山の天気予報

ヤマテンからのお知らせや写真投稿などを行います。

猪熊隆之の観天望気講座159

2020-08-03 20:58:53 | 観天望気

霧ヶ峰空見ハイキングでの天候判断partⅡ ~午後から雷雲が発生する?~

前回に続き、「霧ヶ峰の空見ハイキング」の天候判断について書きたいと思います。前回は、天気図から登山前に行った天候判断についての記載でしたが、今回は登山中に見られた雲からの判断、つまり観天望気(かんてんぼうき、雲や風からその後の天候を予想する技術)についてです。

ハイキング2日目の7月19日(日)は、1日目と日程を入れ替えてヒュッテみさやまから車山の山頂に向かう計画に変更しました。このコースは、前半は樹林帯ですが、途中からは草原状の尾根を歩く形になります。したがって、想定される気象リスクは、1.風雨による低体温症 2.落雷 ということになります。今回は天気図から1の可能性はほとんどありませんでしたので、2の落雷が起きるような気象条件になるかどうかが問題でした。

落雷や強雨は、積乱雲(せきらんうん、別名雷雲)と呼ばれる雲で発生します。この雲は、わた雲(写真3)がやる気を出して(成長して)入道雲(写真1)となり、さらにやる気を出してできる雲です(写真2)。雲がやる気を出す条件については、jRO“雲から山の天気を学ぼう10回” https://www.sangakujro.com/%E9%9B%B2%E3%81%8B%E3%82%89%E5%B1%B1%E3%81%AE%E5%A4%A9%E6%B0%97%E3%82%92%E5%AD%A6%E3%81%BC%E3%81%86%EF%BC%88%E7%AC%AC10%E5%9B%9E%EF%BC%89/ をご覧ください。

この日の出発時(8時30分頃)、東の方角に入道雲が見られました(写真1)。

写真1 “ヒュッテみさやま”から東の方角を見た空

雲の底は暗い色になっており、高さはまだそれほどではありませんが、この時間としては、雲はやる気を出している感じです。雲は地上付近と、上空との温度差が大きくなるほどやる気を出して、上へ上へと成長していきます。朝のうちは地上付近の気温が低いので上空との気温差が小さく、あまりやる気を出せませんが、日中は気温がどんどん上昇していくため、やる気を出していき、午後になると地上付近が熱されて上空との気温差が大きくなるため、やる気を出して成長していきます。

写真2 入道雲がさらに成長し、雷雲に発達

朝のうちから雲がやる気を出しているときは、午後にはもっとやる気を出してしまい、雷や強雨をもたらす積乱雲に成長する可能性が高いのです。一般的に午前9時より前に、写真1のように、入道雲が成長してきているときは、午後から雷雨になりやすいと言えます。

しかし、このとき、私は午後から雷雨になる可能性は低いと見ていました。それは、高度約5,800m付近にある冷たい空気が日中は次第に抜けていく予想だったためです。上空に冷たい空気が入ると、地面付近との温度差が大きくなり、雲はやる気を出していきますが、反対に上空に温かい空気が入ってくると、地上付近との温度差が小さくなり、雲がやる気を出せないからです。

図1 7月19日(登山2日目)午前9時の5,800m付近の気温予想図

図2 7月19日(登山2日目)午後3時の5,800m付近の気温予想図

図1と図2をご覧いただくと、午前9時には霧ヶ峰付近(△印)は、マイナス6℃以下の中に入っていますが、午後3時になると抜けています。上空の気温が上がるということは、地上との温度差が小さくなり、雲がやる気を出せなくなります。

予想通り、午後になって雲はむしろ、やる気を失って入道雲はわた雲(積雲)に衰弱していきました(写真2)。

写真3 車山山頂から見られたわた雲(積雲)

このように、天気図と観天望気を併せて利用することで、今後の気象リスクを想定することができます。

さらに実践的な内容については以下の講座をご覧ください。

jRO“雲から山の天気を学ぼう39回「丹沢・鍋割山での落雷事故」

https://www.sangakujro.com/%e8%90%bd%e9%9b%b7%e3%82%84%e5%bc%b7%e9%9b%a8%e3%82%92%e4%ba%88%e6%83%b3%e3%81%97%e3%82%88%e3%81%86part%e2%85%a1%ef%bc%88%e7%ac%ac39%e5%9b%9e%ef%bc%89/

