就労支援をしなければという決意を与えたもの。書籍「小倉昌男の福祉革命~工賃一万円からの脱却~」とNHKのK解説員のニュース解説だった。表面的かつ決して批判のない福祉系報道の中で、福祉を無条件に佳きものとせず「変わる必要がある。そのための自立支援法」と解説していたKさんのインパクトは絶大だった。
数年前に、シンポジウムで同席させていただいて以降、活動を喜んで下さり、ことあるごとにお世話になっている。今回、嫌みなく贅を尽くした料理の数々を楽しませてくれる広尾の日本料理屋で同じ時間を過ごさせていただいた。詫び寂を感じずにはいられない茶室での歓談はこれまで語られることのなかった深層のやりとりとなった。
東京大学で教授を務められたお父上のもと「恵まれて」生活していたKさんは「陽の当たらない方々のことを考えたい」と東大卒後NHKに入局。以来、認知症や障害のある方のことを独自の目線で取材されてきた。自立支援法下ではほぼ唯一と言っていい肯定派で福祉の自立を唱えてきたことは既得権益の各種団体の反発を招き、その立場を追われることになってしまった。当時を振り返り「もう絶望してしまって」しばらく何もする気がせず「こんな仕事、何も役に立ってない」と自暴自棄にもなったと言う。エリートにしか見えないKさんがこれほどの挫折と失望を感じながらの日々だったことを知り、伝えずにはいられなかった。「書籍とニュース解説がなければ私は行動に移すことはなかった。これはKさんが与えてくれたきっかけなのだ」と。「何も届いていないと絶望していたのに、、、泣かせないで」と涙ぐまれた。
あるがままに折り合いをつけず、あるべき姿のために戦っている人たちはみな傷つき、挫折や絶望に駆られながら、それでもがんばっているんだと、切なく嬉しく勇気づけられた。
店の主が「高知の方にはどうでしょうか」と料理の最後に小夏のデザートを運んで下さった。「小夏はこうして食べるべき」と言われるかもしれませんがと控えめな台詞。蔕を取って中身を見て驚き、味わう。小夏の影も形もなくなったと言うのに、もはや小夏以上としか言いようがない。高知産の小夏が見事に昇華した仕事を見て批判覚悟のその料理人の挑戦にあらゆることの無限大の可能性を感じその夜が静かに激しく更けていった。
皇居近くの昨日とは打って変わった豪奢なホテルラウンジの昼食でやはり打って変わり晴れ晴れとした表情のKさんは「自立支援法以降の障害者就労について執筆を始める」と教えて下さった。「このやる気を失わせないように折に触れ励まして」と依頼された。認知症についての取材を通じたKさんの書籍は増刷を重ね、認知症支援のバイブルともなっている。優秀なKさんがどうまとめるのか今から大いに楽しみだ。
がんばろう。絶望したり挫折するのは夢があるからだ。批判されるのは何かに影響を与えているからこそ。選ばれし者の恍惚と不安を携えながらどこまでもたどり着けない真実に挑み続けよう。