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【本】海の彼方の空遠く

著者 米谷ふみ子 (コメタニ フミコ)
副題  ある国際結婚の話 <Tales of Inter Marriage>
発行者と年 文芸春秋社 1989年(1988年「新潮」初出)

【物語】留学中の20歳の息子とその同棲相手と、両親であるユダヤ系米国人と日系の妻とが、パリで会食する。「ボチチェルリーのビーナスの顔から哀愁を除いたような、朗らかな顔をしている」息子の彼女に、意外にも嫉妬よりは友情を感じてしまう・・・

これは、発行早々、コミュニティセンターで借りて読み、7年後の放出時に貰い受けた、気に入りの本である。大阪的な空気が自在にほとばしる文体が魅力だ。田辺聖子より2歳下で、彼女のような国文の素養はないが、門外漢なるがゆえの面白さがある。

米谷ふみ子(1930~)は大阪市出身、ロスアンジェルス在住、外資系企業でOLをしながら美術家を志していたが、性差別に満ちた日本から逃れて渡米、「ハリーとトント」(1974)の脚本家ジョシュ・グリーンフェルトと結婚する。子供が脳障害、夫の家族がユダヤ系などの環境にあって小説を書き始め、「過ぎ越しの祭」で1985年芥川賞、1998年「ファミリー・ビジネス」で女流文学賞を受ける。

 最近ではとみに、米国での原爆展開催などの社会的活動とか日米比較の文明批評的発言が目立っているが、私はこの「海の彼方の空遠く」が一番好きである。今でも折があると取り出して読んでいる。

併録 「義理のミシュバッハ」(ミシュバッハとは、家族の意。1986年「文学界」初出)
 LAに住む夫妻が、NYを訪れる。商社マンの弟の家。日本の単身赴任について、妻は考える。「日本の文部省が、外国語をしゃべる人間を大切にせんと・・・・将来どえらい目に遭うんじゃないかと思います。」夫の親戚が余りにも変人ばかりなので、「25年昔これを見てたら、わたし達は絶対に子供を産まなかったと思います」と息子の脳障害を思う。小説のおわりに陰鬱な義姉との心理闘争に夫が勝つと、彼女は思わず「夫よあなたは強かったあ、よくこそ勝って下さったあ」と唄い出だす。米国人と結婚し、日常は英語で暮らす彼女の中から、本国でも消えたような戦争中の日本が顔を出す。
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