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魔除け(2)

2018-05-11 23:54:55 | 民俗学

魔除け(1)より

 平成4年7月1日発行の『遙北通信』121号に引き続き、8月1日発行同通信122号へ、わたしは「魔除け(2)」と題した文を掲載した。平成4年4月25日から6月7日にかけて開催された、群馬県立歴史博物館の第41回企画展であった「魔除けーまじないの民俗」を訪れた際の図録を参考にして、「魔除け(2)」を綴ったものである。

 

魔除け(2) (「遙北通信」第122号 平成4年8月1日) HP管理者

1.魔除けの事例

 魔除けの方法として、ふせぎ、おくる、まつるといったものが考えられる。群馬県立歴史博物館の第41回企画展で行なわれた「魔除け」の展示物からその事例を紹介する。

 ①『ふせぐ』
 字の通り外からの侵入を防ぐまじないのものであり、家単位やムラ単位で魔を防ぐ方法が行なわれている。

 道祖神 ふせぎの神として最も一般的に知られているが、地域によって呼び方に違いがある。とくに防ぎとしては塞の神として呼ばれる地域があり、字の通りサエギルという意味もあるようだが、実際は道祖神呼称地域と信仰の差はあまりない。道祖神そのものが地域的に偏っていたりするが、主に道の神とか縁結びの神としての信仰が強く、魔を防ぐといった信仰は強くない。長野県更級(さらしな)郡大岡村芦ノ尻では、小正月に家々から集められた正月の注連飾りなどで道祖神の石塔を覆い目・鼻・ひげ・笠などをつけて神像を作っている。ここではムラはずれの三差路に建てられており、境の神としてムラを災いから守ってくれるといわれている。こうした信仰のある一方で道祖神に託して悪神を送る方法もあり、後述したい。

 

滋賀県日野町熊野の勧請掛け(昭和64年1月3日撮影)

 

 ツナハリ 千葉県木更津市では小正月にムラ境の道の両脇に竹を立て、綱を張り渡して外から入ってくる悪病や災難を防ぐ魔除けをする。ここではツナバリと称しているが、同様の防ぎのまじないとしてカンジョウナワがよく知られている。これは滋賀県や三重県などに多く、正月から二月にかけてムラ境に綱を引き張る行事である。新年を迎えたその年、悪疫や悪鬼などがムうに入らないようにするために行なわれている。このようにムラ境に綱や縄などを張る行事は各所にあり、藁で大蛇を作りムラ境に置いたり、大きな草履を作り置く場合もある。これを辻ギリなどと称すところもある。飯田市千代芋平ではかつて8月17日にズズマワシ(数珠回し)を行った。この時ジョウリ(草履)を片方ずつ三つ作るが、この時ジャ(蛇)も三つ作る。藁で作られたジャはジョウリと共にムラ境の3ヶ所に吊し悪病が入って来ないよう祀ったという(註1)。

 厄払い人形 岩手県和賀郡湯田町では1月19日の厄払い祭りに、ムラの人々が藁を持ち寄って、ちょんまげ・裃姿の藁人形を作っている。これをムラ境の大木に高く縛り付け災いの侵入を防いでくれるよう祈っている。先程のツナバリに変わるものとして人形がムラ境に立つわけで、大岡村の道祖神の飾りも人形と同様のものである。このように人形をムラ境に押し立てる事例も多い。埼玉県幸手市下音羽では、4月20日に辻縄の行事が行われ、ムラ境4カ所に藁のダイジャと人形を立てて疫病除けとしている。新潟県東蒲原郡鹿瀬町夏渡戸の鍾馗祭りでは、藁の男女一対の鍾馗様を作り、ムラの上と下の境にある杉の木にそれぞれ1体ずつ立て、厄除けとしている。青森県南津軽那平賀町平田森では、春秋の彼岸にボーの神送りを行っている。藁で男女一対の藁人形を作り、男には刀、女には弓矢を持たせ、笛・太鼓・鉦ではやしながら各戸を回り、ムラ境に送った後にムラの4か所の入口に立てる。ムラの外に悪霊を追い侵入を防ぐという。この場合はふせぎとおくりを同時に行っている事例であり、後述するおくりにも共通するものである。

 石敢当  十字路や三差路、曲がり角、突き当たりなどに立てて魔除けとする石塔である。沖縄諸島から九州南部にかけて多く見られ、西日本や東日本にも数は少ないながら建てられている。

