黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

『正直過ぎる法科大学院面接官』

2012-12-30 10:26:13 | 近未来の法曹界
 前回の京急線ネタは,鉄道に詳しいSchulze先生などは大笑いされたようですが,京急線に乗ったことのない方にはいまいちピンと来なかったかも知れません。その場合は,信越本線(しなの鉄道)や北越急行ほくほく線など,ご自身に身近な路線に置き換えてみると分かりやすいかも知れませんね。北陸新幹線が開業した後は,旧北陸本線沿線の皆さんも,普通列車がディスられる悲しみを実感することになると思いますが。

 それはともかく,今回は今年最後の記事ということで,久し振りに「近未来の法曹界」をお送りします。テレビのお笑い番組に触発されて書いたものですが,某中堅法科大学院の面接試験における,受験生のA君(現役法学部生で未修者コース志望,予備試験は難しそうので受験する気無し)と,つい本音を語ってしまう癖のある面接官とのやり取りという設定です。内輪ネタ連発のブラックジョークなので,これで笑える人は限られてしまうかもしれませんが。

「よろしくお願いします」
「君が受験生のA君ですね。では面接試験を始めます。まず,君が法曹を目指そうと思った動機は何ですか?」
「はい。僕は,知的財産権の問題に興味があるんです!」
「知的財産権? それなら,むしろ弁理士になるか,会社で働きながら知的財産管理技能検定でも取った方がいいよ。弁護士が扱う知的財産事件なんて,数が少ない上にろくなの無いんだから。むしろ「痴的財産権」って言った方が良いくらいの」
「・・・・・・いや,実は,租税訴訟にも興味がありまして」
「租税訴訟も数は数えるほどしかないからね。それに法科大学院では会計の勉強しないけど,租税法は会計の知識がなきゃ真の理解はできないからね。税法で食っていくなら公認会計士か税理士を目指すべきだろうね」
「・・・・・・いや,ほかにも,例えば弁護士として中小企業の海外進出を支援したいんです」
「そんなのに弁護士資格いらねえよ。経営コンサルタントにでもなったら? あと,ビジネスで金稼ぐことにしか興味ないの?」
「・・・・・・いえ,もちろん,原発とか環境問題にも積極的に取り組んでいきたいと思います」
「それなら,弁護士になるより環境保護団体にでも入った方がよほど手っ取り早いね。環境法でも原発問題なんて大したことやらないし,環境法で食ってる弁護士なんて聞いたことないし,環境問題の事件なんてほとんどがボランティアだよ」
「じゃあ逆にお聞きしますけど,弁護士って何をするお仕事なんですか?」
「そりゃあもちろん,刑事事件で明らかに有罪と分かってるような被告人の弁護をしたり,他にも自己破産とか離婚とか不倫とか交通事故とかドブさらいみたいな事件を,それこそ生き残りを賭けて必死に奪い合う仕事さ。今どきの若手には企業法務の美味しい仕事なんてほとんど回ってこないだろうからね。法曹になりたいというのなら,そういう仕事になぜ就きたいのかを熱く語ってもらわなくちゃ」
「そんなの語れますかっ!」

(中 略)

