切られお富!

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十月歌舞伎座 第一部に行ってきた。(観劇日10/22)

2022-10-23 21:21:43 | かぶき讃(劇評)
今月は第一部を一番楽しみにしていました。簡単に感想。

①鬼揃紅葉狩

澤瀉屋の紅葉狩は何度か観ているけど、三代目猿之助の演出のエンタメ性は体系的に再評価されるべきでしょうね。特に古典の再解釈みたいな部分は、六代目菊五郎の古典の新演出と並んで、その後の歌舞伎の歴史に足跡を残していると思いますよ。それに比べたら、一過性の新作のいかに多いことか・・・。

さて、舞台の方だけど、幸四郎の惟茂のスイートな感じ、四代目猿之助の更科姫の不敵な雰囲気、どちらもこの演目に合っていてよかったし、いつもの紅葉狩と違ってたくさん出てくる役者陣も、若手花形五人に門之助の局の組み合わせ、山の神の代わりの三人が雀右衛門、笑也、笑三郎と豪華で、見ごたえ充分。

澤瀉屋版を観ることで、逆にいつもの紅葉狩の古典らしい佇まいも理解できるという意味で、わたしは割と好きなんですよね、この演目。ということで、堪能しました。

ちなみに、歌舞伎ビギナーにわたしが勧めない歌舞伎の演目は、「寿曽我対面」、「紅葉狩」。せめてイヤホンガイド借りなさいとは言いますね。


②荒川十太夫

神田伯山のCDで知っていた講談だったんだけど、まさかコレが歌舞伎になるとは!ということで、観劇するのを楽しみにしていました。

事前の伯山・松緑の対談(Youtube)で、松緑が「岡本綺堂や真山青果の芝居のイメージ」というようなことを言っていたので、なるほど・・・という感じだったんですが、感想です。

まず、切腹する赤穂浪士の呼び出しの声が、溝口健二監督の映画『元禄忠臣蔵』のラストシーンを思い出しました。これはもちろん、真山青果の原作の映画化で、世界的な名匠溝口健二の監督作品の中でも評価のわかれるものなんだけど、わたしは大傑作と評価しています。たぶん、映画評論家で芝居の「元禄忠臣蔵」を観たことのない人が多いのでしょう。「御浜御殿」のめくるめくカット割りなんか凄いですよ。

【むかし書いた映画の感想】映画『元禄忠臣蔵』(前篇・後篇) 溝口健二監督

で、話を芝居に戻すと、溝口作品のラストを思わせる、死にゆく浪士たちの生々しさを伝えた呼び出し声から始まる演出が、わたしは巧いと思いました。

加えて、舞台の道具が割とリアリズム調で、特に浪士たちの墓所の大道具がよいですね。歌舞伎では墓場ってそれなりに出てくるけど、今回のお道具は細かくてリアルな気がしました。

芝居では、杉田五左衛門役の吉之丞の台詞が、吉右衛門を偲ばせる調子で、やっと播磨屋の雰囲気を伝えてくれる人に出会った気がしました。亀蔵の隠岐守は今回の配役の中で一番真山青果調の朗々とした台詞だったし、猿之助の堀部安兵衛が不思議な魅力を放っていて好演。

回想場面を、花道を使うというのも面白い工夫だったし、スッポトライトとセリで堀部安兵衛との思い出を表現するというアイデアも歌舞伎ではあんまりないやり方で新鮮でした。

松緑の荒川十太夫は、多少泣きすぎるというか激情というような部分もあるにはあったけど、全体には抑えた芝居で、最後の引っ込みの腹芸も変に大げさでなく、わたしは良かったと思いましたね。

で、最後に苦言めいたことを言うと、この芝居、美点はいろいろあったんだけど、一つの完結した芝居としては、エピソードが足りないんじゃないでしょうか。そのせいか、最後の方で隠岐守なり和尚がしゃべりすぎという印象でした。(説明し過ぎというのかな・・・・。)

というわけで、これが完成形ではないにせよ、意欲的ないい取り組みだったと思いました。

わたしは、アニメやマンガ、ゲームの歌舞伎化より、「紅葉狩」の新演出とか、講談みたいな他の古典芸能とのコラボみたいな方向の方が歌舞伎の将来のためには良い気がしています。クラシックだって、子供に聴かせるべきは、ゲーム音楽のオケ演奏じゃなくて、ベートーヴェンとかシューベルトの交響曲の良いところをメドレーにした方がよっぽど感動すると思うんですよね。

松緑はサブカルへの目利きも凄いので、今後の企画力に期待します。




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