 厄神除け 群馬県邑楽那明和村斗合田では、旧暦4月3日に藁で酒樽・桟俵・ワラジ・草履・牛のワラジ・馬のワラジ・蛇と注連縄を作り、それぞれに「八坂神社」と九字の呪符号を書いた紙の札を付け、ムラ境の道7か所に立てる。厄神がムうに入らないようにさえぎるという。

 コトノハシ  兵庫県朝来那朝来町では、春2月ころの天気の悪い日に、ヤドになった家に集まってユリダ(ユリラ)の木などの箸と小さな杵、片足だけの藁草履と藁製の房(タワシ)を作り、小豆餅やおはぎを食べて酒を飲む。箸はワラヅトに刺して後でその他の作り物と一緒にムラ境の木などに吊し、魔除けとする。このような2月のコトヨウカごろに行われる防ぎの行事も全国的に多い。特に藁草履をムラ境に吊す行事は2月8日ごろよく見られる。長野県下伊那郡松川町上片桐諏訪形ではヤクジンヨケと称して、ムラの入口2か所に大きな藁草履を2月15日に掛けている。

 弓射ち  奈良県桜井市滝倉では、新年を迎えて悪疫や悪鬼などがムうに入ってこないように、正月から2月にいたる間にムラの人々が神社に集まって「鬼」と書かれた的に矢を射る。このように弓を射ることにより魔除けとする事例も見られる。栃木県今市市小倉では、3月13日の三所神社の例大祭に同様に「鬼」と書かれた的を射抜くことにより、その年の悪霊を退散させることができるといっている。このように新年に弓を射る事例は山の神の祭りなどにもよく見られ、その関係が問われる。

 以上はムラの魔除けといったものであるが、家の境に出す魔除けもある。その中で前述したムラの魔除けにおいて行われたお札などを家に持ち帰り門口に出す場合も多い。群馬県榛名町榛名神社の大被いでは道饗祭りが行われ、この中でムラの4方の入口に注連縄を張ってムラウチに悪病や悪いモノが入って来ないようにしている。この時奉献された神札は、次の日に氏子に配られて魔除けとされている。このようにムラの魔除けの儀礼が家の魔除けといった個々のものへ展開されることは多い。

 そのほかの家の魔除けを紹介する。

 シャモジ  百日咳あるいは風邪除け・咳除けのまじないとして、戸口に杓子をうちつけることは広く行われている。

 逆さ馬 埼玉県秩父市では、悪病除けとして「馬」と書いた半紙を逆さにして玄関にはっている。秩父から山を越えた長野県南佐久郡八千穂村でも、子供の風邪がはやると「馬」の字を鏡文字にして半紙に四つ並べて書き、戸口にはっている(註2)。

 まじない魚  佐渡郡小木町ではトゲのある魚を門口に下げて魔除けとしている。これも海浜地方ではよく行われる魔除けの風習である。

 蘇民将来  三重県の伊勢志摩地方では門口に「蘇民将来子孫」などと墨書した札をつけた注連縄を一年中吊している。これは悪疫退散・家内安全のまじないであるという。長野県上田市国分寺で1月8日に行われる緑日では蘇民将来符が頒布されるが、これも同様の意味である。

三重県鳥羽市の魔除け(平成4年8月22日撮影)

 

 鬼十三月  長野県南安曇那安曇村では、小正月ごろクルミの木を削って「鬼十三月」を作り、戸口に魔除けとして飾っている。このように小正月のモノヅクリとして飾られる物も同様の意味を持っている。群馬県多野郡中里村神ケ原では鬼の歯といっている。

 藁人形  ムラ境に立てるのと同様に家の門口に立てる藁人形もある。岩手県遠野市松崎では、2月7日から9日の、家の者が全員揃った晩の夕食前に、藁人形を門口に立てて1年間の無病息災を祈っている。山形県最上郡船形町長沢平石では、田植えが終わった6月上旬のサナブリの期間中にヤンメイオクリ(痛送り)が行われている。ムラの青年団が虚空蔵堂に集まり、ムラはずれで燃やす等身大の女人形を作るが、それとともに小人形を作り、これをそれぞれの家に持ち帰り門口に立てている。

 このほかにもふせぐ魔除けの事例は数多くある。次回はおくる、まつるといった魔除けを紹介する。

 註.1 岡本春男氏談 明治43年1月15日生まれ
   2 『南佐久郡誌民俗縮』同誌編纂委員会 平成3年 809頁

 

 ところで、記憶になかったが、日野町熊野神社を訪れた際のフィルムを見ていたら、拝殿の前で記念撮影したものがあった。それがこの写真である。もちろんわたしが撮影しているからわたしは写っていないが、故田中義廣先生や故吉野裕子先生がいる。

 

魔除け(3)

 

 


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