記録だけ
七月大歌舞伎 昼の部
一、春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)
曽我五郎時致 松 緑
曽我十郎祐成 菊之助
静御前 孝太郎
二、片岡十二集の内
木村長門守(きむらながとのかみ) 血判取
木村長門守 我 當
郡主馬之助 進之介
井伊兵部 亀三郎
成瀬隼人正 亀 寿
榊原越中守 松 也
本多忠友 家 橘
酒井左衛門尉 團 蔵
徳川家康 左團次
三、伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)
花水橋
足利頼兼 菊之助
絹川谷蔵 愛之助
御殿
乳人政岡 藤十郎
栄御前 秀太郎
松島 孝太郎
沖の井 魁 春
弾正妹八汐 仁左衛門
床下
仁木弾正 仁左衛門
荒獅子男之助 松 緑
対決・刃傷
細川勝元 菊五郎
渡辺外記左衛門 左團次
渡辺民部 愛之助
笹野才蔵 松 也
山中鹿之助 亀 寿
山名宗全 團 蔵
仁木弾正 仁左衛門
今年も家族と、関西歌舞伎を愛する会主催の七月大歌舞伎 昼の部と夜の部を楽しむことができた。
さて、今回の歌舞伎は、家族の要望で、まず夜の部から観た事は、先日記録したところである。
家族はどういう訳か『パロディ版助六』に心を奪われていた。
私はといえば、昼夜総てを考えて、観たい演目は『伽羅先代萩』と『熊谷陣屋』。
特に『伽羅先代萩』は、配役に遊びは無いとはいえ、相当魅力的に感じており、開演を楽しみにしていた。
待ってましたの『伽羅先代萩』。これは素晴らしかった。
「花水橋」は歌舞伎らしく、格好が良かった。
好きな場面である「まま(?)」の場は、残念なことに今回省かれていた。
『伽羅先代萩』ではこの場面は度々演じられたり、度々抜かされると言ったように、よく動かされる場面でもあるから致し方がない。
「御殿」での 仁左衛門丈演じる弾正妹八汐は、『あの場面のあの顔 ! がみたいんだ・・・。』と 始まる前から 期待に期待をかけていた。
「御殿」の見所はなんと言っても 藤十郎丈の乳人政岡。
これは何度観ても素晴らしい。
付け加えるならば、特に見事であったと言っておこう。
今回、私が観た7月23日水曜日の「御殿」における 藤十郎丈の演じ方は、良い意味で 尋常ではなかった。
感情移入処ではない。
役者が、化粧落ちにも目もくれず、くしゃくしゃになって大泣きに泣き続けていた。
涙を出したから旨いと言っているのではない。
涙を出さずに、涙を出したように演じる方法もあるのだから・・・。
私は身震いした。
周りの観客の緊迫した鼓動も伝わってくる。
それは観たことがないような、まるで籐十郎丈に何かが乗り移ったとさえ感じる 素晴らしい舞台であった。
ここまでの演じ方は、他の役者だが、過去二度ばかりしかない。
「対決・刃傷」は素敵で、わくわくした。前場面まで心を痛めて泣いていた自分は、話の展開に満足していた。
こういった部分は舞台の醍醐味の一つかも知れない。
今回の七月大歌舞伎は、世話物が無かった。
演目のせいか、会場は昼夜ともに、悲しいくらいに空席が目立つ。
昨年七月に三度ばかり観た『油殺し女地獄』や『鳴神』などから比べると、華やかさに欠けるのかも知れない。
それでも今年の七月大歌舞伎は、『伽羅先代萩』で決まり!といった具合に感じた。
ただ残念なことに、私を三度も松竹座に通わすほどではなかったことも確かである。
今年の七月大歌舞伎を 昼夜観終えて、無性に他ジャンルの舞台が観たいという要求にかられた。
何だか釈然としないのは、なぜだろうか・・・。
私は、家族に相談し、劇団四季の『オペラ座の怪人』と十一月のオペラ『フィガロの結婚』のチケットを手に入れた。
家族もオペラなどは好きで、いっしょに行くという。
かなり先の話だが、今から楽しみにしている。
オペラは私の場合、今のところはロシアオペラがどういう訳か好きである。
おそらく映画の影響といった、単純な理由である。
十月にはキエフ・オペラもあったが、こちら某雑用のすぐ後とあって、あきらめることにした。
いずれにせよ、最近では歌舞伎+能楽オンリーの傾向にあったため、これで少しは流れが変わるやも知れないと喜んでいる。
何か焦りを感じる今日この頃である。
松竹・歌舞伎美人より ↓
一、春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)
明和四年(一七六七)正月に江戸中村座で上演された『初商大見世曽我』という曽我狂言の舞踊として初演されました。 正月の七草粥の準備の為、春の七種を擂粉木(ぎこすり)や包丁で叩く行事を取り入れためでたい舞踊劇で、今回は曽我五郎を松緑、曽我十郎を菊之助、静御前を孝太郎が勤めます。
二、片岡十二集の内 木村長門守(きむらながとのかみ)
血判取 大坂冬の陣、勅命により豊臣家と徳川家の和睦が結ばれました。秀頼の名代として家康の本陣へ和睦の神文を受け取りに行くことになった木村長門守は、いささかも臆することなく家康の血判を取り、見事大役を果たしたのでした。 “片岡十二集”の内の一つで、華やかな若武者の木村長門守の我當と、老獪な徳川家康の左團次とのやりとりが楽しみな一幕です。
三、伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)
伊達騒動に材をとった代表的な作品で、関西では「花水橋」「対決」「刃傷」の場は久々の上演となります。「花水橋」 足利家の当主足利頼兼は花水橋を通りかかるところ、暗殺者に襲われますが、お抱えの相撲取り絹川谷蔵が駆けつけ難を逃れます。「御殿」 乳人政岡が、頼兼の嫡子・鶴千代を毒殺から守る為、自ら食事の用意をしているところへ、お家横領の黒幕、山名宗全の奥方・栄御前が来訪し、鶴千代に見舞いの菓子を勧めます。政岡の子千松が菓子を口にし苦しみ出すと、八汐は千松を刺し殺してしまいます。我が子を殺されても動じない政岡を見た栄御前は、政岡が千松と鶴千代を入れ替えたと思い込み、謀反の連判状を渡します。政岡がひとりになり悲しみに嘆いているところに斬りかかってきた八汐を仕留めますが、連判状は鼠に持ち去られます。「床下」 床下に逃げ込む鼠を、荒獅子男之助が一旦は取り押さえますが、逃げられてしまいます。この鼠は、仁木弾正が妖術で化けたもので、やがて正体を現し不敵に去っていきます。「対決・刃傷」 渡辺外記左衛門らと仁木弾正らの足利家のお家騒動は、幕府の問註所で裁かれることとなります。立ち会いの山名宗全が弾正方の勝訴の裁決を下そうとした時、細川勝元が現れ裁決を覆し外記左衛門方の勝訴となったのでした。観念した弾正は、最後の抵抗と外記左衛門に刃傷に及びますが、ついには討ち取られ、足利家は安泰となります。 政岡を藤十郎、細川勝元を菊五郎、八汐・仁木弾正を仁左衛門と豪華な配役の舞台をご堪能下さい。