切られお富!

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『冬の旅(さすらう女)』 アニエス・ヴァルダ監督

2015-12-16 23:59:59 | アメリカの夜(映画日記)
唐突ですが、冬ですね。ふと、冬にまつわる映画をまとめて見直そうと思い立ち、選んだ第一弾がこれでした。「冬に旅なんてするもんじゃない!」って、この映画の中でも出てくる台詞なんですが、まさにその通り。これは、自由にさすらい、野垂れ死にする少女の話。ヒロインはのちのち『仕立て屋の恋』で日本でも有名になるサンドリーヌ・ボネールです。

本当に匂ってきそうなホームレスの出てくる映画、しかもそのホームレスが女性だというのは、この映画と『ポンヌフの恋人たち』のジュリエット・ビノシュくらいじゃないですかね。ただ、『ポンヌフ~』の場合は、監督のレオス・カラックスが撮影当時ビノシュと付き合っていたということもあって、「匂いたつようなホームレス」という感じではなかったんですが・・・。

で、その点、この映画は女性監督アニエス・ヴァルダならではの醒めた視点で、青春の自由と限界を容赦なく活写する。

冒頭の少女の死体の映像から始まり、過去にさかのぼりながら、彼女に出会ったひとたちの証言をつなげていくという構成なんですが、ヒロインの少女を美化してないところがよいんですよね。むしろ、青春の身勝手さを容赦なく描いていて、この子はこうやって死ぬほかなかったんだろうな~と思わせるところが凄い。社会のせいでも、個人のせいですらもなくて、自由な個人として生きるということは、詰まる所こういうことなんだと。この映画を観ると、『気狂いピエロ』のゴダールすら夢見る青年に思えてしまうから、女性クリエイターって恐ろしい。

個人的に感動的だったのは、ヒロインがワインの収穫祭でからかわれた末に死んでしまう最期。こういうところが、女性ならではの容赦ない感じだなあ~と。男性監督だと、なかなか、あんな最期は描けないですよ。

あと、個人的な趣味の問題として、この監督のカメラアングルの切り方がカッコよくて大好きだというのもあります。フレーム感覚とか現実を見る目でいうなら、旦那のジャック・ドゥミ(『シェルブールの雨傘』の監督)よりこの人の方がはるかに深いですね~。

というわけで、傑作です。なぜDVDにならないのかわからないし、VHSが出たときは「さすらう女」のタイトルになってしまったのも解せない。ま、もし機会があったら、是非ご覧になってください。寒い冬に若い人が見るべき映画です!なお、モーツアルトのクラリネット五重奏が効果的に使われる『幸福』も一緒にご覧あれ!

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