goo blog サービス終了のお知らせ 

憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

白砂に落つ・・15

2022-12-16 09:33:41 | 白砂に落つ

男の声に佐吉がうっすらと目をあけ
定次郎を目に留めた。

まさに目に留めたというしかない。

佐吉の瞳は定次郎を映してはいたが
定次郎への何の感情もよこしてこなかった。

「佐吉・・・す・・すま・・」
すまねえ。
云おうとした言葉に
定次郎はよどんだ。

俺があやまったら、
もしかして、佐吉はお千香の不貞のわけを
しらずにいたなら、
子供が佐吉の子じゃないことを云うに等しいのじゃないかと。

ぼんやりと定次郎を見つめていた佐吉だったが、
いよいよ、
処刑役人が長槍をかまえ
佐吉の横にたちならび
槍を構えると
佐吉は今度はしっかりと
瞳を閉じた。

「構え」
執行奉行の重い声が響き渡るほどに
静かに佐吉を見つめる人の群れの中で
たけなわにしがみついた定次郎は
見届けてやるしかないと思った。

俺に出来ることはみとどけてやることしかないと
思った。

構えた槍が佐吉の身体を貫き
佐吉の命を
身体の外に放り投げる。

かわりに死を身体の中にいれこめる。

その刹那。

苦痛を訴えるかと思った
佐吉の喉の奥からほとばしった言葉は
お千香をよんでいた。

それは、まるで、
お千香のところにいくぞと
お千香をよんでいるとしか思えない叫びだった。

定次郎の耳に届いた叫びは
にくくてお千香を殺したんじゃない。
あるいは、
俺だけのお千香にしたかったんだ。
と、聞こえてきた。

誰にも渡さずにすむようになった
お千香のところに
いけるんだと
佐吉の心が解放されてゆく。

定次郎にはそう、きこえていた。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。