うな風呂

やる気のない非モテの備忘録

Story Seller〈2〉  うなぎ

2011年11月07日 | 読書感想
Story Seller〈2〉 (新潮文庫)
クリエーター情報なし
新潮社


新潮文庫のアンソロジー。


沢木耕太郎『マリーとメアリー』

飛行機に乗っているとブラッディ・マリーが飲みたくなる、というところから端を発するいろいろな与太話。
沢木耕太郎ははじめて読んだが『深夜特急』で知られるノンフィクション作家だけあって、読んでいると旅をしたくなり見知らぬ人と酒を飲みたくなる好編。
どうでもいい無内容にも等しい話なのに読ませるのはさすが。こういう嘘かホントかわからない話を自信満々に魅力的に語れるのが作家本来の魅力だなあ。



伊坂幸太郎『合コンの話』

合コンで想定外に初対面だらけのメンツになって小さな騒動が起きる話。
冒頭のあらすじで「楽しい会話とはっとする出会いがあるものの、人生は変わらない。もちろん、世界も変わらない。」と自ら書いているように、本当に特になにも起こらない小さな話。
なにが起こったわけではないが一人一人の心の中には小さな変化が起こった、とい人生の機微を感じさせる話で、それを魅力的に読ませるのは確かな技量の証拠。
伊坂はこういう話を書かせると本当にセリフから展開から上手い。逆にむかつくくらい。



近藤史恵『レミング』

前巻に収録された『プロトンの中の孤独』同様、長編『サクリファイス』に出てきた赤城と石尾を主人公とした番外編。
一本の話としての面白さはもとより、『サクリファイス』における赤城と石尾の関係の掘り下げにもなっており、ひいては『サクリファイス』における二人の行動原理を補完する名番外編。『サクリファイス』の事件の真相には唐突な面があったので、今作でうまく補完できている。
そんでいつも通りホモい。あと著作リストに『遥かなる時空の中で』のノベライズがあったので色々納得した。



有川浩『ヒトモドキ』

家に転がり込んできた伯母がとんでもないKYなゴミ屋敷族で大迷惑、という話。
死ぬほど胸糞悪い。迷惑な伯母さんが、じゃなくて主人公と作者が。むかつくとかつまらないとかじゃなくて、とにかく主人公と作者が胸糞悪い。
伯母さんの話が通じない感じや、子供として伯母さんに抵抗しにくい環境の憂鬱さや、みっともない身内をもつ恥ずかしさなどは大変リアルに書けていて、上手い。実際、こんな伯母さんが身内にいたらたまらん。それはよく書けている。子供の身のままならなさと世界の狭さの表現としては。

しかしただ一方的に伯母さんを罵倒するばかりで、家族のだれもが根本的な解決を図ろうとせずにず~~~っと被害者面をし続けるのが本当にむかつく。なぜ登場人物の全員が中学生のような狭い見解と行動力で生きているのか?
ついには主人公が大人になり離婚した理由までも伯母さんのせいにしたくだりでは、あまりにも拳がわなわなとして壁殴り代行に仕事を依頼しようかと思ったくらい。確かに結婚式に闖入されたらむかつくし、あとになっても気分は悪いだろうが、それが原因で二年も経ってから離婚って、そりゃそんなことを根にもつ旦那が悪いんだし、その程度の薄い関係の身内のマイナスを二年もかけて払拭できなかったてめえが悪いんだろ糞が。
主人公以外の登場人物も、主人公と同じくらいに胸糞悪く、特に被害妄想にも等しい理屈で伯母さんを忌避する弟の気持ち悪さときたらない。こんな男がいたら毎日腹パンしてあげたい。それが優しさというものだと思う。
三人称にも関わらず、終始主人公の一方的な思い込みによる罵倒で進行するため、作者自体がこういう狭い見解で被害者面して人を見下しているようにしか思えず、本当に胸糞悪い。意味もなく嫌われたいと思っている人はなんているはずがなく、もし無意味に嫌われるような行動をとっているとしたらそれは生きるのが下手なだけだというのがなぜわからないのか。
いや、もちろんそれで傍迷惑が許されるなんてことはまったくなく、相手の思惑に乗ってあげたり甘やかしたりする必要なんてまるでないのだが、しかし家族全員が中途半端に世間体を気にして決定的な行動をとらずに被害者面なのが本当に胸糞悪い。挙句妖怪呼ばわりとか、ホント小学生かよ。いじめられっ子を~~菌と呼ぶのと同レベルの発想。

なんというか作品全体が、中流階級の子供がクラスの底辺にいる薄汚い子供に対して集団で陰口叩いて、だれかに注意されたら「~~ちゃんが悪いとおもいま~す。だって~~ちゃんは人に迷惑かけるしこの前も~~で~」とやっているような感じの空気に支配されている。あくまで積極的に中心になっていじめず、傍観と陰口だけ叩いているタイプな。反省もしないし覚悟もなにもないからある意味一番タチ悪い。だから中流が一番むかつくんだよ糞が! と思わずにはいられない。
異物を排除し労せずに己の領域を守ろうとする主婦的感覚というべきか、女性の保守感覚の悪い面だけが表出したような世界観。

