毎週小説

一週間ペースで小説を進めて行きたいと思います

東京の人 73

2016-01-27 06:23:19 | 残雪
善光寺でのお参りが済むと、寺井は直江津に行くと言い出した。
「僕の姉が住んでいるんだよ、直津駅から割と近いけど、きょうはぜひ泊まっていけって、義兄はもう亡くなっていて1人住まいだから」
「でも私・・」
「君の事も大体話してあるから大丈夫、会いたがっているよ」
かおりは新潟への拒否反応から行きたくなかったが、断る理由もなく、従うしかなかった。直江津駅から車で15分程で、新興住宅地の中程にある家に着いた。
周りは平坦で何も見えない。
「久しぶりね、さあ中に入って、かおりさん、よろしくね」
出迎えた寺井の姉純子はとても嬉しそうだった。
「きょう市場で魚買ってきたから」
「お姉さんも変わりない?久美ちゃんは」
娘が1人いて同じ市内に住んでいる。
「2人目が生まれたばかりだから忙がしいのよ」
寺井の姉は、顔は似ていなかったが、体型は背が高く似ていた。
「かおりさん、綺麗ね、やっぱり似ているわ」
「似ているって?」
「私ね、あなたのお母さんに会ったことがあるの」
「母にですか」
「そう、夫の仕事が忙しかった頃にね」
純子の夫は5年前になくなっている。
「夫が仕事関係の接待でよく行ってたのよ」
「そうなんですか」
「私が夫の忘れ物を取りにいった事があってね、その時かおりさんのお母さんと初めてお会いしたけど、なぜか話が合って長い時間お邪魔したのよ」
「どんな話をしたのですか?」
「殆どかおりさんのことばかり」
日頃母はかおりに対して一方的に話すだけで、あまり聞こうとはしなかった。
「そしてね、お父さんの話もでたのよ」
「父のこと?」
かおりがまだ会っていない父について、母は何故急に話だしたのか。
「なんて言ったのですか」
「新潟市のひとで議員だったそうよ」
「その話、いつ頃してたの」
「あなたが東京に行ってすぐだったらしいわ、寂しがってたから」
母はかおりに、父の話は何一つ話していない。

東京の人 72

2014-12-03 09:05:42 | 残雪
「常連さんでね、新潟のひとなんだけど、いろいろ詳しいのよ」
かおりはこの頃夢を見るようになっていた。それも同じ夢で、自分の知らない人が会いに来る、向こうは知っていて親しげにしているが、全く覚えのないひとばかりが来る。これが何日か続くと、さすがに精神が病んでいるのではと不安になってきた。
健康診断も随分やってないから、いい機会だと近くの病院に予約を入れておいた。
土曜日の午前中に全部済ませ、これから何をしようか迷っていると、寺井からのメールが届いた。
一緒に行って貰いたい所があるから近くに居てくれといっている。
市川の茶店で待つことにした。今時珍しい落ち着いた西洋風の家の様な店だった。
「健康診断どうだった?」
「結果待ちだけど、内科は問題ないみたいよ」
「疲れが出ているんだよ、今度旅行にいこうか」
「旅行ってどこに行くの?」
「長野だけど」
「知り合いでもいるの?」
「以前親戚が新潟の妙高高原にいてね、善光寺にも連れてってくれたけど、また行ってみたくなったんだ」
かおりはあまり気乗りがしなかったが、故郷と違って気楽だからいいと思い直した。

善光寺は都心から行きやすいので訪れるひとも多いが、参道の店は蔵を改装した
レストランができていたり、様変わりも見せている。
かおりは故郷の温泉地にいたころは、ほとんど外出したことがなく、旅行に行った記憶はなかった。
寺井と2人で歩いてみると、中途半端な気持ちが増すばかりで憂鬱になってきた。
お参りを済ませ野菜専門のレストランで昼食を取ると、もう帰りたい気持ちが強くなり、寺井の話を聞き流していると、母の言葉が浮かんできた。
「お世話になっているひとを大事に、うまくつき合いなさい」
父の顔を知らないかおりは、いつも母が違う男に気を使って生きてきたのを、あたりまえにみて育った。
「これからどうするの」
「直江津までいってみないか?」

