うな風呂

やる気のない非モテの備忘録

うなかじま梓の小説道場 第一回(2)

2009年07月26日 | 栗本薫
さてさて、枯淡の境地とか云っておきながら、すっかりと熱くなってしまった。しかしやはり道場はこうでなくては。
熱いままに次、千石鴨門弟希望『HONDAで走れ』 原稿用紙換算枚数145枚(こらっ、千石門弟希望。400字詰め原稿用紙換算枚数はきちんと明記しなさい。こちらで数えて手間になってしまったではないか)

ストーリーは「小国が南北に分かれて戦っている某半島風の国境にて、隊長であるホン曹長は、すこし頭の足りない新兵イが気にかかって仕方なかった。ある日、突然の指令で、だれか一人だけを残して部隊は撤収することになるのだが、明らかに危険なこの残留を志望したのはイであった」というもの。

うーん、これはねえ……どうあつかったものかね。へんへは迷ってしまうよ。飴をあげて「また来てね」でもいい気はするのだが……
ま、いいや、まずは門番二人の豹(って、ちがう。これでは某王様だ。ええい、バカワープロめ)もとい評を。

「(略)作者に明確なビジョンが見えていないのか、全体的に中途半端で上滑りな感じがします。バイクや戦争・軍隊に関する知識も間違いやアラが多く、展開はご都合主義の嵐、最大の見せ場のはずのラブシーンもそこだけ攻めキャラの人格が唐突にエロオヤジ化していて興醒め。いっそ童話っぽい世界に染め抜いたほうがよかったのではないでしょうか。D」(門番M)

「少女マンガみたいなカワイイ軍隊。ただ肝心のイさんのかわいらしさが、実にわざとらしくて、知的障害というよりカマトトにしか見えない。そのせいでHONDAから魂をもらった、という感動が湧かないのが残念。HONDAが喋るのは、松谷みよこの童話みたいで面白いのですが、唐突過ぎて浮いちゃうのがもったいない。あとBLにこれを言ったらいけないのかもしれないのですが、ホン曹長とのHシーンは、ないほうがいいんじゃないかと思ってしまう。文章読みやすい。構成マズイ。全体に「惜しいなー」感強いですが、私は好きです、この話。C+」(門番H)


門番Hの評は長いが的確であったため全文掲載した(全体的に今回の二人の門番の評は長い。さては道場を乗っ取る気だな、おぬしら)。正直この二人の評でほとんど言い尽くされているため、道場主から云うこともないのじゃないかという気がするが、そういうわけにもいくまい

さて、二人の評もご覧の通りだし、ここは道場であるから率直に云った方がよかろうと思い云うが、君はこう、実に下手だねえ。いっそかあいいくらいだ。ま、いい、いい。だれもが最初は下手だ……とは云えないところが、小説の残酷なところなんだよなあ。

まず、あまり内容と関係のないところから云うが、とりあえず改行したら行頭をきちんと空けたまえ。まったく空いていないならまだしも、空いているときと空いていないときがまちまちでで、読みづらいしどうにも気になってしかたがない。
まあ、これは知識の有無というよりは、ネットにあげる際に失敗したのかな、という感じだから、あまり厳しく云うつもりはないが、人に読ませるものなのだから、もう少し体裁を整えなさい。単純に読みにくい。こういうところで損してたらもったいないよ。原稿用紙換算枚数が書いていないところといい、きみは変なところで雑だな。

まず門番Mも指摘していることだが、千石くん、書く前にももう少しくらい朝鮮半島・軍隊・バイクなどについて、勉強したらどうかな?
「朝鮮を明確に意識しているけど微妙にちがう国」が舞台になっているため、非常にむずがゆい。ここまでわかるようにしているなら、なぜはっきりと朝鮮にしないのか? そもそも朝鮮とわかるように書く必要がどこにあったのか?
話のノリやオチが童話風の現実味のない話であるのに、なぜ朝鮮のような現実感の強い題材をもってきてしまったのかが、まるで理解できないね。もしかして、君はこの話が童話風であることにすら自分で気づいていないのじゃないかという感じすらある。

バイクに関しても、一見詳しいようだが、これはきみ、資料をかるく見て丸写ししたのに近いのではないかね? それも本を読んで得た知識ではなく、インターネットで検索して調べた知識だと小生は断言するね。
冒頭で主人公に「丸暗記するんじゃない。意味まで覚えろ」と云わせているのに、その小説自身が単語の丸写しを垂れ流していたら、きみ、これは単なるギャグだぜ?

