受験資格制限までやろうとしています。
 次に,予備試験は法科大学院修了と同等程度の学識素養を判定する試験のはずなのに,例外ルートという位置づけからその試験内容及び合格判定は必要以上に厳しく,平成24年度は法科大学院修了者の5%くらいしか合格できていません。法科大学院制度という名目のもと,あからさまに法の下の平等に反するような試験運用が公然と行われているのです。
 そして,法科大学院の学生は成績評価や奨学金制度等でローに縛り付けられ,決してローや教授の批判を(少なくとも表立っては)しない従順な学生しかローでは生き残れないようですが,法科大学院でそのように飼い慣らされ,さらに法科大学院と司法修習で多額の借金を負わされ,修習資金を返済するまで年に1回最高裁に現住所を報告することも義務づけられています。
 まさしくがんじがらめに縛られたローの卒業生は,裁判官や検察官,弁護士として社会に出ても,その多くは上司やお上の言うことには絶対服従,社会の不正があっても文句を言わない,とりあえず借金を返すためにお金の儲かる仕事を優先する,といった行動に走ることになるでしょう。このような法科大学院教育の「成果」は,基本的人権の保障や司法権の独立を謳っている日本国憲法の理念とは相容れないものです。
 伊藤塾はもともと司法試験の予備校ですから,(制度自体には反対であっても)需要があれば法科大学院の受験対策講座をやるのは商売として当然のことであり,法科大学院の受験対策講座を開いている奴が法科大学院批判をするなというのは,思想・信条の自由を認めた日本国憲法の理念を全く理解していない愚か者にしかできない議論です。
 なお,日本国憲法の施行とともに始まった旧司法試験を「復古調」とする浜辺氏の主張は全くの意味不明であり,浜辺氏がビジネス法の分野では高い実績を残されていても,日本国憲法については司法試験合格後に概ね忘れ去ってしまっていることがよく分かります。あるいは,憲法の理念を実現することを理念としていれば,現実が憲法の理念に合致しているかどうかは関係ないとでも主張されるつもりなのでしょうか。

 なお,浜辺弁護士は「自分の書いた本を読め」という趣旨の発言を繰り返していますが,司法改革に関係する浜辺氏の著書のうち,『法科大学院で何を学び,司法試験をどう突破するか』という本に対し,唯一付いているカスタマーレビューは以下のとおりです(評価は☆2つ)。
新司法試験をめざすにあたっての一般常識が説かれてます。
合格するために、どのようなライフスタイルを設計すべきか悩んでいる方は読む価値があります。
他方で、司法試験の勉強のイロハ(一般常識)になじみのある方には、あまり得られるものがないかと思います。
まとめると、
(1) ローは法律家を養成する上で有効・適切。
(2) 法律家をめざすには人間力・精神力が不可欠。
(3) 失敗する人は、適性が無いか、方法がおかしいか、人間的な欠陥があるかのどれか。
   要するにローに責任は無く、あくまで自己責任。
費用対効果で考えるなら、予備校のオープンスクールや合格者のコメントを聞く方が有益でしょう。
著者はロースクールに大きく期待をよせ、予備校には批判的な立場です。


 同じく『弁護士が多いと何が良いのか』という本に対し,最も評価の高いカスタマーレビューは以下のとおりです(評価は☆1つ)。
優秀な渉外弁護士が書いた本であるので読んでみたが,かなりの期待はずれだった。
一般市民は,弁護士が増えれば,誰でも安くて良質な法律サービスが得られるということを期待するのであるが,逆にそうではないらしいと言う感覚が残った。この本で,ためになったのはセカンドオピニオン大切さ,弁護士選びの大切さ,市民のために敷居を低くと言う点だけである。この本は,弁護士が,社会,世界の中心になることがすばらしいとする弁護士至上主義的な思想が見え隠れしており,その割には曖昧な前提からの論理で結論を導き,説得力がない。たとえば,「訴訟件数は右肩下がり」の資料には膨大な過払請求事件が除かれているなど前提を加工している。特に副題,法科大学院の現場から,と言う最終章はひどい。法科大学院の教育は制度として理想的であるが,司法試験が難しすぎて質が落ちるとか,法科大学院の質を上げるには,合格者を増やして合格率を上げることしか対策はあり得ない,弁護士資格があっても就職できないのは,制度のせいではなく,本人の仕事に対する姿勢の問題など,他への無茶な責任転嫁ばかりである。自らの法科大学院の教員としての能力を反省するところが一つもない点が読んでいて気になった。盲目的に法科大学院制度を褒め讃えるので,かえって法科大学院制度というのは,少子化時代の大学の利権(大学院必修の学費増額)としか思えなかった。


 どちらも,中古品なら今のところ1冊150円くらいで買えるようです(値段やカスタマーレビューについては,常時変動する可能性があります。上記は黒猫がチェックした時点のものを載せています)が,そこまで値が下がっていること自体,需要がなく役に立たない本であることを表していますし,購入するのは送料負担があまりにもったいないですよ。

39 コメント

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Unknown (Unknown)
2013-05-22 19:39:50
重ねていう!
浜辺陽一郎の自宅に電凸レした伊藤真塾長は男の中の男だ!!
マジでガチでしびれたぜ!

