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うな風呂

やる気のない非モテの備忘録

PSYCHE  唐辺葉介

2017年02月17日 | 読書感想
飛行機事故で自分以外の家族がみんな死んでしまった主人公には、いつしかかつてのように家で暮らす家族の姿が見えるようになっていた。が、それに対して特にリアクションをすることもなく淡々と学校に通い絵を描いたりした。

非常に柔らかなリズム感に優れた文体で、狂気に陥っていく人間を丁寧に描いている。
作中で大きな事件が起こることはないが(というか大きな事件が起きてしまった後の話とも云える)いったいだれが正気でなにが真実なのか、だんだん曖昧になっていく筆致は見事であり、ストーリーというよりは状況を読者に与え、そこからなにを読み取るかをも任せるという意味で、非常に文学的な話である。
著者は瀬戸口廉也という別名義で18禁ゲームのシナリオライターをやっていた人物で、手がけた作品は売上的にはあまりふるないながら、そのエロゲーとしては特異なシナリオと文章力でマニアから非常に高く評価されているのは以前から知っていたが、なるほど、たしかに上手さという意味ではかなり上手い。若者特有の世界が曖昧で不穏な感じを、オカルトに足を踏み込みながら、煽るようなこともなく淡々と描いて、読者の価値観を揺らすような繊細な書き口は見事だ。

が、いまはあんまりそういう繊細な作品に思い入れる時期でないためか、上手いし好きな人はかなりのめり込みそうだけど、いまの自分に訴えかけるなにかがある作品ではないな、と思った。まあ繊細な若者じゃなくておっさんだしな俺……

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