「これで最後だが,何か本学について質問などはあるかね?」
「今年の司法試験合格者は3名というお話でしたが,僕が未修者として来年入学した場合,最終的に司法試験に合格できる可能性はどのくらいあるのでしょうか?」
「ぷっ。うちの未修者コースで司法試験に合格? (しばらく腹を抱えて笑い転げる)いや,キミなかなか面白いこと言うねえ。イッツァナイスジョーク!」
「いや,ここだって司法試験の合格実績あるんでしょ? どうしてそんなにおかしいんですか?」
「本学出身の司法試験合格者はたしかにいるけど,その大半は『外人部隊』だから」
「外人部隊?」
「うん,司法試験の合格者数がゼロだとさすがに体裁悪いからね。既修者コースに授業料ゼロの特待生枠を作って,優秀だけどローに行くお金のない東大生,京大生なんかを入学させているのさ。それが外人部隊。去年の司法試験合格者のうち2人は,外人部隊の卒業生だね。2人とも法科大学院の授業なんかほとんど無視して,司法試験対策の内職に励んでいたよ」
「・・・・・・じゃあ,残りの一人は?」
「おととし司法試験に合格した,本学でチューターをやっている新人弁護士に司法試験を受けさせたんだよ。ちょうど受験資格が残っていたんでね。あ,もちろん外人部隊出身だけど」
「あからさまなインチキの上に,結局全員外人部隊なんじゃないですか! それじゃあ,ここの未修者コースは一体何のためにあるんですか!」
「それはもちろん,辛い就職活動を先送りするためのモラトリアムだね。君だって本音はそうだろう?」
「身も蓋もないことを言わないで下さい! 他には何かないんですか?」
「もしくは『夢』だね」
「ゆめ?」
「そう。例えば宝くじを買う人は,みんな本気で1億円当たると思ってるわけじゃない。実際にはほとんどの人が損をして,発行者が大儲けしてるんだからね。それでも宝くじを買う人は,宝くじを買っただけで1億円が当たることを勝手に妄想して,それだけで精神的満足感に浸れるんだよ。いわば彼らは,宝くじで『夢』を買っているわけだね」
「はあ」
「それと同じで,君みたいに到底司法試験には受かりそうにないクズでも,法科大学院に入ればそれだけで弁護士になったような気になれる。しかも法曹倫理とかエクスターンシップとか,実務をやるのは遠い先なのに実務を疑似体験できるようなカリキュラムまである。いわば法科大学院は,法曹になるという『夢』を入学者諸君に提供しているわけだよ。もっとも,所詮夢は夢であって,それが現実になるかどうかは本人の資質の問題だけどね」
「・・・・・・分かりました。もう帰ります」
「はい合格」
「え?」
「おめでとう。君は本学法科大学院の入学試験に合格しました。はい合格通知」
「いや,ちょっと待って下さい。どうして今のやり取りで合格なんですか!?」
「ふっ。本学の経営を維持するためには,君みたいに法学部の成績も底辺ぎりぎりで,法科大学院の授業なんか到底付いて行けそうにない学生も法科大学院に入学させて,学生の頭数を揃えるしかないんだよ。うわべだけは能力があると見せかけられるように,最低限のコミュニケーション能力があれば十分だね。というわけでよろしく,金づる君」
「ドヤ顔で言わないで下さい! たしか,法科大学院では厳格な入学者選抜が行われていて,競争倍率が2倍を切ると補助金削減の対象になったりするんじゃないんですか? あと,今『金づる君』って言いましたよね!?」
「分かっているさ。だから本学の入学者選抜には『C日程』があるんだよ」
「C日程?」
年明け後に行われる,適性試験の成績と書類審査だけで合否を決める選抜のことさ。競争倍率が2倍を切りそうになったら,他大学の法科大学院入学予定者あたりに頼み込んで,費用はこっち負担でC日程の願書だけ出してもらい,競争倍率を調節する。いくつかの大学とはもう話が付いているから,君にも他大学への願書提出をお願いすることになるかもしれないね。なにしろ文科省は,見かけの競争倍率が2倍を超えてさえいれば「厳格な入学者選抜」が行われていると言って満足するおめでたい連中だから,奴らの目をごまかすのは簡単だよ。ククク」
「またしてもドヤ顔で言わないで下さい! 誰がそんな不正行為に手を貸すもんですか! あと,僕もこんな法科大学院への入学を決めたわけではないですからね!」
「君もまだまだ青いねえ。どこにも就職先が決まらず,法曹になるからと必死に親御さんを説得して本学に出願してきた君が,本学を蹴ってどこに行くと言うんだい? 親御さんに何と説明すると言うんだい? それに,出願するまでにどんな経緯があろうと,自分の意思で願書を出してきた以上は本学の正当な志願者であり,受験に来る必要がない以上実受験者数にもカウントされる。法的に何らやましいところはないね。それと実際弁護士になったら,ボスの命令なら依頼者を食い物にする違法不当な行為でも喜んでやるくらいでないと,今どきの法曹界は渡っていけないんだよ。まあ君の場合,実際に弁護士になることはないと思うけど。ククク」
「悪魔だ・・・・・・! この人は本当の悪魔だ・・・・・・!」
「それと,法科大学院用語としての「厳格な」に法的意味はないというのが通説であり,実際には「ゆるゆるの」という意味だから。これは覚えておくようにね,金づる君」
「また『金づる君』って言いましたね! 学生を何だと思っているんですか!?」
「そのまんまの意味だよ。まあ,入学して学費を納入してさえくれれば,あとは中途退学とかしてもらっても結構だから。こちらも面倒を見る手間が省けるし,文科省も2年次への進学率が減れば「厳格な成績評価が行われている」って勝手に満足してくれるから一石二鳥だね」
「なっ・・・・・・! そんな態度で,誰が法科大学院に入学してくれると言うんですか!」
「そう。だからこそ,法科大学院関係者は誰も本当のことを言わないのさ。私は口が軽いから,つい本音を語ってしまうけどね。あと,入学金と授業料を工面できないなら,日本学生支援機構の奨学金とオリコの教育ローンを用意してあるよ。返済が始まるのは卒業の7ヶ月後だから,入学時には保証人さえ立ててくれば現金負担はゼロ。安心して入学してくれたまえ」
「その手には乗りませんよ。卒業しても司法試験に合格できない,合格しても就職できない,それでどうやって借金を返済しろと言うんですか?」
「大丈夫だよ。君にはたぶん適用されないだろうけど,在学中特に成績の良かった学生には奨学金の返還を免除されることがあるし,経済的理由による返還猶予の制度もある。それでも回らなくなったら自己破産すればいい。破産手続き中は資格制限がかかって弁護士になれないけど,免責が認められれば数ヶ月で資格制限もなくなるから何の問題もない。あ,親子共々自己破産することになったら,是非本学附属の法律事務所を利用してくれたまえ。医学部の献体よろしく,法科大学院の学生に実験台を提供することも法曹を目指す者の務めだからね。金づる君」
「もういい加減にして下さい!!」