山田宗樹の名作『嫌われ松子の一生』の対極にあるような価値観の作品だ。自分なりに一生懸命にやったのに誰にも見返られずに他人に迷惑かけて野垂れ死んだ松子とは本当に正反対。
有川浩は組織の硬直とか矛盾とかすれ違いを書くのは上手いのに、一人の人間の心理を描くとなぜこんなにもひとりよがりな作品になってしまうのだろうか? ある意味、テクニックとか題材とかを抜かしたこここそが彼女の創作の本質な気がするので、むしろこの路線で掘り下げて欲しい気もする。むかつくけど、これだけむかつくってことは読者の心を動かしているということで、エンターテイメントを越えたなにかがこのテーマにはあると思う。嫌な中流女の受け身な保守と自己弁護を極めて欲しい。おれはひたすら壁を殴り続けるから。ホントむかついたわ。



米沢穂信『リカーシブル――リブート』

父が再婚した上に死んで、継母とその連れ子と気まずく暮らしている中学生女子の話。
まず主人公のあらゆる部分が中学一年生女子に見えないというところは仕方ないと我慢できなくもないが、これは短編じゃなくてなんかの長編の出だしではないだろうか? なにも話が終わってないどころか、なにも始まってすらおらず、いったいどう楽しめば良いのかいささか困惑してしまった。
本当になんなんだろうもこの話は。このアンソロジーも前巻もオチがついている話ばかりだったので、なぜこれだけまったく話がない作品だったのか、理解ができない。だから面白いもつまらないもない。



佐藤友哉『444のイッペン』

前巻に載っていた『333のテッペン』の続きで、元殺人鬼らしい主人公が新しいバイトとしてイベントでの動物の世話をはじめたら、わずか十分の間に犬が四百四十四匹の犬が消失した、という話。
厨二病全開の「ヤバイオレはマジヤバイ」と云っているだけに等しい内容の小説で、友哉たんの軸はまったくぶれてない。えらい。
ファンタジーとしか思えない不可解で魅力的な情景を、ロジックを用いて現実にひきずりおろすのが本格ミステリィの魅力で、八十年代後半からの新本格の潮流は、現実味を薄くしてまでもその幻想をより大掛かりにしてしまった作品群だ。
その最果てに生まれたのが現実なんてクソッくらえで浮ついて壮大で支離滅裂な自称「大説」を書いた清涼院流水であり、その流れで生まれたのが友哉たんや舞城王太郎たちメフィスト賞作家たちだ。
彼らにとって殺人事件は解くべき謎ではなく、己の荒んだ精神世界を表現する情景の一つでしかなく、カッコよい自分、ヤバイ自分をアピールするポイントでしかない。
舞城王太郎はその中でも本物の天才(というか真正の病人)だと思うが、友哉たんは勝手に逆ギレした凡人という感じで、だからこそこの厨二感覚が生々しくて良い。
だから謎解きがめちゃくちゃだとかストーリーに無理があるとかは問題ない。作者にとってこの世界がこう見えている、あるいはこうあって欲しいと願っている、というのが最も大事なのであり、そういう意味において佐藤友哉はいつだって完璧な仕事をしている。
歳を重ねても知識が増えても地位を得ても家庭を持ってもいつだって心は自意識がオーバードライブしているだけの中学生。それこそが友哉たんの魅力。
だから今作もひどい小説だったし、それでこそ最高の仕事ぶりだったと思う。



本多孝好『日曜日のヤドカリ』

妻とその連れ子と仲良く暮らしている男が、妻が駆け落ち?とビビッて妻を捜したけどほのぼのする結果になる話。
子供と敬語でほのぼの会話をしている男が、文系女子の妄想する素敵なパパさんみたいな感じで、終始イラッ☆とし続けた。
話自体はそれなりにうまくまとまっており、過不足なく読ませ、そして読んだ端から中身を忘れるような完成されたちょっといい話であり、ちょっといい話が読みたいときに読むには最適の内容と文量だ。このアンソロジーが想定しているであろうメイン読者層を考えると、一番いい仕事をしていると思う。
書き方から察せられるとおり、自分的には一番読みたくない類の話ではあった。でもこれは読んだ自分が悪い。ごめん。



前巻とほとんど執筆陣が変わっていないこともあり、全員が自分の仕事をわかっていることもあってやはりクオリティは高い。普通におススメできる。さすが文庫の王者・新潮のアンソロジーだ。是非とも読んで欲しいし、特に有川浩の『ヒトモドキ』を読んで欲しい。あれを読んで「伯母さん怖いわ~」と素直に思えた人は僕と性格が合わないことを保証するね。あとあれを読んで伯母さんの立場に感情移入したやつはめんどくさいいじめられっ子だから関わらない方がいいこともね!







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1 コメント

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Unknown (ホーリー)
2022-05-24 14:02:16
はじめまして。そんなうなぎさんに読んで欲しい作品は「別冊図書館戦争2」です。
生々しくリアルな陰キャ女への見下しが凄いので、是非感想を聞きたいです
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