goo

エリックの青春

著者 ヤン・ギィユー(1944~)
訳者 柳沢由美子
発行所 扶桑社 
発行年 2006年
初出  1981年
原題  ONDSKAN(悪)

スウェーデンでは青春自伝小説として1981年発売当時ベストセラーになったらしい。

●虐待の連鎖
父親※から毎日のように虐待される主人公は、そのウップンを外で晴らす。優れた頭脳と身体能力を駆使して、弱い者いじめ、高利貸し、などの非行に走る。お陰でストックホルムの中学校を退校になって、全寮制の私立男子校に入るのだが、これがまたひどい学校だった。

●スウェーデンのナチズム
スウェーデンはソ連と近いためか反共の意識が強く、戦後もナチス思想が一部残っていたようだ。著者が入った私立高校がそうだった。そこでは教師は暴力を振るわないが、その代わり上級生が下級生を支配している。彼は、たった一人で反抗するのだった。

読み終って何より強く感じるのは、スウェーデン人は一見平和で穏やかなようだが、その芯に恐ろしく暴力的な部分があるんだなあ(まあ、どの国でもそうかも知れないが)と言うこと。そういえば、「ドラゴン・タトゥの女」と言う怖い映画もスウェーデン製である。ベルイマンの自伝にも厳しい父親が出てくる。国は違うが英国でもかつて上級生の支配と言う伝統があった。「アナザー・カントリー」では、それに反発した主人公は結局ソ連のスパイになる。軍隊や産業の根幹を支えるエリートの育成に、そういう教育が必要と考えられていたのだろう。

※本では「父」とのみあるが、著者自身にとっては義父(再婚による)だったらしい。

著者と私は同年生まれ、土地柄もあるだろうが、私の高校※にも暴力教師は数多くいた。卒業アルバムの私のクラスのページには、数本の竹刀の絵と「暴力反対!」の文字がある。面と向かって反抗できず、卒業アルバムでようやく意思表示したわけだ。そういう弱腰の男子を見ていたおかげで同級生に対する敬愛の念などは芽生えようがない。エリックに対しては、凄まじい反抗ぶりに喝采した女性たちもいたらしいが。1960年代後半、世界的に若者の反乱が起きる以前はこの傾向はかなり蔓延していたのでは。

★小説の出版後、この私立高校は補助金を絶たれて廃校になったとのこと。

★「ルシアンの青春」と勘違いしたのだけど・・・全く違って残念!

~~~~~~~~~~~~~~~
【注意】映画「エリックの青春」(1975)とは別もの。こちらは難病の青年の話。


→「窓際の席」2009-1-21
→「キャリー」2012-5-12
→「人間の絆」2013-10-5
→「母校」2015-5-2
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 控えおろう! 雪が降る日 »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。