「あきれたぼういずの川田義雄は、新宿ムーランルージュのレヴューで大目玉!?」
「東宝」(昭和16年5月号)より
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「東宝」って雑誌を、古書店でみっけて買ったんですが・・・文字通り東宝の機関誌??あれか・・・名古屋で出てた「東宝レポート」の東京版かな。東京っぽい内容ばっかしだもんな。名古屋の「東宝レポート」より、圧倒的に分厚くてリッパです。
伊馬鵜平とゆーお人が、「あきれたぼういず」(昔の浅草で鳴らしたコミック・ショウ集団?)で活躍した川田義雄さんの思い出を語っているんですが、
川田義雄の速射砲的独白ー赤風車の思い出よりー
ってタイトルになってて、「赤風車」ってことはアレですよ。インテリが通ったという新宿のムーランルージュのレヴューですね!
水守三郎という人が、ムーランルージュの文芸部長(島村龍三)や経営者(佐々木千里)に、「この人、歌もいけます」っつって、川田を推薦したんだそうです。
で、「じゃあ、テストのつもりで一場面」って、出してみたんだけど、この川田さんが機関銃みたいにアドリブをしゃべりまくった!
例まで書いてある。
例)
●台本
秘書 お早うございます。
社長 やあ、お早う
秘書 早速でございますが○○氏よりのお電話の用件を申し上げませうですか?
●川田アドリブ版
秘書 (おや、社長の奴やっと来やがったぞ。フン眠い目をしてやがる・・・社長)お早うございます。
社長 やあ、お早う
秘書 (なにがお早うなもんか。昨夜はさんざんあの妓にふられやがったくせに。ちゃんとネタはあがってるんだ。・・・アノ)早速でございますが○○氏よりのお電話の用件を申し上げませうですか?(フン、それどころじゃあるまい。昨夜は眠れず頭はガンガンだろうからな。ヘッヘッ。・・・アノ社長、申し上げませうですか?)
カッコの中は、ぜーーーーんぶアドリブなワケです。で、ムーランルージュの制作サイドは「茫然自失」。
けっきょく、社長役だった役者が、
「君、君、よけいなセリフをしゃべると警察へ引っぱって行かれるぜ!新宿はやかましいんだからな!」
って言って、川田は「あ、そうですか。しゃべっちゃいかんのですか・・・」でおさめたらしい。
どういう背景があるかとゆーと、要するにそういうのは「浅草ふう」なんですね。で、社長役だった役者さんも、そーゆーの得意だしやりたいのはヤマヤマなんだけども、「ここは新宿だ」と。レヴューを浅草の「いんちきレヴュウ」から、「純粋演劇形式」(それがのちの「新喜劇」だとこの人は言ってます)へ高めるために、新宿で頑張ってるんだぞ、ということですね。そこにヒョコッと現れた川田さんは、あまりにも浅草ふうだったと。
この文章のいう「レヴュウ」は、笑えるヴァラエティ・ショーってニュアンスです。歌って踊るだけじゃないんだね。少女歌劇がやってた歌踊りの華やかなレビューより、浅草の軽演劇が直接のルーツなんでしょうな。
で、ムーランルージュに合わなかった川田義雄さんは、ムーランルージュはそれっきりで、浅草の「花月劇場」(東京吉本の劇場なのかな)で頭角を現しましたとさ。
「浅草ふうを脱する」っていうことが、ひとつの命題になるぐらい、当時の浅草のパワー(「いんちき」も含めてのエネルギー)はスゴかったんだね。
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