いいや、違う。ちゃんと細かく調べた、というのなら、それは説明が下手すぎる。もっと自分のものになるまで熟成させなさい。とりいれた知識はすぐに自分のものにはならないし、自分のものになってない知識を小説に使うと、その部分が浮いてしまうよ。資料をあさったなら、それが自分の知識としてしみこむまでの期間を設けなさい。
インスタントな資料から得たインスタントな知識で書かれたら、インスタントな小説にしかならないよ。
バイクを題材にしたいのなら、まずはもっとバイクを愛しなさい。そういった積み重ねが、終盤のバイクに乗るシーンの臨場感のなさにつながるのだ。これは致命的だよ。

それにしてもこれは小生の無知ゆえの純粋な疑問だが、 HONDAの50ccカブというのは、海外仕様だと二人乗りで作られているのかね? 日本の道路法の問題だけでなく、50ccでは二人乗りに耐えられないのではないかという印象があるのだが。
もしないというのならこれは恥ずかしいミスだし、あるというのなら、こういう部分をさらっと読者に説明してやることによって「なるほど、この作者はバイクに詳しいのだ」という印象を与えるのだよ。意味のわからない専門的な単語などで、読者にはなにも伝わらないよ。

次に軍隊についてだが、これはもう、インターネットで調べてすらいないのではないかな。
まず曹長が部下のことを「兵隊」と呼んでいるが、これは「兵卒」でしょう。兵隊という言葉にも一兵士という意味がないわけではないが、逆に部隊全体をあらわす意味にもなってしまうので「兵卒」「一兵卒」が正しい。少なくとも曹長が部下を「兵隊」とは呼称しない。

その曹長も、これは下士官だから、小隊長にはなり得ないね。士官が隊長で、その下に補佐で曹長などの下士官がつく、というのがおそらくどこの軍隊でも普通のことだ。例外があるとしたら軍曹が小隊長になってその下に曹長がつくケロン星の軍隊くらいのものだ。
軍隊でわからないなら、警察機構と置き換えて理解しなさい。士官というのは警察学校を出たキャリア組で、下士官というのはノンキャリアのたたき上げのことだ。この辺の仕組みというのは日本の自衛隊でも警察でも実はあまり変わっておらん。偉くなるには現場よりも学歴だったりするわけだ。

で、ここが一番きみの小説の素敵な部分なのだが、知的障害者の一兵卒であるイくんが、なぜ士官候補生が行くような兵学校を卒業しているのだね!(わはははははははははは!)

いやあ、ここは笑った笑った。きみ、古今のどの軍隊を探してもだね(平和ボケした日本の自衛隊ですら!)一兵卒にわざわざ専門の学校を卒業させる余裕のある国はないぜ。
志願ないしは徴兵してから訓練キャンプ行き、状況によってはすぐに前線送りだ。
まあ、鴨くんとしてはおそらく新兵の訓練キャンプ程度の意味で書いたのかもしれないが、兵学校はないよ。

そもそも知的障害者のイくんが堂々と国境線に配置されるというのは、これはどういう非常時なんだね?
韓国(あるいは北朝鮮)の軍隊については小生も詳しくないからあるいはありえるのやも知れぬが、太平洋戦争時の日本だとしたら、イくんのようなのはいぜいが丙種合格(兵卒として著しい欠陥がある、と判断された場合の保留的合格のことだ)で、普通は丁種(つまり不合格)だ。

