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うな風呂

やる気のない非モテの備忘録

チラ見せ「うなグイン」

2010年06月01日 | 栗本薫
そういえば、去年の末に栗本薫同人誌「私説・栗本薫伝 うなグインサーガ」を出版したのですが、そのまますっかり在庫を抱えたままだったということを忘れていた。
まあ赤字はギリギリ回避できたのでべつにこのままでもいいっちゃいいんですが、作ってから半年経ったことだし、ちょっと中身の一部を載せて見ようかと。欲しかった人はたいてい買ってるだろうけど、念のため、どんな中身だったのかを一部紹介しようかと。

この同人誌は、去年の五月に亡くなった小説家、栗本薫のファンブックで、本サイトの栗本薫に関する文章をまとめ、書下ろしを加えたものになっています。
こまかいことは記事の最後に紹介ページへのリンクをはりましたので、そちらを参考に。
今回はその書下ろし部分のメインである、グインサーガ改変プロット「うなグインサーガ」の名場面集(要するにショートシナリオ)から、グインとナリスが対決するシーンである「クリスタル公アルド・ナリス」を載せてみようかと。ホントはグインとイシュトが対決するシーンのほうがいいんだけど、あっちは長いからブログに載りきらないし。
これでもし気に入ったら、通販してますので、紹介ページを見てみてください。
ではそういうわけで、チラ見せ「うなグイン」スタート。