東京の人 71

2014-05-14 21:15:05 | 残雪
月曜の夜もかおりは仕事で夕方に出掛けたが、体全体がだるく全く気乗りがしなかった。
昨夜はどうなってもいいと思っていたのだが、際どいところで寺井は疲れていたのか眠ってしまい、朝起きてみると、早出だから出掛けるとメモが置いてあった。
いいかげんな男だと呆れた気にはなるが、居ないとどうしようもない寂しさに襲われる。早く独立したいのと裏腹な行動に、自身でもうんざりしながら店に入ると、藤代が早々と来ていた。
「かおりさんお帰り、新潟のお母さんどうでした?」
「ええ、大丈夫です、思っていたよりも元気そうで」
「そう、それなら良かった、あそこは僕の父も仕事で利用している所だから」
「そうなんですってね、私母から聞いたんです」
かおりが聞く前に藤代から話し出してくるのは作為的だな、と警戒心が強くなった。
「いまは不動産がメインなんだけど、いろいろな仕事をしてきたので、何でも聞いてくれれば喜びますよ」
「母が喜んでいました」
「かおりさん今度帰る時は教えてね、僕も戻る用事があるんだ」
「お仕事で?」
「いやそうでもないんだけど、いろいろあって」
かおりからみた藤代は、親に頼って遊んでいるヨタのひとりに過ぎなかった。
「僕ね、船橋のライブハウスにも時々行くけど、新しくオープンした店があって、小さいけどいい店だから今度行きませんか」
「船橋ですか」
「誰か友達を誘って一緒に」
「そうねえ」
親しく話せる相手はまだいないので、行くのなら寺井に頼むしかない。
帰ってみると、夜食の用意がしてあった。 
「作ってくれたの」
「うん、早く帰れたからね」
寺井は目が合わない様にして話している。
「ねえ、船橋って詳しいのでしょう?」
「友人がいて、よく行ってたよ」
「津田沼に新しいライブハウスが出来たって」
「ああ、津田沼で初めてだってチラシを見たことがある」
「今度連れて行ってよ」
「知り合いがいるの?」

東京の人 70

2014-04-10 10:35:08 | 残雪
「私に?」
「そうなんだ」
寺井はかおりの目を見て笑った。
「かおりさんのお客さんに新潟の人がいたよね?」
「あの、藤代さんのこと」
「その人十日町の生まれじゃない?」
母と同じことを言っている。
「何で知っているの」
「仕事関係だけど、彼のお父さんが不動産の仕事をしていて、なかなかやり手らしいよ」
「そうなの」
「ところがよくない噂もあってね、お年寄りの持っている土地を安く買い上げて儲けているんだって」
「母も査定をしてもらったそうよ」
寺井は、かおりが店を休んだ時をみはからって、何度か店に顔を出していた。
夜の仕事は誘惑も多いから、確かめておきたかったのだ。
店に通う内、藤代の行動も間接的にだがみえてきて、どうも最初から仕掛けてきているのではないかとの疑いが強くなってきた。
「今度藤代さんが来たとき連絡くれないかな」
「いいけど、あのひとと話すのですか」
「いやちょっと見て置くだけだよ」
「いい方ですよ」
「いや、そうだと思うけど、お父さんのことが気になってね」
「お父さんとは別でしょう」
「そうだね・・いや、僕のいいが方悪かった」  
かおりは何で寺井がこだわるのか、理解に苦しんだ。

話が途切れて、明日の仕事も気になり、早めに寝ることにした。
かおりはしかし目が冴えて眠れず、寝返りをうとうとすると、寺井の手が自然と自分の下半身に触れてきた。それはいままでにない快感だった。
そのまま拒否するでもなくじっとしていると、だんだんとなかに迫ってくるのを感じ、高ぶっていった。
声が出そうになるのを我慢していると、寺井がより大胆になってくるので、反対側を向いて離れようしたが、止めようとしない。
パジャマの中まで手が延びてきたので、拒否しようとしたが、体が痺れて動けない。
息が喘ぎ始め、彼の動きに合わせるように体も反応し始めている。     
下着もずらされて、体が露出してきた。

