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憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

懐の銭・・15

2022-12-07 15:19:35 | 懐の銭

矢来の雨がふってきそうだと空をあおいで、懐の銭をぐっと押さえて確かめる。

急ごうと走り出しながら、男の胸に大きな安堵がうかんでくる。

これで、お里も安心だ。

女将にいわれたように、男は死んでしまおうと思っていた。

そうすりゃあ、なにもかも、かたがつく。

その考えが甘いものだなんて思いもしないほど、なにもかもに嫌気がさしていた。

逃げ出してしまえる理由がほしかったんだと思う。


だが、親方への誤解が解けた今、男にはやっていかなきゃならない事がいっぱいできた。

文棚をこしらえる。

それから、大橋屋のご隠居にすこしずつでも、金をかえしていく。

それから・・お里・・。

嫁入りしたくなんかしてやれそうもないが、お里は手のいい針子だって、大店からあつらえものがくるようになってきてる。

まあ、それで、ちょいと、小銭をためれりゃあ、恩の字だ。

とにかくは、修造との縁をきっちまうのが先だ。

懐の銭をもう一度ぐうとおさえなおして、男は道を急いだ。

もちつけない銭をもつと、暗鬼が生じる。

男は町並を抜ける道よりも大池の淵の小道、

人っ気のない道をえらんだ。

こっちなら誰もとおりゃしない。

薄暗くなってきた空をあおいで、男はもう一度、懐の銭をおさえなおした。



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