猪熊隆之の観天望気講座132回「天気図、雲から落雷、強雨を予想しよう前編」

https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/8c5c72e621dacb03809863c923ff4c71

猪熊隆之の観天望気講座133回「天気図、雲から落雷、強雨を予想しよう後編」

https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/80881da68c1ee738abb8dfc3df1b18a2

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

猪熊隆之の観天望気講座158

2020-08-03 20:58:35 | 観天望気

霧ヶ峰空見ハイキングでの天候判断partⅠ ~天気を予想して快適、安全登山~

今回は、旅行会社とヤマテンとのタイアップ企画「霧ヶ峰の空見ハイキング」の際に行った私の天候判断について書かせていただきます。

このツアーは、ヒュッテみさやまに宿泊する(新型コロナ感染症対策のため、貸し切り)1泊2日の行程です。当初の予定では初日に、車山高原スキー場からリフトで山頂近くまで上がり、車山からニッコウキスゲの群落が美しい尾根を経由してヒュッテみさやまへ歩き、2日目に八島ヶ原湿原、山彦尾根を経由して車山の肩に向かう行程でした。

しかしながら、初日に茅野駅から出発した時点で日程を変更することにしました。具体的には、初日に八島ヶ湿原をハイキングして物見の岩まで往復し、翌日にヒュッテみさやまから、苔むした美しい樹林帯を抜けて、ニッコウキスゲの群落がある草原を抜け、車山山頂に向かうプランです。ツアープランを修正した理由は以下の通りです。

  • 2日目は青空や陽射しが期待できそう。晴れているときに、ニッコウキスゲ咲く草原の景色を見ていただきたい
  • 1日目は車山より八島ヶ原湿原の方が雨が弱く、落雷のリスクも小さい
  • 1日目の午後は、14時過ぎには雨がやみ、遅くなると晴れてくる可能性もある ので、15時頃、展望の良い場所に到着する方が景色が楽しめる可能性が高い
  • 雨の中、リフトに乗りたくない(笑)

このような判断にいたった理由を天気図から見ていきましょう。

図1 ツアー初日(18日)午前6時の地上天気図

この日は、山麓(茅野市)では朝はどんよりとした曇り空だったのが、次第に雲が切れていき、陽射しが出る時間もありました。朝の天気図(図1)を見ると、梅雨前線が関東から九州の南海上に停滞し、紀伊半島沖を低気圧が東へ進んでいます。この影響で関東から東海地方の沿岸は天気が崩れるものの、前線から離れた霧ヶ峰(△印)や茅野市付近では、午前11時頃までは天気の崩れは小さくなりました。

図2 18日21時の地上天気図

一方、夜の予想天気図(図2)を見てみると、佐渡沖に低気圧があります。低気圧を取り囲む等圧線は1つのみで、前線も伴っていません。このように、前線を伴わない小さな低気圧が海上、または日本列島にあるときは、上空に寒気を伴った低気圧である可能性が高いです。上空に寒気が入ると、大気が不安定となり、低気圧の周辺、特に南東側では雲がやる気を出して、積乱雲(雷雲)が発達しやすくなります。

6時の天気図では、この低気圧は描かれていませんが、日本海の西部に隠れています。これが昼頃、能登半島沖を通過し、霧ヶ峰(△印)が低気圧の南東側に入りました。実際、11時頃茅野駅を出発するときから雨が降り出し、途中、雨脚がかなり強まりました。しかしながら、車山を過ぎて八島ヶ原湿原に近づくと、雨は小降りになりました。

ツアープランを修正した理由の2番目に、「1日目は車山より八島ヶ原湿原の方が雨が弱く、落雷のリスクも小さい」というものがありましたが、その通りになった訳です。その理由は、地形と風向きにあります。

図3 上空1,500m付近の風予想図(18日午前9時)

これはヤマテンの「山の天気予報」専門・高層天気図のひとつ、上空1,500m付近の風と気温を予想した図です。風向きと風の強さの見方は図4をご参照ください。霧ヶ峰(△印)付近の風向は南南東です。