東京の人 69

2014-03-26 12:37:10 | 残雪
「お母さん、知っているの?」
「ええ・・まあね」
「どういう」
「藤代さん、お父さんだけど、仕事の関係でよくここの温泉に来るのよ、なかなかやり手でね、今は不動産の仕事をしているよ」
「お母さんもお世話になっているんじゃないの?」
「そんなことないわよ、私の土地の査定を頼んだりはしたけど」
「世話になっているじゃない」
「違うわ、実はこの間入院してね、検査入院だけど、その時知り合いの病院も紹介して貰ったのよ」
「どこが悪かったの?」
「まだわからないけど、すごく疲れてたから休めば直るわ」
かおりの母は仕事熱心で、1年中働きずめだったのを、かおりは思いだしていた。
中居の仕事だけでなく、時には芸者の変わりを勤めさせられることもよくあった。

かおりは早く東京に戻りたかった。
この頃の寺井が気になって、自分から離れたがっていて、いない間にどこかにいってしまっているのではないかと思うと、落ち着けなかった。
春子の元に戻り、元気なく黙って座った。
「かおりさんのお母さん、この頃は私ともあまり話さなくなって、あなたのことばかり呟いているのよ、羨ましかったわ、私の母はだいぶ前に亡くなってるから」
「そうでしたね・・あの、春子さんのお父さんはご健在なんですか?」
「お父さんねぇ・・私かおりさんをとても身近に感じるのも、似た境遇だったからなのかなと考えているの」
かおりは父を全く知らない。物心ついた時から、父の話は誰も口に出さない空気が満ちていて、聴くことはできなかった。
春子もまた、そうした環境の中で育ったのだ。
結局かおりの母は、検査の結果待ちなので、かおりは翌日東京に戻ることにした。
夕方着いてみると、寺井は留守で書き置きもなかった。
夕飯はカレ-にして帰りを待っていると、20時過ぎに帰ってきた。
「何処いってたの?」
「ちょっと調べる事があってね」
「何を?」
「君に関係あるんだ」

東京の人 68

2014-03-08 10:03:12 | 残雪
かおりは故郷に戻ってきた。もう何年も経っている気がする。
出てきた時と何も変わらない止まっている時間、立ち止まっていても誰ともすれ違わない昼下がり、澄んだ空、その空気の中を遠くから掴む様な視線を感じさせる春子が待っていた。
「どう?うまくいってる」
「ええ、まあ・・」
何と答えていいのか分からなかった。
「そう、それならよかったわ」
隣に並んで微笑みかけてくる彼女は、全くの別人にみえた。
「かおりちゃんのお母さんね、この頃誰とも話さなくなってね、時々あの子はどこって、あなたを探してばかりいるの」
「昔からそうなんです、わがままだから・・子供の私にお客さんを呼びに行かせるようなひとですから」
「でもとにかく会いにいきましょう」
春子に促されては、かおりは何も言う事ができなかった。
母と久々に会ってみても、特に感じるものはなかった。母も以前と全く変わらない。
「何しに帰ってきたの、東京でうまくいってないのかい?」
「そんなことないよ・・春子さんに会う用事もあったから」
「春子さん、あのひとの事はどうなっているの」
寺井を気にしている。
「別に何も、随分面倒をかけてしまってるけど」
「春子さんの言うことをちゃんと聞いているんだろうね」
「迷惑をかけたりしていないわ」
「そうかい、うまくやっていけるのかい」
「できれば、早く独立した方がいいんだけど」
「それは、春子さんが望んでいればだけどね」
「そんなこと、お母さんに関係ないでしょう」
「私は、あんたをあの方々に譲ったのだから」
「そんな言い方はやめてよ・・私にだって男の友達位いるんだから」
「東京の男かい?」
「違うわ、同じ新潟のひとよ」
「もう仲良くなったのかい」
「変な言い方しないで」
「何て名前」
「藤代さん」
「藤代・・そのひと十日町の人じゃない?」