  クリスタル公アルド・ナリス



 扉の向こうは、闇に支配されていた。
「姿を見せろ、アルド・ナリス」
 静かな、しかしよく響くグインの声が、その暗闇の広間に響きわたっていく。いまでは闇王朝と呼ばれてはいるが、永の年月、中原の華としられたパロの首都クリスタルの象徴たるクリスタルパレスの、そのまた中枢とも云うべき玉座の間である。かつてそうであったように、光がともれば、その場に広がる光景の、いかほどに絢爛たるものか。中原一の大国の王であるグインにすら、想像もできぬ。
 しかし、いずれにせよ、いま中原の文化の粋は、闇に閉ざされている。その奥に息を潜めているはずの、簒奪王とともに。
 グインは、暗闇の中に足を踏み出した。
「聞こえぬか、アルド・ナリス。大ケイロニアの王にして元帥であるこのグインが訪ねて来たのだぞ。それに対する貴公の礼が、これか。かつて噂で、アルド・ナリス公は典雅の裁決者であると聞いた。その典雅とやらがこれでは、パロの礼節も程度が知れるというものだな」
 なにひとつ恐れることのない足取りで、グインは歩を進める。実際、グインはなにも恐れてなどいなかった。
 と、闇の中より、いらえがあった。
「パロはケイロニアとは違うのだ、グイン王。その歴史は長すぎ、複雑に入り組みすぎた。ゆえに、その礼節もまた、質実剛健を旨とするサイロンとはあまりに異なるのだよ。さあ、パロ式の歓迎をしよう。ようこそケイロニア王グイン、闇王朝パロへ」
 その声が合図であったのか、グインの左右より、一斉に炎があがった。
 燭台であった。緻密な意匠を凝らされた美しい燭台が、グインを挟むようにして二列に並び、そこにいちどきに炎が灯されたのだ。そして、二つの炎の列がかたちづくる道の先に、一段と高く据えられた豪奢な玉座があり、そこに、目的の人物は優雅に――そう、これ以上ないというほど優雅に、長い黒髪をかすかになびかせて、手のひらのグラスを傾けながら、アルド・ナリス一世は微笑んでいた。
「はじめまして、だね、グイン。妻に君のことをはじめて聞いたときから、ずっと会いたいと思っていたよ」
「その妻を牢に捕らえ、民にはいままでの五倍もの重税をかけ、国中の芸術家をパレスに集め不眠不休で働かせ、国境地域の治安維持隊を解散させ、自身はこのパレスにたてこもり遊興にふけった挙句、こともあろうに仇敵であるゴーラと手を組み、我がケイロニアに侵略戦争を仕掛けた、その真意を聞かせてもらおう」
「なにも」
 微笑んだまま、ナリスは告げた。
「真意など、なにもないよ。すべて、私が楽しむために、そうしたいからそうしただけのこと。見るがいい、グイン」
 ナリスがかるく指先をふると、玉座の上空にも火が灯った。燭台はおろか、なにひとつない中空だというのに。
「くだらぬ手妻だな。よせ、おれには通じぬ。<闇の司祭>グラチウスと争い、ドールその人とすらまみえたおれだ。手妻ごときには驚かぬ」
「せっかちだね、グイン。でも、ちょうどよい名前を出してくれた。<闇の司祭>グラチウス……私も、一度だけその者に……少なくともそう名乗る者に遭遇したことがあるよ。私が十六の時のことだ」
「ほう、彼奴らしいことよ。年若いうちにおぬしを懐柔しようとしたのだろう」
「さすがだね。そう、その通り。あの者はこの私を懐柔し、自らの支配下におこうとしたのだ。まったく、愚かしいにもほどがあるね。このアルド・ナリスをだよ、グイン! その時に<闇の司祭>は私をこう呼んだのだよ。<闇と炎の王子>とね」
 揺らめかしていたグラスを傾け、カラム水で口をしめらすと、ナリスは喉の奥から押し殺した笑いをあげた。
「くくく、たしかにそうだ。たしかに、いまのこの場は闇と炎が支配している。たしかに私は闇と炎の王となったのだ。違うかな、豹頭王。だとしたら、世界三大魔道師とやらも、なかなか馬鹿にしたものではないね。そして、闇と炎が浮かびあげる答えは、これだよ」
 炎が、一段と激しく燃えあがり、はるか高みにあるパレスの天井をも照らした。そして、炎に浮かびあがるそこには、巨大な一幅の絵画があった。
「パロは黒竜戦役でずいぶんと多くの命が失われてしまってね……悲しいことに、その中には多くの芸術家たちもいた。まったく、モンゴールの不粋にも困ったものだ。文化を破壊することの恐ろしさを知らないと見える。おかげで、私の眼鏡にかなうものをみつけるのに数年がかかってしまったよ。……この絵画を描いたものは、もとはアムブラの学生だったんだよ、グイン。レムスによるあの虐殺を逃れた数少ない生き残りさ。私が庇護していなければ、かれの命もあの時までだっただろう。おかげで、以来、私の崇拝者になってね」
 人物画であった。それも、一目でそれとわかるほどに、非常に高い技術によって緻密に描かれたものだ。ケイロニアでは、黒耀宮にすら、これほどの絵画はあるまい。さすが中原の文化の粋と呼ばれるクリスタルであると云わねばなるまい。
「なるほど、おぬしの肖像画か」
 そう、そこに描かれているのは、アルド・ナリスその人であった。
 長い黒髪と、その間に輝く銀環。妖しく切れあがったまなざしと、酷薄な笑みを浮かべ、奇跡的なバランスをもって、性別を超越した美しさを誇るその姿は、まぎれもなくいまグインの目の前に立つアルド・ナリスのそのものであった。
