「その男性って幾つ位の方かしら」
「そうねえ、50代半ばの感じかな、落ち着いた、会社の管理職か役員の様な、車は確かアウディだったわ」
前澤工業の調査係が見た人物と同じらしい、親密な相手の存在がはっきりしてくるにつれ、何故弥生の父と婚約などしたのか、特別な財産などない普通のサラリーマン家庭のどこに目をつけたのか、久美子には全く理解しがたい千恵子の行動だった。
梅雨だが真夏の様に晴れ上がったその夕方、一番昼が長い今の時期に聖蹟桜ヶ丘に戻ってきたが、まっすぐ帰る気になれず、いろは坂の急な階段を上っていった。
上って左方向に行き、桜ヶ丘東通りに出ると、桜並木の向こうに町並みが見渡せる久美子の好きな場所があり、しばらく佇んで景色を眺めていると、近い将来が見えてくる気がする。
弥生の父の婚約はなくなり、自分は前澤と別れ、この大好きな丘からも離れなければならない。
若い弥生と慎一は交流の可能性も残されているが、あとは皆離ればなれになり、事ある以外会う機会もなくなる。
まだ陽射しがあったが、時計をみると18時を過ぎていたので、急いで自宅に戻ると弥生が夕食の仕度をして待っていた。
「悪いわね、食事の用意をさせてしまって」
「たまには作ってみたかったの、ハンバーグだけど良かった?」
「ええ、美味しそうね、早速頂きましょう」
「お稽古に行って何か分かったの」
「帰りにお弟子さんの一人と一緒になって少し話してきたわ」
「お父さんは再婚できそう?」
「どうかしら、私にはなんとも言えないわね」
「難しそうってことなのね」
「どうなるのかしら」
弥生にもこの話はうまくいきそうにないと感ずるものがあるらしく、もう割り切っている様だ。
ようやく陽が落ちて、桜ヶ丘に涼しい風が吹いてきたが、それが久美子の心へのすきま風となって通り抜けていった。
「そうねえ、50代半ばの感じかな、落ち着いた、会社の管理職か役員の様な、車は確かアウディだったわ」
前澤工業の調査係が見た人物と同じらしい、親密な相手の存在がはっきりしてくるにつれ、何故弥生の父と婚約などしたのか、特別な財産などない普通のサラリーマン家庭のどこに目をつけたのか、久美子には全く理解しがたい千恵子の行動だった。
梅雨だが真夏の様に晴れ上がったその夕方、一番昼が長い今の時期に聖蹟桜ヶ丘に戻ってきたが、まっすぐ帰る気になれず、いろは坂の急な階段を上っていった。
上って左方向に行き、桜ヶ丘東通りに出ると、桜並木の向こうに町並みが見渡せる久美子の好きな場所があり、しばらく佇んで景色を眺めていると、近い将来が見えてくる気がする。
弥生の父の婚約はなくなり、自分は前澤と別れ、この大好きな丘からも離れなければならない。
若い弥生と慎一は交流の可能性も残されているが、あとは皆離ればなれになり、事ある以外会う機会もなくなる。
まだ陽射しがあったが、時計をみると18時を過ぎていたので、急いで自宅に戻ると弥生が夕食の仕度をして待っていた。
「悪いわね、食事の用意をさせてしまって」
「たまには作ってみたかったの、ハンバーグだけど良かった?」
「ええ、美味しそうね、早速頂きましょう」
「お稽古に行って何か分かったの」
「帰りにお弟子さんの一人と一緒になって少し話してきたわ」
「お父さんは再婚できそう?」
「どうかしら、私にはなんとも言えないわね」
「難しそうってことなのね」
「どうなるのかしら」
弥生にもこの話はうまくいきそうにないと感ずるものがあるらしく、もう割り切っている様だ。
ようやく陽が落ちて、桜ヶ丘に涼しい風が吹いてきたが、それが久美子の心へのすきま風となって通り抜けていった。