水商売ってのは特に縁起をかつぐものなんだけど、お店の中にどうまちがったのか?
蜘蛛がはいりこむことがあると、おねーさまがたはひじょーによろこばれる。
普通、一般家庭において、夜の蜘蛛は縁起が悪いときらわれるのであるが、
夜の商売は吉兆である。
単なる、ごろあわせでしかないのであろうが、
「よくも、きた。よくも、きた」
(夜蜘蛛、来た。夜蜘蛛、来た)
と、客の入りを暗示するらしく、瑞兆なのである。
そのせいか、虫嫌いのおねーさまも蜘蛛だけは
「ころしちゃだめ。外ににがしてきてあげて」
なんて、かわいらしいことをおっしゃる。
****妙なことである。******
あの黒くて、てらてらした奴。
殺気を感じると、
こそこそと、逃げ回る。
この、武道家のような
鍛えられた洞察力。
これによって、
奴は生き延び、
繁栄を極めているのである。
が、
逃げ足も速い。
奴は己の脚力に慢心するのか、
ときに、
人間さまの目の前で
じっと、している事がある。
無論、瞑想にふけっているわけではない。
が、その、人間さまをなめた態度。
いやがおうでも、
たたきのめしてやりたくなるのが、
人の習いである。
キャシャーンがやらねば、
誰がやる!!
と、ばかりに、か弱き女性も
突然、勇猛果敢な
黒い奴撲滅要員に成り代わり、
戦闘態勢もととのい、
奴の居る場所にあわせ、
スリッパ 、はえたたき、新聞を丸めたものなどを持つ事、暫時。
ところが、
そこに客が来る。
彼女たちは武器をすて、
あわてて、艶っぽい笑顔を作る。
だが、戦闘体制に入っていた緊迫感を
直ぐに客は見破る。
おまけに、敵は逃げも隠れもせず・・。
客の座ったカウンターの壁にへばりついているのである。
ふうん。
客はため息混じり。
「あ、お手元くれる?」
突き出しのおくらはうまそうである。が・・・。
ぱきりと、箸をわかたつと、客は
壁に近寄って行く。
黒い奴の背後から
箸を伸ばして行く。
蝿を切る宮本武蔵でもあるまい。
そう、上手く行くものかと、固唾を呑む、暇も無く、
黒い奴は割り箸に挟まれている。
「割り箸じゃないと駄目だよ。
塗り箸じゃ、すべるからね」
良く、かんがえなくったって当たり前のことをさりげなくいわれると、
奴を拉致した割り箸が論より証拠、。
彼女たちは深くうなづくのである。
しかし、
奴の意外なとろ臭さを教えられた
事件であった。
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