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もう一つの春 17

2006-11-10 21:30:05 | 残雪
「私、寺井さんにいろいろな姿を見てしまうんです、きっと、男の本性を知らないから、こういう人がとか、こういう人だったらとか」
「僕そんな、君の期待に応えられる様な人間じゃないよ・・・恥知らずなだけだよ」
「そんな事言わないで!お願いだからそんな風に言わないで」
春子は寺井に強く縋りつき、泣き出していた。
「あなたに奥さんが居てもいなくてもいいんです、本当は今日会ったら、新潟行きの話をしてすぐに帰るつもりだったんです。でも会って一緒に歩いていたら、帰りたくない、もっと一緒にいたい、そういう気持ちが強くなって・・・寺井さんに出来るだけ迷惑や負担を掛けない様にします。これでいい、これでいいですか?」
この女性はこんな僕に惚れている。どうしたら彼女の役にたてるのか、いなくなるのが一番良いのだろうが、今はただ彼女を受け入れる、時間が経てば若い相手もできるようになるだろう。中年の正体に覚めるまで傍に居てやれれば、と考え始めた。
朝はもう10度を下回ることもあり、休日は早くても8時を過ぎないと起きない寺井は、布団の中で半分夢を見て後の半分を空想していた。
石を拾っている彼女がいる、広くて大きな川が流れ、灰色の雲がとても低く空を覆っている。川の向こう側は木や緑が多く見えるが、こちらは小さい石が無数にころがっていて、所々穴の開いたような水溜りや池になっている。
彼女は後ろ向きになってしゃがみながら石を選んでいる様で、白い服を上から被って着ている。
「春子・・・春子さん」
何度か呼んでみたが聞こえないようだ。近づこうとしているのだが、体が重く動いてくれない。
「修さん、修さん」
春子の柔らかな声で目が覚めた。
「声を出していたわよ、変な夢でもみたの」
目が合った瞬間、春子は顔を赤らめて下を向いてしまった。
「うん、何か分からない夢で、君を呼んでいた様だったよ」
「そう・・」
そう答えると、朝食の用意をすると言って台所に行った。

コメント
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