おわかりかな?
こういう細かい「ありえなさ」の積み重ねが「少女マンガみたいな可愛い軍隊」(門番H)という印象を与えてしまうのだ。私に云わせてもらえば、この評もまだ甘い。これは少女マンガの軍隊ですらなく、少女マンガの田舎の中学校だよ。
ま、こういうのはすべて「朝鮮風であって朝鮮とも現代とも一言も云ってない」で済むといえば済むかもしれんがね、だったら現実の国家を連想させるんじゃない。HONDAとか現代を連想させる単語を連発するんじゃない。
現代を想起させた時点で、説明のしてない部分に置いては現代と同じルールを適用する義務が作者にはある。そうでなくては物語世界にまとまりなんてなくなってしまうではないか。
まとまり、ルールが設定されているからこそ、ただ一点・二点に集約された非現実が輝くのではないか。きみが世界をいいかげんに設定しているせいで、本来、一点のファンタジーとして輝くはずであった「バイクがしゃべる」という設定が「中途半端で上滑り」(門番M)してしまうのだ。

もっともこれは、単に構成が下手だというのもある。
物語が終盤にもなって唐突にバイクがしゃべりだすものだから、原稿を前にして思わず「はぁ?」とはしたない声をあげてしまったではないか。
こういう非現実的な設定はね、ちょっと伏線を仕込んでおくだけでずいぶんと違ってくるんだよ。

例えばイくんがバイクに話しかけてみんなにバカにされているシーンを作るとか。
誰かがバイクを蹴るとかの乱暴をして、イくんが
「バイクにだって、魂はあるって云ってた」
「誰が云ってたんだよ」
「あ……う……」
と言葉に詰まったところでホン曹長が「私だ」とかばってあげるとかね。
ま、具体的にはなんでもよろしい。一見「イくんのピュアさを表現するため」に見せかけたシーンを用意して、それが終盤になってバイクがしゃべることによって「あぁ、なるほど」になる。
この「はぁ?」を「あぁ」に変えることこそが、構成の技というものだよ。さして長い話でもないのだ。きちんと逆算して作りたまえ。

さて、そういう細かいところ(というのもいまさらおかしな話だが)を差し置いても肝心なのは、やはりイくんが「カマトト」(by門番H)にしかみえないところだろう。
鴨くん、きみ、バカを表現するのに九九ができないとか、あまりにも安易すぎないかね? もっと身近にいるであろう人々のバカなポイントを観察したまえ。愛すべきポイントは本当にそこかね?
私に云わせてもらえば「バカをバカにするのもいい加減にしろ」という感じだ。なぜ君はいちいちがこんなに安易なのだ。非現実的でもいいが、安易なのはいかんよ、安易なのは。

おまけに終盤で、イくんの一人称に視点が移るのだが(そもそも「視点をぶらすな」と初期の道場でどれだけ口をすっぱく云ったかわからないことは、この際云うまい)、その一人称で語られるイくんがあんまりバカじゃない。口調も精神もちっともバカでない。
てっきり「実はバカでなかった」というオチなのかな、と思ったら、どうもそういうわけではなく、最後の最後でバイクから魂もらってバカが治った(これも唐突すぎてたいてい無茶苦茶だが、その無茶苦茶さよりも気になるポイントが多いというのがこの小説のすごいところだ)というのがこのお話全体のオチなのだから、単に鴨くんの表現力不足なのだろう。
結果として「カマトトにしか見えない男が、内面を語るとやっぱりバカじゃなくて、そのバカが治る」という物語として成立ない形になっている。
省略したMの評に出てきたのだが、とりあえず名作『アルジャーノンに花束を』をじっくり読んでみたまえ。あの稀に見る名訳から学べることはあまりにも多すぎるだろう。

面白いな、と思ったのが、門番二人が二人ともHシーンがいらない、と云っているところだ。二人ともむしろHシーンは欲しがるタイプだとおもったのだが(二人ともスケベだからのう)だせからこそ、話から明らかに浮いているHシーンが許せないのかもしれんのう。
いや、小生はもはや枯淡の境地に達しているのでわからんなあ、なんてね。

