切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

ゴダールが死んだ。

2022-09-25 14:36:07 | アメリカの夜(映画日記)
『気狂いピエロ』の監督が安楽死というのは、ちょっと象徴的というか、衝撃的というか…。2022年はエリザベス女王とゴダールの死んだ年として記憶されるんでしょうね。いち映画ファンとして、簡単に一言。

自分の誕生日にゴダールの訃報が入ってきてビックリしました。

でも、年齢を考えればXデイはいつかとは思っていました。Xデイ=ゴダールの死であり、映画の死みたいな意味ですが・・・。

確か蓮實重彦が言っていたけど、ゴダールはあのアクション俳優でもあるジャン・ポール・ベルモントより運動神経がいいらしいということで、ヌーヴェルバーグの主要監督の中で最後まで生き残ったのは必然だったかもしれません。

で、月並みに『勝手にしやがれ』とか『気狂いピエロ』で追悼なんていうのは野暮なんで、極私的フェイヴァリットのゴダール作品を上げていきます。

・新世界(オムニバス映画『ロゴパグ』の中の一篇)
・カラビニエ
・アルファビル
・男性・女性
・はなればなれに
・ウィークエンド
・右側に気をつけろ

わたしはゴダールだとモノクロ作品の方が好きで、『女と男のいる舗道』や『恋人のいる時間』も捨てがたいけど、低予算で近未来感のあった『新世界』、『カラビニエ』、『アルファビル』が特に好きでした。

商業映画復帰以後の作品は、一応一通り観ているし、だいたい映画館で観てもいるんだけど、自分の殻から出てこなくなっていったというか、本当なら、ブレッソン82歳の時の作品で遺作『ラルジャン』とか、ロメール86歳の時の信じられないような若々しい遺作『我が至上の愛〜アストレとセラドン〜』みたいな大往生の仕方をしてほしかった気もします。結局、80年代以降で万人を納得させられたのは『パッション』と『カルメンという名の女』くらいまでだった気もしますしね。

クロード・シャブロルが対談の中で「(ゴダールは)自己表現のために映画を利用しているひとりの作家なんだ。私のほうがむしろ映画作家といえるだろう。つまり映画が自分の領分で、そのなかで私は自己表現しているからね。(中略)(ゴダールは)観客に対しては一種の映画界の権威であり、他の監督より自由でいられる。とはいえ、それが彼を観客から遠ざけているんだ。そして観客なき映画という矛盾(パラドックス)にたどりつく。」と発言していて、この発言をどう捉えるかはあなた次第。わたしは、ゴダールの死が、「自己表現としての映画」の死に繋がっていく気がしています。

というわけで、ゴダールは「ゴダールみたいな人になりたい」若者を大量発生させた、世界的なイコンだったと思います。YMOの「東風」「マッドピエロ」「中国女」がゴダールから来ていたって、映画観るようになってから知りましたもの。で、そういうゴダール現象を愛ある批評に変えたコメディが『グッパイ・ゴダール』だったな、と。

で、最後に、訃報を知ってわたしがDVDを引っ張り出して観たのは『右側に気をつけろ』!

なんでかというと、ゴダール自身が主演だからで、「バスター・キートンやチャップリン張りに、スラプスティックも出来るぞ」というゴダールの名(迷)演技が観られるからなんですよね。万人には勧めないけど、ゴダールの姿を観て別れを告げたい人におススメです。この映画を観ながら、ゴダールといっしょに画面に向かって唸ってください!「ウ~」と!

PS: なお、追悼の本筋とは違うけど、高齢化社会日本もスイスの安楽死について議論すべき時期に来ていると思いますね。
参考映画として、『世界一キライなあなたに』、『海を飛ぶ夢』がよいです。























【参考】



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4 コメント

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Unknown (蝙蝠お高)
2022-09-28 20:43:41
ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン!