伊藤真ばんざい!!
伊藤塾ばんざい!!!
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Unknown (Unknown)
2013-05-22 19:48:07
黒猫さんってさあ、法科大学院批判やってる時は生き生きとしてるよねぇ。
schluzeブログで精神衛生上好ましくないとかボヤいてたけどそんなことないってw
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Unknown (Unknown)
2013-05-22 20:29:03
法科大学院批判のブログとしては最大手だから注目を
集めてるんでしょう。きっと偉い先生方も、こっそりこのブログ読んでると思う。


世論も高まってきたことですし、黒猫先生は、司法制度改革批判について新書でも書かれるのはいかがですか。
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Unknown (Unknown)
2013-05-22 20:31:31
>世界的に通用する人材を育てるためには、昔の試験信仰は通用しないのです。

そうだとすると、信仰かどうかはともかくとして、現行制度(国家試験)における司法書士、弁理士、税理士もダメということになりますが、これらの隣接士業は代書屋だし、弁護士と一緒にするなということなのでしょうか。
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Unknown (Unknown)
2013-05-22 20:36:59
schulze先生のブログでコメントされている黒猫なる人物は、管理人の黒猫先生でしょうか。もしそうだとすれば、内容にひっくり返りました。

他人の飛びついた意見やネタであろうと、それを自分のブログで取り上げて論評したのであれば、普通は論争のリングに上がってきたものとみなされて、賛同や反論を受けるのは当たり前です。
「自分は発言するけど、他人からそれを評されたくはない」は通じないでしょう。評されたくない、黒猫氏の言葉を使えば「矢面」に立ちたくないのであれば、最初から、当該ネタを論評することで、周囲から「リングに上った」と思われないことです。
精神状態が悪くなる? それは身から出た錆、自業自得でしょう。最初から触れなければいいだけの話。
やれ改憲だ、府市統合だ、野党共闘だといっておきながら、慰安婦というセンシティブな論点で煽情的な発言を自分からして、自分ですべてをポシャらせたにもかかわらず、「みんな党利党略でしか動かない」と悪態・言い訳をつく某府知事と同じですよ。
黒猫先生ともあろうかたが、しっかりしてください。
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Unknown (Unknown)
2013-05-22 20:41:49
ちょっと前に伊藤真先生の講義を受けていました。
講義中だったか講義前だったか忘れましたが、その中では法科大学院制度を伊藤真先生は批判していましたよ。
たしか元法務副大臣の河井先生の書かれた「司法の崩壊」という本の紹介とともに、基本的にはその本の意見に賛同する形で痛烈に法科大学院制度の批判をしていましたように記憶しています。
私も一度この本は読んだのですが、なかなか現実をあらわしているな、と感心しました。黒猫先生も興味があれば一読してみてはいかがでしょうか。
正確な言葉は覚えていませんが伊藤先生が
「法科大学院を目指して勉強しているみなさんにこんな本を薦めるのは何たることだ、と思われるかもしれませんが、しかし現実を見て自分の力で司法試験には合格するしかないんだ」
とおっしゃられたのが印象的でした。

そういえば、最高裁が二回試験のデキの悪い答案が増えているとかいう報告書を出したとかそういうことも話されていました。ローでどんな教育がされているんだと裁判所もずいぶん前から思っているんじゃないでしょうかね。
でないと、新人弁護士の指導を裁判所がやる、なんて現象は起きませんし。まあもちろんOJTの不足の問題はあると思いますが、前期修習をなくしたくせに、それに見合った教育を全体としてできないローの責任も大きいと思います。
まあ井上先生は開き直られていますが。
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Unknown (Unknown)
2013-05-22 21:05:08
そもそも伊藤塾を名乗って電話をかけてくるっていうのが安っぽく本当かな?と思います。仮に伊藤塾関係者だとしても、塾内で意見をまとめて代表して電話をかけてくるなんて考えにくいんですけどね。
浜辺先生としては単純化して批判している人をひとまとめに考えているんでしょうけど。
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伊藤真がロー批判って… (Unknown)
2013-05-22 21:29:04
伊藤真がロー批判って言うけど、ロー制度が出来た当初、龍谷ローと提携しようとして失敗したのは何処のどなたでしたっけ?

あの当時の伊藤塾は今よりずっと羽振りが良くて、近くのインフォスタワーを2フロア借り切って大教室にしてたし、講師には専用の秘書が付いてたらしい。
ところが、龍谷ローとの提携が失敗して多額の損失を被り、それが一因で規模縮小したみたい。
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Unknown (Unknown)
2013-05-22 21:45:22
黒猫さんはブログでの内容をもう少し表現柔らかくして朝日新聞や日経などに投書して見たらいかがでしょう?大新聞も同罪なので採用される見込みは低いかもしれませんが採用されなかったらそれはそれでネタとしてブログにアップしてください。新聞記者が不勉強な事も沢山あるので旧司のときの受験者数とかアメリカでの議論とか韓国の法曹改革の失敗とか、小泉時代とか中坊の時代の司法試験改革の経緯とかを折混ぜれば、記事になるかも知れません。あとは週刊誌やハフィントンポストなどに投稿する事もアリです。
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Unknown (Unknown)
2013-05-23 00:39:33
このLS教授、こんなことを言ってるんですね。
いったい何様のつもりなんでしょう。
自分が関与したことだけはそれほど崇高なんでしょうか。
学生のばかにするにもほどがあります。
司法制度改革の推進者はみなこのパターンのように思います。
すべては上から目線の傲慢さが原因。謙虚さのかけらもない。
こんな弁護士を輩出したんだから、なるほど旧試験には欠陥があったんでしょうね。
彼らが早く路頭に迷いますように。
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