図4 風向きと風の強さ

南南東~南東の風が吹くときは、八ヶ岳と入笠山から守屋山に延びる尾根との間の谷間を風が通り抜けていきます。基本的に、山では海側から風が吹くときに、海からの湿った空気が山の斜面に沿って上昇して雲を発生させますが、海から遠い、この辺りの山でも大きな川や谷に沿って、海からの湿った空気が入ってくることがあります。特に、夏や梅雨の時期は水蒸気が多いので、そのような傾向があります。地図を見ますと、この南東風は、八ヶ岳の西麓で諏訪湖方面に行くものと、谷に沿って車山方面に向かうものとに分かれます。この風が車山の斜面に沿って上昇し、雲を発生させます。しかしながら、車山を越えると、山越えの下降気流になるため、雲は弱まっていきます。また、湿った空気が車山などで遮られることもあり、車山の北西側にあたる八島ヶ原湿原では、車山より天気が良くなる訳です(写真1)。

写真1 南東方向からの湿った空気が車山を越えて下降していくと、雲が消えていく様子

図5 車山周辺の地図(Google Mapより)

さて、ツアープランを変更した3番目の理由「午後遅くなると天気が回復する可能性がある」と判断したのはなぜでしょうか?

ひとつには、先ほど説明したように、お昼頃、上空に寒気を伴った低気圧が霧ヶ峰の北西側に達するため、“雲がやる気を出しやすい(つまり、発達しやすい)”こと、そしてもうひとつは、温かく湿った空気がお昼頃に入ってきて、夕方になると抜けていく予想だったことが挙げられます。

温かく湿った空気の入り具合は、「相当温位予想図」を見ます。聞きなれない言葉だと思いますが、相当温位とは簡単に言えば、水蒸気と気温を併せ持ったような指標です。相当温位が高いほど、温かく湿った空気、低いほど冷たくて乾いた空気ということになります。温かく湿った空気が上昇すると、雲がめちゃくちゃやる気を出して、積乱雲が発達しやすくなります。大雨や落雷のリスクが高まるのです。

それでは、18日の朝から夕方にかけての、相当温位予想図を見ていきましょう。

図6 上空1,500m付近の相当温位と風予想図(18日午前6時)

図7 上空1,500m付近の相当温位と風予想図(18日12時)

図8 上空1,500m付近の相当温位と風予想図(18日午後3時)

ヤマテンの相当温位予想図では、暖色系(赤系、ピンク系)の色が相当温位が高いところ、寒色系(水色、緑色)の色が相当温位が低い場所を表しています。345K以上のピンク色のエリアは、非常に温かく湿った空気になります。

図6~図8を見ていただくと、345K以上のエリアが昼頃に霧ヶ峰付近を通過していることが分かります。午後になると、このエリアは北に抜けていき、南から比較的相当温位が低い、つまり乾いた空気が入ってくることがわかります。これらの図から、午後は遅くなるほど天気が回復していく傾向にあることが分かったのです。

このように、天気図を見ることで、ツアープランをより快適に、安全にすることができます。今回の内容はちょっと難しかったと思います。地上天気図からだけでもいいですし、山の天気予報も利用しながらでもいいので、登山前に天気図を見る癖をつけておくと、少しずつ天気が読めるようになると思います。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

猪熊隆之の観天望気講座157

2020-08-03 20:58:22 | 観天望気

さて、今回はクイズです。

下の写真の①~③の中のうち、2つはこの後、すぐに雨が降ってくる兆候を示しています。

それはどれとどれでしょう?

答え ①と③

①は地面に近い所、上空数百メートルから1km程度の低い雲です。②の高層雲が出ているときに、この雲が出現してくるときは、下層(地面に近い所)に湿った空気が入っている証拠で、雨が近いことを示しています。今回は画面の右側の方が雲が厚く、左に行くにつれて薄くなっているので、左(南)から右(北)へと湿った空気が入ってきています。南から湿った空気が入ってくることも、雨が近い兆候です。また、雲の形に着目しますと、雲が上の方に延びていることが分かります。これは上昇気流が起きていることを示しており、雨が近いことを示すサインです。

②は高層雲(おぼろ雲)で、天気が悪くなる前兆で現れることが多いですが、直近の雨を示すものではなく、数時間後に雨が降り出すことが多いです。また、雨雲が南側や北側を素通りするときは、天気が崩れないこともあります。

③はちぎれ雲です。雨が降る直前、近くで降っている降水の蒸発で飽和に達した空気が上昇して雲ができます。この雲が現れると、雨が近いです。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする