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憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

波陀羅・・14   白蛇抄第5話

2022-12-13 09:42:37 | 波陀羅  白蛇抄第5話

ふと目覚めた波陀羅の横に陽道がいない。
向こうの部屋からは耳を塞ぎたくなる声が漏れている。
その声の持ち主が誰であるかは波陀羅もすでに気がついている。それよりも、陽道と波陀羅しか知らないはずのマントラが
その声に重なるのである。
恐ろしい予感に胸を塞がれ
波陀羅は声の聞こえるほうに歩んでいった。
祈る様な気持ちでそっと襖をすらして、
僅かばかりの隙間から中を覗き込んだ。
『あ』
何という事であろう。
歪むような顔で陽道の物を受けている一樹も、
その下にいる比佐乃に実の兄が何をしているのか。
そして、同じように比佐乃の顔も疼きを堪え歪んでいる。
とうの昔に性の喜びを身体に教え込まれてしまっているのである。
『ひっ。一樹が・・・比佐乃が・・・』
恐ろしいほどの激情を押さえ込むと
波陀羅は自分の部屋に引き返した。
初めて、マントラを唱える者の情交を見た時、
その底に何があるのかを波陀羅は一遍に理解した。
救いようのない畜生道に我子が落とされこんだと判ると同時に、
双神の贄にされているということをである。

次の夜に波陀羅は用意を整えて陽道を待った。
寝屋に行くと
そのまま布団の中に深く潜り込んでいった。
「どうした?」
先に床についていたのは陽道の姿のままの独鈷であるが、
織絵が波陀羅の姿に戻らぬまま
潜り込んでくるといきなり陽道の物を口に含み始める。
「ふ。これも、たまには良いか」
陽道の物も悪くはない。
織絵の見目形も麗しいものがある。
が、波陀羅自身の時のほうがシャクテイは高い。
己自身を求められる喜びがシャクテイを持上げて行くのである。
が、独鈷自身を言えば織絵の姿も悪くない。
「ああ。波陀羅。歯を宛てるな。そう・・」
鬼の物など口憚ってほうばれる訳がない。
陽道の物と一体になって初めて口からの愛撫が可能なのである。それが良いのである。
やがてマントラを唱え始めるのか。
波陀羅が口を離してゆくりと掌で陽道の物を撫ぜ摩り始めた。
「ふ・・・欲しゅうなったか?」
己のほとに陽物を滑り込ませたいが為のマントラである。
布団を引く様にして波陀羅を引き上げようとした
独鈷が耳を欹てた。
マントラでは無い。
「微塵と乱れや。さばか。向こうわ知るまい。
こちらは知りとる。青血。黒血。赤血。真血を吐け。
泡を吹け。七つの地獄へ打ち落とす。
おん。あびらうんけんそばか」
波陀羅が口中呟く言葉が
不動妙王の因を結ぶ呪詛であると気がついた時、
独鈷の物に鋭い痛みが走った。
「う。あ。おわあああ」
己の一物に絹糸を紙縒り通した畳針が貫き通されている。
それが呪詛で結び玉を括られておる。
針を戻す事も出来ぬほど肉が食い込んでおるのを
仕方なく引き抜けば絹糸が切れぬまま、その身を通す。
呪詛をかけた波陀羅に因を解いてもらうしか法は無い。
「波陀羅。わしが何をした」
苦しい息の下から、波陀羅を宥めるしかない。
「それで一樹に何をした。比佐乃に何を教え込んだ」
波陀羅の言葉を他愛の無い嫉妬だと考え、
浅はかな言葉を返したが
更に独鈷を追い詰めさせるだけの事になる。
「ああ。その事か。わしもお前の物の方が良い」
通し針は陽道の中に独鈷を封じ込める為の手段である。
二つ目の針が陽道の首元から向こうに突き抜けると
「波・・波陀羅・・助けてくれ。
わしも双神に贄を捧げねば、わしが・・シャクテイを吸われ
魂が朽ちる・・・わしも地獄に落ちとうはな・・・い」
今度こそ恐ろしい殺気に気が付いた。
この法なら他愛なく人の身体を乗っ取った者を
その身内で殺す事ができる。
とうの昔に死に絶えた陽道の体など波陀羅が惜しむ訳もない。
『わしのがん箱(棺おけ)が、これか:』
「宝と思うておるのを知っておったろう?
それとも、マントラの秘儀に慢心したかえ?」
耳から一層長い針が通されてゆくと、
独鈷の命も陽道の中で掻き消えた。
それを見届けると波陀羅は織絵の身体から脱け出た。
織絵の身体が横たわると波陀羅は森羅山に向かった。
いなづち、なみづちに一ついでも降してやれたら
死んでも構わぬそう思ってやってきた。
が、
「無い」
在る筈の社が無い。
跡形一つ無い。探す当ても無い。探し様も無い。
足を引きずる様にして波陀羅はその場所を立ち去った。
振り向いてもう一度見てみたがやはり無い。
胸の中に小さな悔いがゆっくり持ち上がって来るのを
波陀羅は感じていた
邪鬼丸の命を絶ってかれこれ二十年近い歳月が流れている。
波陀羅はその足を新羅の居る伯母小山に進めた。



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