切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

『中原中也との愛』 長谷川泰子 著

2006-03-31 23:50:54 | 超読書日記
詩人・中原中也の恋人を小林秀雄が寝取ったという話は、割りと有名な「学校で教えない文学史」だけど、問題の“運命の女性”長谷川泰子さんの告白的自伝が文庫化された(解説は川上弘美。)。

おそらく、多くの人は文学史の資料としてこの本を読むんだろうけど、意外にもこの本には「黎明期の映画界を語る資料」という側面もある。なかでも驚かされるのは、谷崎潤一郎の『痴人の愛』のヒロイン・ナオミのモデルといわれる映画女優・葉山三千子と彼女が同じ家に住んでいたことがあるというくだり。

葉山三千子(フィルモグラフィー)
「痴人の愛」生んだ家解体へ 谷崎潤一郎旧邸

阪妻全盛期の京都のマキノ・プロや蒲田行進曲でお馴染み、東京の松竹蒲田撮影所に出入りしていた事もあるという彼女は、岡田茉莉子の父親・岡田時彦(戦前の有名な二枚目俳優で、小津作品にも出演。)とも知り合いだったというし、葉山三千子が京都の日活の俳優と同棲していた時代に同じ家に住んでいたともいう。

彼女は「グレタ・ガルボに似た女性」といわれただけあって、写真でみる限りなかなかエキゾチックな美人なのだけど、本当の意味で中原中也が彼女に執着し出したのは、どうも自分の元を去られてからだったようだ。(伝説的な酒乱傾向もまた然り。)

この本を読む限り、繊細ないい加減男・中原より、やけにマメな小林秀雄の方がいい男に思えてしまうのだけど、彼女が晩年になって、中原中也ファンのストーカー的文学青年(?)につけまわされたという話には、とても驚かされた。

以前ドラマ化されたように、文学史上有名なこの三角関係では、彼女の位置は「悪女」というところに収まってしまっているのだけど、独り歩きしてしまった伝説に追われる女という意味では、皮肉にもグレタ・ガルボの晩年を思い出す。

映画みたいな青春を生きた女には、映画みたいな晩年が追いかけてくるのか?でも、これは"ヒロイン"に特有の悲劇だと思うのは、フェミニズム的発想過ぎるかな?

というわけで、文学史好きの方にはお勧めです!!

中原中也との愛―ゆきてかへらぬ

角川学芸出版

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2 コメント

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佐藤春夫 (papageno)
2006-04-01 02:11:49
こんばんは、パパゲーノです。

記憶に間違いがなければ、

佐藤春夫が大正時代に住んだ家の近くに、

(横浜市鉄町、野球が強く、巨人の高橋が

 出た桐蔭?付属高校・大学の近く)

佐藤春夫の「田園の憂鬱」の記念碑があります。

その記念碑は葉山三千子が昭和40年頃、立てたと

記念碑の裏に書いてありました。

葉山三千子は谷崎の妻で、後に佐藤春夫の奥さんになった小林千代さんの妹ですから、碑文を読んだ時、不思議な気がしました。

お富さんの文章を読んで田園の憂鬱の中で佐藤が同棲した女優は葉山三千子なのでしょうかね。

何となくわかりました。どうも、ありがとう。
返信する
コメントありがとうございます。 (切られお富 )
2006-04-03 00:57:29
「田園の憂鬱」は子供の頃から何度か読んでいたんですが、記念碑が横浜にあったとは知りませんでした。教えていただきありがとうございます。



しかし、記念碑を建てたのが葉山三千子だっていうのは謎ですね。「田園の憂鬱」に出てくる女性のモデルは葉山三千子とは違う女優だと思ったのですが…。



なかなか人間関係複雑な話ってことなんですかね?
返信する

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