じゃっくり

日常をひたすら記すブログ

hand in hand

2006年04月21日 | 雑記
左手の甲の、袖に少し隠れるくらいの場所に黒文字で何かが書かれていた。「りゅうせいぐん」「そばにいて」「ソメイヨシノ」「miss you」「らくえん」。「ゆびわ」それらは今日カラオケで歌う予定の歌だった。

 すみれこさんと再会した。車のドアを開けて出てくるだけの動作だが、それはすっかりモデルの動きであった。早くもドギマギしてしまう。
 地元の公園である打吹公園を歩いた。桜はもうほとんど散ってしまったが、茶屋の傍にまだ少しだが残っていたので、そこですみれこさんをモデルに写真を撮る。構図も考えず撮ったので、本人には悪いのかもしれない。
 手足が細くて顔が小さいというのは、モデルになる条件かもしれないが、すみれこさんにはさらにプラスして、存在感がある。彼女の写真を見てもらったら分かるが、何かを訴えてくるような、主張しているような気がするのだ。僕は恥ずかしさと緊張で、なかなか彼女の顔を見ることができなかった。

 左腕を何かが触る。「うわっ」と僕は声に出して驚いてしまった。すみれこさんが手を組んできたのだった。そのときの僕の慌てぶりはなかなかのもので、瞬間的に混乱してしまったが、「お願いします」と左腕を自由にさせる。
 女性と腕を組んだのは、はじめてだった。

 白壁土蔵郡周辺のカフェに入る。「石うすコーヒー」を注文する。自分たちで実際にコーヒー豆を挽く体験ができるのだ。うすをごりごりと回していくと、上下の丸石の隙間から挽かれた粉が出てくる。自分たちで実際に挽いたものだからか、めっぽうおいしく感じた。

 何を思ったか、カラオケではいきなり最初に歌う予定のないケツメイシの「さくら」を歌ってしまった。その前に観たさくらがよほど印象的だったのか。歌い終わり、二人分が座れる椅子に腰掛けると、距離が狭まる。どうもカップル用の部屋らしい。
 すみれこさんはムラマサ☆やELTの曲を歌った。しかし、僕が一番聴き入ったのは、坂本龍一と中谷美紀がコラボレーションした「砂の果実」だった。この歌はどことなく退廃的な雰囲気がある。それが、彼女は怒るかもしれないが、すみれこさんと妙にマッチしている。すみれこさんは古い家屋、それも廃墟と言ってもいいような場所での撮影がよくある。そこから僕は「暗」をどうしても感じてしまう。「暗」を演じるのが、とても上手。
 すみれこさんは僕の中で、けだるくて、暗くて、落ち着いたイメージがある。それに合うような曲をセレクトした。
 「ソメイヨシノ」はさくらの時期と合うために歌ったというのが大きいが、歌詞に「墜落した」「マイナス」などの語句があるのに注目した。
 「流星群」は、鬼束ちひろの歌で、これまたすみれこさんに合っているように思える。
 「そばにいて」はかなりの主観が入っているかもしれないが、それはここには詳しくは書かないことにする。
 「楽園」は平井堅の中でも一番好きな曲だ。全体に漂う、退廃的で終末的な雰囲気がすみれこさんと合っているように感じるのだが、どうだろう。
 「Missin' you ~It will break my heart~」も平井堅の曲であるが、今回実は一番力を入れた曲だ。背景には9.11テロに向けた思いが込められている。「冬の空へと還る」などに見て取ることができる。歌っている途中、致命的なミスをしてしまい、台無しになってしまった。もうちょっと練習しなくてはいけない。
 「指輪」は結婚式ソングだ。ちょっとくさくなってしまうが、すみれこさんとその相手の幸せを願う歌でもある。「死」が混じっている歌詞に注目したい。
 すみれこさんは視力が悪いらしく、TVの前でテロップをじっと見つめながら歌っていた。なので、僕は後姿しか見ることができなかった。ひたすら細く、紺のハイソックスにどうしても目がいってしまう。いろいろな欲望が自分の中で戦っていた。
 そんなこんなでカラオケは終わった。緊張、緊張。

 その後、コーヒーを買って足湯がある駐車場に辿りついた。車から降りて足湯までに向かう途中、すみれこさんが指を絡ませてきた。ちょうど祈るときに左右の指を絡ます動作が、上下反転したような格好だ。僕はつばをごくっと飲み込まざるを得なかった。
 足湯でハプニング。湯の温度調整ができていないらしく、かなり熱くなっており、足を浸けることさえままならない。今日は人が少ないなと思っていたが、そういうことだったのか。僕とすみれこさんはつま先やかかとをつけては、あついあついと言いながら、しばらくそこに留まっていた。
 風が吹いてすみれこさんの長髪を揺らし、それが僕にも少し被さる。足先はとても熱かったが、上半身は寒かった。しばらくすると、風に加え、雨も降ってきた。もう僕ら以外に人はいない。あいかわらず、二人は脚をぱたぱた上下に動かしながら、ぽつりぽつりと話し合っていた。

 その後、名残惜しくもすみれこさんと別れた。

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