切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

『安部公房とわたし』 山口果林 著

2016-02-18 23:50:23 | 超読書日記
こんなことを書くと怒られますが、安部公房の本より断然面白かった!作家安部公房と女優山口果林との不倫告白本なんですが、出会った時の二人は41歳と18歳!しかも、若き日の果林さんの写真がとってもキュート。四十男がはまるのも無理ないわって一方、罪作りなのはノーベル文学賞候補だった作家の方だな~。ということで、簡単な感想のみ。

先にわたしの安部公房観について、ちょっとだけ書いておくと、一応、学生時代、主要な小説、戯曲、評論は読んでいたし、勅使河原宏の映画も観ていたりもしたんだけど、残念ながら全く波長が合わず(!)、彼の最高傑作は三島由紀夫との対談かな~と思っていたくらいの読者です。ただし、くだんの対談は面白かった!安部が三島の「サド侯爵夫人」に斬り込み、三島が安部の「他人の顔」について突っ込む。三島が「顔を貸せとは日本的な表現だが・・・」、安部「まったくだ」で始まるあたりは何回読んでもスリリングでしたね。ま、映画版『他人の顔』では勅使河原宏の映像ギミックより、京マチ子の名演が方が光ってましたけど・・・。

で、安部公房を好きになれなかった最大の理由は、文章が合わなかったという点に尽きていて、理系作家と合わない理由はたいていコレ。あと、寓話風の文章の語りって、偉そうというか、読者を小バカにしている感じがあるでしょ。なので、カフカでは「変身」が嫌いで、「アメリカ」が好きという読者です。そういえば、「アメリカ」はオーソン・ウェルズが映画化したかったんでしたよね・・・。

というわけで、話を元に戻すと、桐朋学園短期大学演劇科の講師と教え子という関係から恋人に変わっていく過程がつぶさにわかる本になっています。

結婚まで考えた彼氏にフられたあと、自分の世界を広げたい二十歳前後の女の子が、食べたこともないような食事やお酒、著名人との出会いを導く高名な作家に惹かれてしまうのは、よくわかるなあ~と思いました。もっとも、こういうのは四十男が若い女子をたぶらかすのによく使う手ではあるんだろうけど・・・。

でも、関係が長く続いた背景には、いろんな意味で相性がよかったということもあるんでしょう(実際、「セックスの相性もよかった」って書いてあるし、たぶん安部公房が撮ったであろう、彼女の屈託のないヘアヌード写真もこの本には載っている。)。また、幼児期の性虐待や安部公房の妻からの攻撃などヘビーな話が出てくる割にウェットじゃないというか、彼女のさばさばした感じが、理系オタク中年の安部公房には心地よかったのかもしれません。

また、こんなことを書くと安部公房ファンからお叱りを受けそうですが、作家としての安部公房は60年代まででピークを過ぎており、70年代中盤くらいまでは劇作で気を吐いたものの、退潮期にあって、作家自身も新しい何かを求めていたという気がします。

で、痛ましいというか、この本の肝になる部分だと思うんだけど、正式な関係、オープンな関係でなかったばっかりに、彼女の自宅で倒れたにもかかわらず、作家の死後、遺族からいなかった存在のように扱われるという顛末と空虚感は、不倫の宿命なんだろうな~と思いました。

もっとも、安部公房夫人の真知さんといえば、かつて水色の背表紙だった新潮文庫旧版の装丁と挿絵も担当していた人だから、奥さんにとっても、作家安部公房は夫以上の何かだったんでしょうけどね~。
(そういえば、今の新潮文庫は 真知さんの装丁から安部公房の写真に変わってしまいましたね。それと、「箱男」くらいから、真知さんの挿絵じゃなくて、安部公房の写真が作品に挿入されるようになったのは、今になって考えると、夫婦関係の変化の表れだったのかな?)

なお、安部公房がピンクフロイドのファンだったとか、調布の仙川駅に安部公房の自宅があった(勅使河原宏が脚本のギャラ代わりに与えた土地なんだそうで、桐朋学園の近所。)なんてあたりで、ちょっと親近感がわきましたね。たぶん、近所を通ったことがあるな、と。

ということで、安部公房はともかく、わたしは山口果林の方に断然好感を持った一冊でした。表紙も含め、生き生きしてて素敵だなと。

文学ファンにも、迷える女子にもおすすめ。

PS:開高健の「夏の闇」といい、吉行淳之介の「暗室」といい、中年作家の創作の糧は不倫なんですかね?「中年作家には気をつけろ」です!!


安部公房とわたし
クリエーター情報なし
講談社


他人の顔 (新潮文庫)
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勅使河原宏の世界 DVDコレクション
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