 その背に黒い蝙蝠の翼が、その額に角が生えていなければ、だが。
「私はそのものが格別に気に入っていてね。いつか私の肖像を書かせたいと思っていたのだよ。そのために、あの虐殺からも救ってあげたのだ。見事なものだろう? グイン。これは中原の文化史に残る一枚だ。これを描かせるために、私は即位してよりずっと、特等席で私の治世を見せてあげたんだよ。私が罪人を裁く姿ね」
 毎日百人とまで云われた、罪人の処罰。国中から集められた罪人たちが、毎日パレスの庭で首を落とされていく光景は、神聖パロを象徴する姿として、またたくまに中原にしらぬものはなくなった。そのすべてを、カラム水片手に笑いながらナリス王は眺めていたという。
「そして、黒蓮の粉によって、正しい眠りを奪ったまま、一月の間、不眠不休で描かせたのが、この絵さ。この絵の題はね」
 愉快でたまらぬという風に、ナリスは笑った。
「『ドール』というのだそうだよ」
 悪魔王の名をもって呼ばれることのなにが愉悦であるのかナリスの押し殺した笑いは止まらない。
 だが、グインの答えは冷淡であった。
「似ておらぬな」
 ナリスの笑みが、消える。
「おれはドールその人とすらまみえたと云っただろう。この絵画も、おぬしも、まるでドールには似ておらぬ。おぬしはただの人だ、アルド・ナリス。ゆえに人なる身のおぬしに勧告しよう。もはや戦いの趨勢は決した。いさぎよく降伏するがいい」
「そういわけにもいかないのだよ、豹頭王。私はパロの守護神、クリスタル公、アルド・ナリスなのだ。戦わずして降るわけにはいかぬのだ。そしてなにより」
 その手のうちにあそばせていたグラスの中身を飲み干すと、ナリスはグラスを投げ捨てて、玉座を降りた。
「一人の剣士として、あなたの腕前に興味がある。生きながらにしてサーガとなった、豹頭王の実力にね」
「例え勝利したとしても、おぬしが得るものはなにもないぞ」
「あなたに勝つ、という事実以上のものが、この世のどこにあるというのだね?」
 音もなく、ナリスはレイピアを抜きはなつ。その姿から、これから起こるであろう戦いとはまるで結びつかぬ優雅なものであった。
 ゆるやかに、ナリスは玉座の段を下りる。まるでワルツを踊るような軽やかなその足どりは、気配というものをまるで感じさせず、じっと見ていなければ、歩いていることを信じられないほどであった。
「これでも、私はレイピアの使い手でね」
「パロ随一の、とつけるべきだな」
「よくご存知だ。しかし、さすがにあなたでは分が悪いと認めざるを得ない。あなたの膂力をもってすれば、受け止めた剣ごと私の肉体を壊すことだってたやすいだろうね。それに比べて、私の腕のなんと非力なことか。全力の一撃をもってしても、あなたに傷一つでもつけられるかどうか。そこで、こういう趣向を考えてみたよ」
 ナリスは、空いた左手を闇に掲げる。その薬指にはめられた指輪から、一筋の液体が、右手に下げたレイピアに向かってしたたり落ちる。
「ゾルーディアより手に入れた毒薬だよ。一滴でも体内に入ったならば、常人なら一ザンともたないという。もっとも、あなた人間であるかどうかはいささか疑わしいけど……試してみるかい?」
「よい。これでお互いに一撃ももらえなくなったわけだ。満足したか?」
「ええ、とても」
「ならば、もう無駄口はよせ」
「云われるまでもなく、そうさせてもらうよ」
 言葉と同時に、すべての炎が消えた。そしてナリスの気配もまた、闇の中へと消えていく。
 だが、逃げたのではない。
 グインの超知覚をもってすら感じ取れぬ闇の中に、たしかにアルド・ナリスが存在することを、やむことのなき刺突が証明していた。
「闇の中ならば、おれに勝てると思ったか」
 だが、その自信はあながち間違いとは呼べなかった。
 はやく、そして鋭い突きであった。
 もともと、レイピアなる武器は、パロのほか゛は好まれていない。防具を身につけた戦場のためにつくられた武器ではなく、平穏な日常での携帯と決闘のためにつくられた細剣は、長く平穏にまどろんでいたパロのほかには、使われる余地がなかったのだ。それゆえに、パロのほかに、レイピアの名手を見つけることは難しい。いまグインが剣を交えているほどのものとなると、なおさらだ。
 打ち合わせたはずのグインの剣をすり抜けて、細い切っ先がのびてくる。剣技というよりは、まるで魔術であった。間一髪ですべての突きをかわしながら、内心、グインは舌を巻いた。
(戦場で得たものではあるまい。だが、天賦のものでもない。一突き一突きが、すさまじい修練の日々を物語っている)
 なによりもおそろしいのは、いままでにあったどの使い手とも一線を画する、気配のなさだ。
 あらゆる気配も足音もたてず、なにより、剣を使うものであれば隠すことのできぬはずの殺気が、ナリスの剣からは一切感じられなかったのだ。そのために、実際に目でとらえるまで、刃の出所が一切判別できない。
「面白いな、ナリス公。おぬしは立派な使い手だ」
「ナリス王だよ、グイン王」
 声のした方向に、グインすかさず身体を向ける。正面から刺突がきていたはずなのに、声は右方からきたのだ。だがそれすらも、罠であった。ふりむいた先の、その反対から、次の剣撃はグインを襲った。動物的な直感で背後を打ち払っていなければ、毒など関係なしに心臓を貫かれていただろう。
「あれは捌くとは……さすが英雄王だね」