東京の人 67

2013-06-01 15:13:30 | 残雪
かおりはいままでと全く違う、いわゆる夜の仕事なのでためらいはあったが、実際に勤めてみると昼より時間はずっと短かく、その割に収入はあまり変わらなかったので、随分得した気分になった。
暇な日は演奏をゆっくり楽しむ事もできる。他の従業員も皆親切で居心地がよかった。
そうして馴れた日に、藤代がひょっこり現れた。
彼には伝えてなかったのだが、バイト仲間に聞き回ったのだろう。
「よくわかったわね」
「ひどいよ、教えてくれないんだから」
「だってこういう世界だから」
「前の職場に問題でもあったの?」
「そうじゃないけど」
そうやって繋がっていくのが嫌なの、と断ち切りたかった。
藤代は閉店近くまで居てしつこく誘ってきたが、何とか断って帰ってみると、寺井が真剣な顔で待っていた。
「かおりちゃんのお母さんがね、具合悪そうなんだよ」
「でも何かあれば私のケータイに連絡がくるわ」
「いや、そう深刻でもなさそうなんだけど、さっき春子から珍しく電話があって、近いうちに戻ってこれないかっていってきたんだ」
「そう・・春子さんが」
かおりは、春子が連絡してくるくらいだから、きっと心配事があるのだろうと迷っていると、
「店の方は僕がちゃんと話しておくから、できるだけ早く戻ったら」
と後押ししてくれたので、久々に帰る事にした。

新幹線に乗り、トンネルを越え、馴染みの山々を望むと、一気にいままで20年暮らしてきた故郷での生活が全身に押し寄せて、いや襲いかかってくるのをとても受けきれない自分が恨めしかった。
普通に家族のある人々からみれば、とても懐かしいとはいえない幼少の頃からの生活、母に付いて日曜の昼も夜も仕事先で待ち、夜の酔客に同情され可愛がられた経験しかなく、男の姿はそのまま父のイメージになり、仮にいま会えたとしても何の感情も浮かんできそうになかった。

東京の人 66

2013-02-02 22:47:32 | 残雪
かおりはいまの職場に不満はないが、違う勤め先を探してもいた。
周りの人達と仲良くなるにつれ、自分の生い立ちや環境を知られるのが負担になり、今までもそうだったように、1人でいるのが一番安心していられる、殻に閉じこもる生活に戻りたかった。
アルバイトに来ている同じ年の仕事仲間から、夜のライブハウスでウエイトレスを募集している、と教えてくれた。
四谷にある、もう40年以上も続いている老舗だそうだ。
あまり大勢いる組織の中では働きたくなかったので、不安はあったが、寺井に内緒で面接を受けにいった。
四谷交差点を新宿方向に歩いて左側に入ると、若葉町の住宅街になり、その一角にある小さな店で、見つけにくい場所にあった。
ためらいながら店のドアを開けると、中は20人も入れるか位の狭さだったが、不思議と気持ちが落ち着く空間で、第一印象は悪くなかった。
結局その場で、来週から出勤する事で契約をした。
寺井が知ったら反対する可能性が高いと思ったからだ。
かおりは寺井に惹かれながら、反発する気持ちが同時に起こっていた。
春子とのことは大体分かっている。
でも一緒に暮らしていると擬似夫婦みたいな形になり、寺井も願っているかのような、際どい夜も何度かあった。
しかしその先には進んでいかない。
かおりはいつそうなってもいいように心構えは出来ていたが、寺井は相変わらずいいかげんなままだ。
一層のこと、本当に独立しようと考えるものの、まだ自信はなかった。
寺井に頼りきりの自分が情けなく悔しかったが、本当に別れるつもりはまだないのだ。
「私、来週から、違う仕事をするの」
「違う仕事って・・もう決めてきたの?」
「ええ」
「そう、いまのところで何かあったの?」
「そうじゃないの・・ただやりたいなって思って」
寺井は、かおりが自分の意思で決めた事に反対はできなかった。

