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憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

―アマロ― 19  白蛇抄第15話

2022-09-07 07:38:11 | ―アマロ―  白蛇抄第15話

ロァの側に寄ってきた男におぼえがある。
いつか、甲板を歩いたアマロに声をかけた男にちがいない。
あの時と同じように
男は親方の女にだって遠慮会釈なく好色なまなざしをむける。
男はアマロを舐めるようにみつめると、ロァと話し込み始めるが
時折、ロァの後ろに居るアマロを盗みみる。
アマロは嫌な男だと思った。
ロァも気がついているだろうに、その所作を咎めようとしない。
ロァがその男の存在を重要なものとしているせいか、
自分の女が他の男の目を奪うことにいささかの満足をえるせいか。
そこのところは良く判らないがとにかく、
頭領と対ともいえる横柄な態度がアマロの心に不穏を呼ぶ。
「で、何人残す?」
聴こえてきたロァの言葉にアマロの胸の底がぐっと縮んだ。
『シュタルトに売渡す女達のことだ』
と、わかったからである。
「まあ、めぼしい女が・・・」
言葉を止めるとちらりと、アマロを見る。
「あんたの」
と、顎でアマロをしゃくってみせて、
「あれくらい、だったら、迷わず残せるところだが・・・」
作物の如くに女をたとえていう。
「不作もいいところ・・」
「ふうん」
売るに安く。
数を頼みにいっさいシュタルトに売り払ってしまえば
血を滾らした男達のうさの晴らし場所もなくなる。
ロァが、女を男の道具としか考えないのは、
海賊達のうさをうまく取りまとめる事が出来る唯一の物であるせいだろう。
些細ないざこざも男の欲求不満から、大きな物にかわる。
閉ざされた世界で男同士がうまくやってゆくためには、
つまらないうさを持たせない事だとロァはかんがえている。
「ジニーはいい女だが、あんたが、シュタルトにわたせというなら、
これはしかたがない」
さすがにロァの前の女だけあるさと、口の中に言葉を隠した男が
アマロを見詰める目の中に、
そのジニーを棄てさせたあんたに興味があるという色がみえる。
「ほかには・・・」
「まあ、新しく船を襲うまで辛抱させるかな。それも一手だぜ」
「餓えちまえば誰だって、かまわしねえか」
女ほしさにいっそう、略奪に血気がはやる。
いいことかもしれない。
「だけど、ロァ。そうなると、あんただけ、女をだいてるってのは、厭味な物だぜ」
ロァはふと、アマロを振り返った。
確かに女っ毛をなくし去った船の中、
頭領の身分をいい事に美貌のアマロを独占しているのは
男達のやっかみと羨望がくすぶり、ロァへの不満が増殖しだすだろう。
「なるほど・・」
リカルドという男は時にロァの気がつかない側面を意見する。
これがリカルドを腹心の地位にすえさせている大きな一因である。
「おまえの采配にまかせるとしようじゃないか」
目の前のアマロさえ、いればいいというロァの執心が
さらにリカルドにアマロへの興味をあおらせるとも知らず、
ロァはリカルドに女達の選択をゆだねた。
「例えばジニーを残してもいいということだな?」
昔の女がアマロの前をうろうろしていても構わぬくらい、
ロァは既にアマロの心をつかんでいるかと云う問いを含むと知らず、
ロァはあっさりと答えた。
「俺の事にこだわらないなら、お前のオンリーにしたってかまやしない」
それくらい、ジニーへの執着はないとロァは言いのけた。
「ありがたいことで・・」
何が悲しくて棟梁のお古なぞをよろこんでもらいうけようか。
くれるなら、その女。
俺とその女どっちが大事だ?
こんなリカルドの底の嗜好が既にアマロに向けられていると気がつかぬまま、
ロァはリカルドに選択をゆだねる。

リカルドが部屋を去った後。アマロはロァに詰問する。
「どういうこと?ジニーの意志はどうなるの?私との約束は?」
冷たいロァの一瞥を受ける事になる。
「立場というものがあろう?」
「そんな・・・」
「お前も自分の立場をわすれちゃいやしないか?」
そう。ロァの気持ち一つ。気分一つ。
ロァの内側がいくら本気だと言ってみせても、
ロァについて廻る立場とアマロについて廻る対場を引き並べられれば絶対的にロァが優位なのだ。
「わすれちゃいやしないだろう」
ロァの手が伸びてくる。
ロァに従属される「女」でしかないアマロを思い知らされる時がはじまる。
ジニーの意志一つかなえてやれなくなる自分の弱さをしらされる。
「あああ・・・」
吐息は既に喚声になり、
ロァに従う女を選ぶしかない甘やかな陶酔に酔うしかなくなる。
「俺がいらねえといえるか?」
ううんと首を降るしかなくなるアマロは
自分こそが地上で一番汚辱に満ちた自分と知る。
けれど、このロァとのひと時を
確かにかけがえのないひと時にしたがる自分に逆らうことができない。
『ロァ・・御願い・・私を棄てないで』
屈服を言葉にしたくはない。
だけど、友と思い始めたジニーを平気で見限る自分を許すしかない。
ロァの調伏を受止める事を選んだアマロは淫らでしかない自分におぼれる。
『ロァ・・ロァ・・』
ふと、ケジントンへの思い一つさえなくした女が、
ジニーにすまないと思う方がおかしいと思えた。



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