 闇の中に反響する笑いすらもが、グインを嘲弄する。声に惑わされたときが、己の負けるときだとグインは察した。
 それは同時に、まやかされなければ、己の勝ちだということを告げていた。だがそれでも、戦いはすみやかには終わらなかった。
 アルド・ナリスは、まさに闇と炎の王子であった。
 闇のなかで、そのすべてを飲み込むように妖しく蠢き、レイピアをふるうほんの一瞬だけに、まるで炎のように激しくもえあがり、何者よりも黒く暗い輝きを発する。それは、なにかの手違いで人の世に生まれたとしか思えぬ、己とは異なる形での<異形>にほかならぬのだと、グインは知った。
 だが、それで十分だった。
「もうよい、ナリス公。時間がなさそうだ。次で決めるとしよう」
「つれないね、英雄シレノス。私はあなたと出会えて、嬉しくてたまらぬというのに」
「だからこそだ。この無益な戦いを、一刻も早く終わらせよう。全力で来い。おぬしのすべてを見せてみろ」
「そうさせてもらうよ、グイン」
 声が闇に沈み、一瞬の静寂が生まれた。
 最後の一撃は、その直後、闇の中で、音もなく、思いもかけぬ方向よりあらわれた。
 下。
 いかなる体術によるものか、ナリスのほそい身体は、まるで闇に溶けこんでいたものが実体化したかのように、グインのふところに突如としてあらわれていた。そして、その刃の切っ先は、すでにグインの胸板に――
 突き刺さる寸前に、グインは踏み込んでいた。後方ではなく、前方へ。
 最低限の動きだけで、神速の刺突をそらすと、同時に左手を伸ばし、ナリスのほそい首筋をとらえる。そして次の瞬間には、固く握り締めた右のこぶしで、ナリスのうすい胴を打っていた。勝負は、その一撃で決した。
 だがグインのこぶしは止まらなかった。
 深々と、二度、三度。
「吐け」
 四度目の打撃を胃にめりこませた時、ナリスの口から、先に飲み干したカラム水がこぼれ落ちた。
 そこに混ざる胃液とは異なる異臭を、グインの嗅覚はたしかにとらえていたのだ。
 だが。
「無駄だよ、グイン。私はことのほかカラム水が大好きでね。もはや中毒といっていいほどなんだ。先のカラム水は三杯目……一杯目を飲み干してからは、そう、ちょうど一ザンほどになるかな」
 云い終わると同時に、ナリスの口から大量の血が吐き出される。その血すらも、すでに毒によって黒く変色していた。それで、グインはすでに手は尽きているのだと理解した。アルド・ナリスは、あと数タルザンで死ぬのだ。グインの手によってではない、己の仕込んだ毒によって。
 グインは力ないナリスの肉体を床に横たえ、首をふった。
「わからぬな。なぜおぬしは反乱など起こした? いったい、なにが望みであったのだ」
「王になりたかった。ただそれだけだよ、グイン」
「嘘だな。おれには……おぬしが死に急いでいたとしか思えぬ」
「かもしれないね。ただ、そうでもしなければ、私は欲しいものをなにひとつ手に入れられなかった。私はあまりにも多くのものを欲しすぎていたのだよ」
 死の床にあって、なおナリスはすべてを笑うような、あるいはすべてをあきらめたような、酷薄な笑みを浮かべた。その顔に、苦痛の色はない。むしろ、解放感にも似た晴れやかさが、どこかにあった。
「いつから毒に気がついていたんだい?」
「おれはこんな頭だ。人より鼻が利く。はじめから、この部屋に漂う異臭に気がついていた」
「やれやれ、あなたが豹頭だということを計算に入れていなかったよ。このアルド・ナリス、一生の不覚だね」
「それと、おぬしはこう名乗った。神聖パロ初代聖王アルド・ナリス一世ではなく、パロの守護神、クリスタル公アルド・ナリスである、と。そう名乗る以上、おぬしの底にあるものは、簒奪ではなくパロの守護であると、おれは信じたのだ」
「まったく、あなたと云う人は……」
 血を吐きながら笑い、ナリスは告げた。
「グイン、レムスも知らない、パロの王太子にのみ伝わる口伝をあなたに伝えよう」
「なぜ、おれに?」
「聞けばわかるよ。いいかい? 『古代機械は豹頭のアレクサンドロスより預かりしもの、またいずれ帰り来たるアレクサンドロスに返すべきものなり。我がパロ王家は、そのために存在するものなり』」
 衝撃が、グインを打ちのめした。
「豹頭の……アレクサンドロスだと?」
「いまこそ、あなたに古代機械を返すよ。パロ三千年の使命は、ここに果たされた。あなたに会えてよかったよ、グイン。そしてこれは、王家の人間ではなく、一人の男としての頼みだ」
 ふるえる白い手が、グインの巨大な手をさがしあて、握る。
「リンダを……頼む」
 そして、クリスタル公アルド・ナリスは静かに目を閉じた。
 数え切れぬ栄華とそれを上回る妄執にとらわれた闇と炎の王子の戦いは、ここにようやく、幕を閉じたのであった。



 

 

 


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Unknown (いちファン)
2020-03-10 19:44:07
昔ブログでプロットを読ませていただいた"うなぎゅいんサーガ"、出版されていたとは!しかし在庫なし。なんとか読ませていただく方法はないでしょうか?
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