東京の人 65

2010-08-09 20:09:29 | 残雪
かおりの職場にアルバイトは多くいるが、その中に藤代という25才の男性がいる。
おとなしく目立たないが、仕事はとてもよく出来て、遅刻も全くないので評判がよかった。
その藤代が、この頃何かにつけては、かおりの傍にきて話し込んでいく。
かおりは、はじめのうちは避けていたが、人柄のよさが感じられると共に打ち解けていった。
お盆休みの前に懇親会が開かれることになり、アルバイトもほぼ全員出席した。
寺井はトラブル処理に時間が掛かるため、今回は欠席になった。
社員の方は少なかったので、近くの居酒屋で気楽に飲む会となり、かおりの隣りに藤代が座った。
「藤代さんは、どこの出身なの?」
「僕は新潟の、十日町市なんです」
「あら、そう・・私は阿賀野市なんですけれど」
「高校を卒業するまでいました」
「それで、東京に出てきたの?」
「はい、大学を卒業して、それからいろいろ働いて、いまはまだアルバイトです」
やはり、就職難の厳しさが表れている。
かおりは、自分も資格を取る勉強を続けながら、寺井の配慮で何とか仕事もこなしているが、どちらも中途半端になりがちで、迷いも出始めたこの頃だ。

懇親会以降、藤代は積極的にかおりを誘い、昼食を一緒に行くことが多くなり、そうなると周りは遠慮してくるので、二人きりになる。
お似合いだ、と思われているらしい。
かおりは、同県人で話題や考え方が似ているので、いると楽しかったが、それ以上は望みたくなかった。
自分には、見せたくない部分が、普通に暮らしている人達よりは、少し多い気がする。
いや絶対に多い。
だから、若い世代を意識して避けてきた。家族の面倒をみているのが、一番安心できる逃げ道だったのだ。
でも藤代の出現で、感情だけで行動する、未経験の入り口に立ち止まって思案している、その行為自体に、後ろめたい心地よさがあった。

東京の人 64

2010-07-24 19:03:34 | 残雪
翌日の夕方、かおりはお土産を両手に抱えて戻ってきた。
京子には、2日位遅れそうだとメールを打っておいた。
「新潟の皆さんは変わりなかった?」
「ええ、春子さんも元気でいるからよろしく、と言ってました」
かおりは相変わらず、あまり話したがらない。
「昨日ね、京子さんがいっている錦糸町の店に呼ばれて、仕方なく寄ってきたよ」
「そういえば、錦糸町の方が給料がいいからって聞いてたけど、今度はクラブなんでしょう」
「まあ、ミニクラブだね」
「夜の勤めは当分やらないっていってたんだから、違う仕事を探したらいいのに」
「好きでやめられないんだから、カラオケなんかプロみたいだったよ」
かおりはいつもと変わらない。
京子の、あの意識の変化は何なんだろう。

それから一週間過ぎたが、京子からの連絡はなかった。
寺井はクラブに電話を入れてみたが、大事な用があるとかで、ここ3日急に休んでしまい、店も困っているとの返事だった。
結局、かおりに連絡があったのは土曜の夜で、明日行く、とだけ言ってすぐに切ってしまった。
そして日曜の昼前、当り前のように遊びにきた。
「連絡遅れてごめんなさい、急用だったものだから」
「どこに行っていたの?」
「長岡よ」
「あら、あなたも新潟だったの」
「そう、知り合いに会わないように隠れて行動していたから、結構疲れちゃった」
かおりは近くにお昼の買い物に出かけたが、その間、京子は寺井になんだかんだと聞いてくる。それなのに、お昼を一緒に食べている時は、当たり障りのない話しかしない。
結局とり止めのない世間話だけで帰ってしまった。
「何か相談にきたのかと思ってたよ」
「私がいない時、何か話した?」
「いや、特に」
「あのこ、この頃変なのよ、私を避けているようで、でも探っているような」
「君もそう思ってたの、僕もだよ」