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武蔵野物語 65

2011-02-26 22:30:05 | 武蔵野物語
黒木と会う話がどんどん進んで、その週の土曜日に、何軒か物件を見せて貰う事にした。
誠二は自宅から比較的近い、吉祥寺から見たくなり、駅近くのカフェで待ち合わせをしたが、一緒に来たがっていた佳子には、断りを入れた。
しょせん嘘をつくわけで、芝居をみせたくなかった。自分の顔写真を携帯で送っておいたので、黒木はすぐに寄ってきた。
想像に近い顔で、眼差しは佳子に似ている。親近感を覚えた。
いわゆる悪党面ではない。
簡単な挨拶をすませると、早速物件を見に出かけた。
井の頭公園の近くから三鷹駅方面を三軒回ったが、どれもいまいちだったので、また後日改めて違う場所を案内して貰うことにした。

国立にしようか、それとも一層聖跡桜ヶ丘に行ってしまおうかとも思った。
桜ヶ丘公園で何度か絵を描いているうちに、ゆりこと会うことになったのだから、それが一番いいのはごまかしようがないのに、遠回りをしている。
翌週、誠二は1人永山駅で降り、聖ヶ丘を目指して歩き出した。
アップダウンは相変わらずどの道もあるが、意外と近く、雨上がりに薄日が差して心地よい。
桜ヶ丘公園まで休まず、一気に歩いて行けた。ゆりこの実家も近くだ。

誠二は結局、佳子に頼もうと思った。
黒木のことを早く知るにはやはり彼女を頼るしかない。
彼女は誠二になついているようなので、喜んで来るだろう。
それから1週間もしないうちに、佳子の方から会いたいとの連絡が入った。
赤坂で待っているという。
待ち合わせのカフェにいってみると、いきたい所があるといって先に立って歩き出した。
坂を上って狭い道を突き当たり、狭いビルの4階まで階段でいった。
重い扉を開けると、中が暗くてよく見えず、誠二は椅子に脚を引っ掛けて転びそうになった。
「大丈夫ですか、暗いから」
「本当ですね、ローソクの灯だけみたいだな」