初井 しづ枝

忙しくをれば聞えて除夜の夜の雫のごとき清き鐘の音

石川 啄木

大海(たいかい)に うかべる白き水鳥の 一羽は死なず 幾億年も

石川 啄木

永遠(とこしへ)に まろぶことなき佳き独楽(こま)を われ作らむと大木(たいぼく)を伐る

澤村 斉美

カレンダーの筒にあああと言ってみる筒の向かうの曇った日々へ

紀野 恵

（あはぬこひあふこひあふてあはぬこひ）
　　不逢恋逢恋逢不逢恋
　　　　　　　　　　ゆめゆめわれをゆめな忘れそ　　　

前川 佐美雄

からからと深夜にわれは笑ひたり たしかにこれはまだ生きている

藤原 定家

おとたえずあられふりおくささのはのはらはぬそでをなにぬらすらむ

山崎 方代

かぎりなき雨の中なる一本の雨すら土を輝きて打つ

若山 牧水

浪、浪、浪、沖に居る浪、岸の浪、やよ待てわれも山降りて行かむ

若山 牧水

海よ揺れよ 詩人のいのちは汝より つねに鮮やかに悲しみて居り　　　　　

若山牧水

けふもまた こころの鉦をうち鳴らし うち鳴らしつつ あくがれて行く　　　　　

山崎 方代

こんなところに釘が一本打たれいていじればほとりと落ちてしもうた

山崎方代

甲州の柿はなさけが深くして女のようにあかくて渋い

中山 琴主

二つ緒の 八雲の琴に 神の世の しらべを移し伝え来にけり

北原白秋

桔梗(きちかう)は ひと花ながら 傍歩(わきあり)く 雀の素足 すずしくかろし