「古都逍遥 京都・奈良編」「花の詩」「日常のこと」や花や風景写真

 京都・奈良を中心に古刹・名刹や「花の詩」等の紹介。花や風景写真、オリジナルの詩、カラオケ歌唱など掲載しています。

「清滝」(きよたき)

2007年03月16日 01時10分51秒 | 古都逍遥「京都篇」
観光名所として名高い「化野念仏寺」からさらに坂を登って行くと、「愛宕(おたぎ)念仏寺」が左手に見え、その先にポッカリ空いた小さなトンネルが見える。トンネルには「清滝遂道」と書かれており、信号機が設置されているが、それは車1台が通れる幅しかないからで交互通行となっている。

 このトンネルが清滝に通じているが、出口は見えないため、初めてなら一人で歩くのはためらわれるほど心細い。コツコツと、自分の足音がミステリックに反響して、出口の明かりが見えるまではスリルがある。トンネルを抜けると雪国だった…というのは小説のこと、秋だと清滝の絶景なる紅葉樹林に遭遇する。
 愛宕山(あたごさん)の南東麓に位置するこの清滝は、愛宕神社の鳥居前町として起こり、春は桜、初夏の新緑、夏の清流、秋は紅葉、冬の雪景色と四季を通じて自然を楽しめるところだ。
 清滝は、愛宕神社への参詣者が清滝川で水垢離(みずごり)をとる場所であった。清滝は地名で、清滝という名の滝は存在しない。
 愛宕山の東すそを緩やかな曲線を描いて流れる清滝川。高雄と栂尾と槙尾、俗に「三尾」と呼ばれる紅葉の名所を結ぶこの川は、紅葉の便りを運んでくる。清滝を境に下流の保津川までを金鈴峡とよび、そこにかかる金鈴橋は紅葉を楽しむ絶好のスポットである。この渓流沿いの遊歩道は、ホタル生息地でもあり、景観もよく京都で最も人気のあるハイキングコースとなっている。
 また、清滝川の清流を渡る渡猿橋は、愛宕山への参道に架けられた橋である。

この地は渓谷美に優れ、古くから歌人達が訪れ、多くの作品を残している。

「清滝の瀬々の白糸冬来れば 染むる木の葉の錦をぞ織る」(家隆)

「清滝や波に散り込む青松葉」(芭蕉)

渡猿橋がいつごろ架けられたのかは明らかではないが、橋名は、平安末期文覚上人(もんがくしょうにん)が修行のため空也滝へ行く途中、この近くで猿が連なって木からぶら下がり、魚を取るのを見たことに由来するという。

 橋たもとに木造旅館「ますや」の看板。楓の木が渓流に面した旅館を包みこんでいる。「旅館ますや」は、いまでは清滝唯一の旅館になった。愛宕参りの茶店から始まったもので300年の歴史があるという。
 このような昔の旅篭のような造りの旅館は秘境の温泉地でも少なくなり、各地より多くの人たちが訪れているとのこと。大福帳のかかる土間に、古びた「三高生逍遙の宿」の額が掛けられている。当時、第三高等学校(現京都大学)の学生たちが、高尾から清滝経由で嵯峨野へ「清遊」と称する紅葉狩りのハイキングに出かけたという。その縁でますやは三高生が通った。田宮虎彦、梶井基次郎、織田作之助など三高出身の作家が滞在したという。
 与謝野晶子が鉄幹と歌会を開いたのもこの宿。徳富蘆花が失恋の心をいやすため、読書の日々を過ごしたという部屋もある。窓から見下ろす清滝川と部屋の柱、板廊下はよき時代の風情を留めている。

 所在地:住所:京都市右京区清滝。
 交通:JR京都駅から京都バス72系統「清滝」下車、京阪電鉄三条駅から京都バス62系統「清滝」下車、ともに徒歩約10分。
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