野暮ですいません。
待ってましたよ。

私は、本当にたまたまなのですが「近松物語」を見直した夜に訃報を知りました。
確かに彼の死で(私たちの)映画は死んだ気がしますね。
でも、それでも、そして映画はつづく、と私は思いたい。

引用されているシャブロルの言葉は、タルコフスキーに対して蓮見重彦氏が何処かで言っていた「偉大な芸術家だとは思うが、映画とは別のものを信じている人だと思う」(出典未検)みたいなことでしょうか?表現者の永遠のテーマですね。
表現者というテーゼも、もう時代遅れなのかな?


大メロドラマ「アルファビル」が大好きです。

アンナ・カリーナ!
アンナ・カリーナ!
アンナ・カリーナ!

ひたすらの合掌と愛を。
で?
「愛って何?」

p.s.誕生日おめでとうございます。
お幾つになられてもお元気で(?)
安楽死するまでは(ここはマジで自分はどうなのか考えてしまいました)。
あるいは「不老不死で死ぬ」までは。
……って、p.s.ってのも古いですね(苦笑)
返信する
コメントありがとうございます。 (切られお富)
2022-09-28 22:54:50
蝙蝠お高さま

コメントありがとうございます。
絶対コメント来ると思ってました!

>タルコフスキーに対して蓮見重彦氏が何処かで言っていた「偉大な芸術家だとは思うが、映画とは別のものを信じている人だと思う」(出典未検)

これは、蓮實重彦と淀川長治の対談「1980年代・洋画ベスト50」の中の言葉ですね。いろいろな本に再掲されているけど、今は淀川さんの河出文庫が手に入りやすいです。(わたしは学生時代に、角川文庫『映画の快楽』で読んだのが最初です。)

わたしの考えですけど、タルコフスキーは芸術家志向みたいなところがあって、ゴダールは芸術家志向でなくて、あくまで映画なんだけど、その「映画」がゴダールとゴダールシンパにしかわからない「映画」になっていったって感じですかね。

わたしは割と最近まで、シャブロルの評価低かったんですが(笑)、晩年の『沈黙の女』、『引き裂かれた女』を観て評価が変わりました。ヒッチコック的職人芸で、皮肉屋で、ちょっとエロい。

で、「表現者」の話に戻すと、国葬をめぐって、足立正生が表現者魂を見せているのが凄いなとは思いました。でも、この人も83歳ですから。この先どうなるものか・・・。(『女学生ゲリラ』の時代から変わってないっていうのが凄い!)

しかし、ゴダールの映画は、日本語字幕の翻訳もよかったですよね。昔のはだいたい寺尾次郎さんかな。元ミュージシャンだからセンスいいんでしょうね。

「不老不死で死ぬ」、『勝手にしやがれ』で、ジーン・セバークがジャン=ピエール・メルヴィルに空港でインタビューするときのメルヴィルの言葉ですよね。あのシーン好きだったな~。

ま、スイスの安楽死は、外国人だと200万円くらいだそうだから、選択肢には入るなって感じです。
返信する
Unknown (蝙蝠お高)
2022-09-29 07:07:00
そうでしたね。
ジャン・リュック・ゴダールは紛れもなく映画の人でしたね。
再び合掌。
でも永遠の疑問符さん?
教えて。
映画って何?

ではまた。
返信する
コメントありがとうございます。 (切られお富)
2022-10-02 20:34:22
蝙蝠お高さま

コメントありがとうござます。

「何が、永遠が、海に溶け込む太陽が…」って、『気狂いピエロ』の最後に出てくるランボーの詩集『地獄の季節』の「永遠」の一節だけど、これは、小林秀雄が戦後に出し直した翻訳のバージョンなんでしたよね。

そんなことはともかく、スマホで撮ってTikTokやYoutubeにアップした動画より映画の方がエラい、面白いと言えるのか。ネットフリックスのドラマより映画の方が面白いのか。映画館で上映していない「映画」は映画ではないのか。といったことが問われるのでは?

文学が置かれている状況より、映画のほうがシビアかもしれませんよ。
返信する

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