荻原 裕幸

桃がゆつくりぼくのからだにふりそそぐ夕暮である迷路でもある

浜田 到

白昼の星のひかりにのみ開く扉（ドア）、天使住居街に夏こもるかな

荒井 直子

風があまりに強くて顔をあげられない 常に前を見てなんかいられない

角宮 悦子

いかなるもの括り終へしか 灰色の空に荒縄が揺れてゐる

荒井 直子

反論をすればよかった　書庫に行く途中返すべき言葉思いつく

角宮悦子

乾ききる土葬墓地から人間のまなこを嵌めて野良犬が来る

枡野 浩一

くさくさとしているときは
ぐさぐさとしたくなるから
くうくう寝ます

安永 蕗子

もろともに草の峠をわたるとぞはかなけれども凌駕のひとつ

浜田 到

このごろの日暮れおもえば遠天を あじさいいろのふねながれゆく

浜田 到

　風にうごく窓は閉ぢ忘れられし思考にて 深夜の黒き蝶の形せり

浜田 到

孤り聴く＜北＞てふ言葉 としつきの繁みの中に母のごとしも

安永 蕗子

何ものの声到るとも思はぬに 星に向き北に向き耳冴ゆる

窪田 空穂

来ては倚る 若葉の蔭や 鳥啼きて 鳥啼きやみて 静寂（しゞま）にかへる

寺山修司

わが撃ちし鳥は拾はで帰るなりもはや飛ばざるものは妬まぬ

加藤知恵

真実や そうじゃないこと なんだっていいから君と話がしたい