(終わりです。皆さん良いお年を)

15 コメント

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Unknown (Unknown)
2012-12-30 10:43:06
なかなかうまいです。会計士も似たようなもんですよ。(法科大学院なら予備試験という抜け道があり、司法修習も抜け道があるけど、会計士には抜け道がないぶん厳しいかも。)
Unknown (通りすがり)
2012-12-30 12:51:26
リアル過ぎて、笑いにくいですね。法科大学院相手に訴訟が早く起こされないかなと期待しているのですが。
Unknown (Unknown)
2012-12-30 15:03:49
会計士は随分合格者を減らして正常化したけど、累積してるはずの待機合格者問題はどうなったのかね?
Unknown (黒猫のブラックユーモア)
2012-12-30 16:02:34
面白かったどす。 三回笑いました。
黒猫さん良いお年を…
Unknown (Unknown)
2012-12-30 19:38:55
過不足なく、その通りなのが法科大学院の凄まじさ(笑)
Unknown (Unknown)
2012-12-30 23:00:19
会計士は全然正常化していませんよ。当年合格者優先のため過年度合格者はそのまま滞留しています。また監査法人に就職しても、上が詰まって昇格できないとか、経験が積めないなど就職後問題が起き始めています。さらに実務要件は大幅に緩和されたものの経験を積んでいないので、公認会計士登録後も監査ミスで懲戒処分を受けるケースも増加しています。ほかにも修了考査の休みが取れる取れないの不公平も生じていたり、その関係で職場とのトラブルも多発しています。仮に就職できても収入低下は著しく、リストラされたらお金もらえる分まだマシで、円満退社させられるケースも多いです。外圧としては税理士法改正で能力担保措置が取られる可能性もあります。到底正常とはいえません。
Unknown (予備合格者)
2012-12-31 08:20:46
大変笑えました。
来年も笑かしてください。

では、良いお年を
Unknown (来年よりロー進学予定者)
2012-12-31 18:49:31
最高に笑えました。

来年からロー入るものですが、さっさと違う道を探そうと思います。
Unknown (Unknown)
2012-12-31 20:17:00
これで中堅ですか? もし下位だったら?
Unknown (Unknown)
2012-12-31 21:59:29
学者連中も坊さんでも育てるところから始めたらよかったものを・・・。