枡野浩一

わけもなく家出したくてたまらない 一人暮らしの部屋にいるのに　

山田 航

靴紐を結ぶべく身を屈めれば 全ての場所がスタートライン

河野裕子

たんぽぽのぽぽのあたりをそっと撫で 入り日は小さき光を収(しま)ふ

河野裕子

振り向けば なくなりそうな 追憶の ゆうやみにさく いちめんのなのはな

佐佐木幸綱

川が流れて俺が流れて流されて今日を区切りの花束浮かす

枡野浩一

こんなにもふざけたきょうがある以上どんなあすでもありうるだろう　　

安永蕗子

ひとの世に混り来てなほうつくしき無紋の蝶が路次に入りゆく

与謝野 晶子

恋人と もの云ふ如く 立ちながら 手ずさびに引く 青柳の糸

芥川 龍之介

いととほき 花桐の香のそことなく おとづれくるを いかにせましや　

西行

世の憂きに引かるる人はあやめ草 心の根なき心地こそすれ　

笠郎女(かさのいらつめ)

夕されば物思ひまさる見し人の言とふ姿面影にして

笠郎女(かさのいらつめ)

皆人を寝よとの鐘は打つなれど君をし思へば寐ねかてぬかも

大伴 家持

一本のなでしこ植ゑしその心 誰れに見せむと思ひそめけむ

大伴家持

山吹をやどに植ゑては見るごとに思ひはやまず恋こそまされ

若山 牧水

さし出でて池の上に咲く躑躅の花水にうつりて深きくれなゐ