毎週小説

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フクロウの街 21

2018-05-17 19:19:20 | ヒューマン


村井はちょっと頭を下げたが、相手は気づいていないかも知れない。
一瞬見ただけだが30才位だろうか、並木の中遠ざかっていく後ろ姿が印象的だった。
たぶん独身で朝出勤前に散歩して帰ってからまた散歩、その毎日は自分と一緒で、ペット可の賃貸マンションが近くにできたが、そこに住んでいるのかもしれない。  

成田真由は気になっている事があった。
朝出勤前に愛犬の散歩に行くのだが、同じ位の時間帯にパグを連れた年配の男性によく出会う。
やはり仕事前に連れ出しているようで、足早に川沿いの道を歩いていく。
日曜日はいつもよりゆっくり起きて、それでも7時頃にはジョギングロ―ドの橋にたどり着いた。
陽気がいいので、本格的なマラソン組から高齢者の散歩組まで、多くの人達の活気が溢れている。
橋を反対側に渡り帰り道を歩いていくと、ベンチにパグを乗せておやつを与えている例の男性が目に入った。
「おやつ貰えてよかったわね」
真由はパグの顔を見ながら話かけた。
「まだまだ子供で」
男性はうつむいてポツリ言った。
「何才ですか?」
「ちょうど1才になりました」
「そう、うちのは3才を過ぎて落ち着いていますわ」
「この子も早く落ち着いてくれるといいんだけれど」
「でもよくなついていますね」
「勝ち気な女の子です」
「お名前は?」
「まゆです」
「あら、私と同じ名前だわ・・・成田真由といいます」
「村井修一です、お住まいも近そうですね」
聞いてみたら、やはり村井の住んだいる所から近い賃貸マンションだった。
「女性にトイプードルは1番人気ですね」
「村井さんはパグ派ですか?」
「職場の同僚に押し付けられました」

フクロウの街 20

2018-05-10 16:53:57 | ヒューマン
「調べる方法はありますか?」
「父方の親戚が1人、叔母ですがもう90才を超えているけど、新宿の下落合にいるので久しぶりに行ってみようかな」
村井は話し出した事がきっかけで、ルーツを知るのもいい時だと考えていた。
1人っ子だった小さい頃を思い出しても、学校の行事以外家族揃って出かけた記憶がなかった。

千葉県市川市は村井にとって縁があり、学生時代初恋の相手がいた所で、現在の住みかでもある。
最も仮の1人用で、妻は3年前に家を出て以来音沙汰がない。
娘は妻の実家に引き取られ休日に会いに行くのだが、近頃はお土産を持っていってもあまり喜ばなくなってきた。
現在1人住まいを見越して、同じ事務所の同僚から犬を預かる羽目になってしまった。  
同僚の奥さんが飼い初めたのだが、奥さんが長期入院になり、ともかく預かってくれと強引に連れてきて、5万円置いてさっさと帰っていった。
まだ5ヶ月になったばかりのパグのメスだった。
とても人懐こく村井の部屋にもすぐに馴れ、昼間の留守は殆んど寝て待っている習慣がついていた。
朝4時半起床、5時過ぎに散歩開始、6時に戻り着替えて職場に向かう。
いままでの夜更かしばかりと全く違う生活習慣に戸惑いを感じたが、馴れてくるに連れ朝歩く気持ちよさが増していった。
散歩の時間は朝5時半頃、夜は帰り次第8時から9時頃で、その時間帯に歩くと同じ散歩の人達とよくすれ違う。
土曜日になり6時半過ぎ、いつもの川沿いの道に向かった。
桜並木のジョギングロ―ドで、休日の朝は早くから人が出るが、この時間はまだひっそりとしている。
村井が帰り道につく頃、グレーのトイプードルを連れた女性とたまにすれ違う時がある。
少し疲れたので、川沿いの道にあるベンチに犬と座っていると、左手からその女性が近づいてきた。
前を通り過ぎる時小さな声で、
「おはようございます」と挨拶をして足早に去っていった。