ホテルのラウンジで歌っていると色んな場面に出くわす。
演奏や歌を真剣に聞いている人がいる。
聞くとはなしに聞いている人もいる。
込み入った話をしている人もいる。
時には団体でやって来て大騒ぎになっている外人客もいる。
どんなにやかましくても演奏がツボにはまれば、嘘のように静まる時もある。
それは演奏する側からすると快感の一瞬である。
色んな人種、年齢、関係の人たちがいる。
中にはただならぬカップルもいたり、歓び、悲しみの最中の人たちもいる。
昨夜は常連さんに呼ばれてカウンターに座ると、可憐な感じの婦人が写真立てを前に飲んでいる。
御自分と男性の写真のようだ。
先ほどからさかんに拍手をしてくれていたので、「ありがとうございました」と言うと
この写真の男性が自分の夫であること、あともう1時間もすると彼の誕生日なのだと話す。
それはおめでとうございます。と言うと、2年前に54歳で突然亡くなったのだと。
幼馴染み同志で結婚して、ヒルトンが大好きだったのでよく二人で来たのだと。
シャンパンを注文して黒服やカウンターのお客さんにもふるまう。
わたくしは演奏中はビールしか飲まないことにしているのだが、この話に胸が一杯になったのでシャンパンのご相伴に預かる。
彼女の回りの数人で亡きご主人に「ハッピーバースデイ」を歌い、献杯をする。
涙をいっぱいためて、こんなにお祝いしてもらって主人も幸せですと。
ご主人を亡くしたことからまだ立ち直れないとも。
世の中には亡くなった後までお誕生会をしてもらえるご主人は多くはないだろうな。
幸せなご夫婦だったんだなあと思う。
人生はなんとも理解できない。
奥様のこれからの人生が幸せだといいなと、ふと通りがかった者として、心からそう思いました。
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