言幸 燕 日記

日々感じたことなどを絵やマンガで表現しています。
マンガでくすっと笑って頂けたら幸いです。

アルツハイマーの画家が描いた絵

2012年09月07日 | 好きな作家の絵
最近、脳の病気やら死に関する本ばかり読んでいて、
その流れで偶然見つけた絵ですが、久々にガツンときました。
ちょっと、これはすごいな、何も言えんなと思わされた絵です。
こんな圧倒的な力で迫ってくるものに対しては、
ただただ沈黙するのみです。

作者はロンドン在住のウィリアム・ウテルモーレン。
1990年(当時57歳)の時にアルツハイマー病であると診断され、
病と闘いながらも自画像を描き続けたそうです。


1990年の作品(57歳)
アルツハイマーと診断される



1996年の作品(63歳)
この辺りから自分の名前が書けなくなる












1997年の作品(64歳)











1998年の作品(65歳)







1999年の作品(66歳)



2000年の作品(67歳)


私は恥を承知で告白すると、アルツハイマーの患者でも
絵は描けるだろうと思っていました。
彼らはただ何かが(日付・名前・場所)などが覚えられない、あるいは
記憶できないだけであって、もし目の前にリンゴがあれば、
(リンゴと認識できなくても)
その形をなぞることはできるのではないかと思っていました。
(※もちろん病気の程度によると思いますが)

しかし、アルツハイマーの場合、【空間認識力】が低下することがあるらしく、
そうすると、うまく図が描けなかったり、
階段の段差が分からなかったりするそうです。

空間認識ができないというのは、たぶん、奥行き(遠近)や
立体的な(高さ・深さ)などがきちんと掴めない世界・・・。
脳梗塞の本を読んでいたら、空間認識ができなくなると、
世界が平面的に見え、物と物との境目が分かりにくくなるとありました。
例えば、地面に丸い模様があっても、それを穴と認識できないなど。
(凹んでいるいるように見えない、深さが分からない)

そこで想像するのですが、もし空間認識ができない場合、
鏡に映った自分の姿は、本人にどう見えるのでしょうか?

●自分と背景の区別はできるのか?
どこまでが自分で、どこからが背景かという境界の認識はできるのか。

●顔のパーツを見て、目や鼻や口が何を指すのか
分からなくなることもあるのか。

●鏡の中の顔が自分だと分からない場合、それはどういうことなのか。
自分が無くなってしまいそうな気がするけど、無くなる訳ではないのか。
私が自分の名前を忘れ、家族を忘れ、友達を忘れ、故郷を忘れ、
これまでの経験・記憶を一切がっさい綺麗さっぱり忘れても、
わたしはわたしであるのか。
何をもって、わたしはわたしであるのか。
難しくてよく分からない。

これらの自画像の変遷を見ていると、
きっと彼の見ている世界は、私たちが見ているものの見え方とは
大きく異なっているのだろうと思いました。

彼のアルツハイマーという病気の如何に関わらず、
(病気であるがゆえにより一層、という意味ではなく)
私はこの絵が単純に素直に好きです。
最後の絵などは特に。

※ウィリアム・ウテルモーレンについての詳細は、
エリオット・アキラさんという方のブログが分かりやすいです。
画像などはこちらのサイトからお借りしましたm(_ _)m
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虚無に飲み込まれた画家