ま、ここは門番二人の云う通りのままだ。
このシーンだけホン曹長のキャラが変わってしまっているというのと、童話調のお遊戯めいた全体の雰囲気に合っていない、ということだ。
Hシーンはあればいいというものではないよ。むしろそのHシーンにいたるまでに雰囲気・ストーリー・キャラクターづくりといった前戯をしっかりとすることによって、本番のHシーンがいかようにでも変わってくるのだ。もっとHシーンに至るまでを大事にしなさい。
とはいえ、読者へのサービス精神、という点ではここにHシーンを持ってこようとする考え方は悪くないよ。ただ現状ではサービスになっていないだけだ。

本来、最初に評するべきな文章力があとまわしになってしまった。
それなりに読みやすくはあるが、普通に下手、というのが素直な感想だ。文章にしまりがないし、説明は丸写しめいて下手だし、情景は書き割りめいている。
ただ、きみの場合は文章力を磨くことより、題材にするものを勉強したり構成を練り直したりした方が伸びるだろう。どんなにがんばったところで、文章力でねじ伏せる、というタイプには遠かろうからだ。

というか、どんなに文章力をつけたところで、この「イくんが一人だけ基地に残るという作戦に、いったいどんな意味があるのかまるでわからない」という致命的欠陥はなおらないだろう。シチュエーションを考えただけで、そこにいたる理由だの盛り上げ方だのがいい加減で安易なのが君の最大の欠点だ。もっとシチュエーションを活かす努力をしなければいかんよ。

というわけで、ずいぶん長くなってしまった上に、ちよっとドタバタしてしまったが、はじめに云ったとおりアメをあげよう。千石鴨門弟、五級からスタートだ。
ただし鴨くん、ずいぶんと厳しく云いはしたが、今回の投稿された四作の中で、話的には鴨くんのが私は一番好きだ。門番Mも「私は好きです、この話」と云っている。話のもつ魅力を引き出せる実力を身につければ、一気に伸びる可能性を秘めているだろう。腐らずに精進したまえ。

とりあえず、戦争ものを書く前に、休日を一日潰して戦争映画でも見尽くしてみたまえ。『プライベート・ライアン』『JSA』『フルメタルジャケット』『戦場のメリークリスマス』などの有名作品を見るだけでもずいぶん違ってくるのではないかな。読むのも書くのもひたすらに勉強だよ。


(また長くなってしまったので続く)




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3 コメント

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ありがとうございました (千石鴨五級)
2009-07-27 00:44:55
うなかじま先生と門番M、門番Hさん
熱いご批評ありがとうございました!
(あと枚数を明記しないで申し訳ありませんでした)

何回かBL誌に投稿していつも真ん中あたりで
止まってしまっていたのでずっと悩んでいたのですが


そうか


下手だったんだ


先生には笑われるかもしれませんが、
意外とこれが自分では分からなかった。。。

 まずストーリーの構成と資料の勉強に
重点を置いて勉強しなおします。
(文章力はたぶん、ご指摘のとおり力を入れれば
入れるほど間違った方向にいきそうなので…)
 ストーリーは好きだと言ってくださった
先生方の言葉を胸に、がんばります。


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ウヒョー!!!! (主腐)
2009-07-27 04:27:17
うなさんはさ、梓フリークなら誰でも道場長できるっていうけど、
これはやっぱりうなさんなみの霊媒体質でないと無理すよ。
文体模写くらいならもしかできるかもだけど、あふれくる魂までは無理さ。

今回も楽しかった!!有難う!!

激突必至な次号も舞ってます!!
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Unknown (うな)
2009-07-28 02:20:04
>千石鴨五級
いやいや、こちらこそ投稿どうもでした。
とりあえず、うなぎは知り合いに
「うなかじま先生の云う通りにしてたら、小説は上手くなるけどBLデビューからは遠ざかるんじゃない?」と云われて返答に詰まったという事実を胸に、これからもがんばってください。


>主腐さん
そもそも文体模写をするには作者の気持ちみたいなものもつかまなきゃダメなので、文体模写ができるなら道場主もできる!
できないとしたらポイントの押さえ方が足りないだけなのだ!
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