陽成院

つくばねの峰より落つるみなの川 こひぞつもりて淵となりぬる

寺山 修司

悲しみは一つの果実 てのひらの上に熟れつつ手渡しもせず

和泉式部

晴れずのみ 物ぞかなしき秋霧(あきぎり)は 心のうちに立つにやあるらむ

土岐 善麿

じめじめと　この泥濘路（ぬかるみ）の くらやみに、人間住めり、何にも知らず。

北原 白秋

…久々に相見し父と湯をかかりて…

父の背に 石鹸（シャボン）つけつつ 母のこと 吾が訊（き）いている 月夜こほろぎ

与謝野 晶子

　はかなきは 恋することの つたなさの 昔も今も ことならぬこと
　


　

　

藤原俊成女（ふじわらのとしなりのむすめ） 新古今集より

下もえに思ひ消えなむ煙だに跡なき雲のはてぞかなしき

岡本 かの子

　わが頭の大きさなどをはかりたり わが強情を もてあましつつ

永田 和宏

水面に鳥肌立てり雨降ればとおきこころを一つの傘に

永田 和宏

なにげなき ことばなりしが よみがえり あかつき暗き 吃水を越ゆ

竹山広

傷軽きを頼られてこころ慄(ふる)ふのみ 松山燃ゆ山里燃る浦上天主堂燃ゆ

永田 和宏

あきらめて優しくわれはあるものを やさしくあれば人はやすらう

龍翔

ひたすらにドレミの歌を繰り返す　サンドバッグを蹴り上げながら

廣野 翔一

追憶の度現れるビルがある いつも逆光に消えてしまうが

吉田 隼人

燃えおつるせつなの紙の態(すがた)して百合咲きてあり燃えおちざりき