Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

繭玉か、陽石か

2018-04-05 23:01:41 | 民俗学

茅野市茅野町の道祖神より

 平出一治氏は、一連の道祖神祭りに関連して次のような報告もしている。


松本市神沢の繭玉を持つ双体道祖神をみて (『遙北通信』112号 平成3年7月1日発行) 平出一冶

 今までに諏訪地区以外の石神や石仏を見たのは、遺跡(発掘調査)見学に行った折にたまたま近くにあったものを、何の目的もなく覗いた位で印象に残っているものはない。平成2年11月12日に僅か3時間と短かったが、松本の道祖神を見て歩いた。本の写真からイメージしていたものとは、その大きさは違ったし、造形の豊かさに驚かされている。
 小正月のどんど焼き・道祖神祭りにおける繭玉のあり方について、あれやこれやと考えてみたが、未だ何もわからないでいる。何か、糸口がさがせたらと思い松本市神沢の繭玉を持つ道祖神を見てきた。

 

撮影 1990.11.12 平出一治氏


 この双体像は、神沢公民館近くの辻に、石垣を積み上げたしっかりした高さ112cmの台座に、台石をのせその上に祀ってある。
 大きさは高さ96cm、幅57cm、厚さは65cmと厚く、片寄った見方をすれば、繭に見ることもできるが、胡桃沢友男氏は「信州松本・性神あれこれ」(『日本の石仏』45)の中で、碑石の形態が陽石に見えることを述べ、寛政前後の道祖神の碑石には、双体像、文字碑を問わず円筒型で丸い石が多いことを指摘している。
 男神の左手が、繭玉を担ぐ女神の着物を捲ろうとしているユニークな造形で、像高は男神が43cm、女神は43.5cmを計る。銘文は右側面に「寛政七乙卯歳 十一月 神澤村」と3行にわたって刻まれている。
 枝の先に付けた繭玉は、現在のどんど焼きの折に見るものと同じである。それは何でも聞いてくれる一番身近な神様に、農家の収益の中で、比重が大きかった養蚕を、繭玉という形で取り入れたものであろうし、それが当時の人たちの真の願いであり、蚕神的な要素が極めて強いと言えそうである。
 松本平には、繭玉を持つ道祖神がまだ数多くあるのに、神沢のものだけを見て 「蚕神的要素が強い」とあえて書いてみた。間違っているかもしれない。でもどんど焼きの繭玉信仰が、寛政年間にすでに行なわれていたことを知ることができた1日であった。

 胡桃沢氏が神沢の道祖神の形態そのものを性神的イメージで捉えられた理由は、そもそもの男神が女神の裾をめくるようなしぐさをしているからのこと。そう言われないと裾をめくろうとしているかはわからないが、二神でまゆ玉を持っているようにも見える。平出氏の言うように、形態そのものを繭玉と捉えられもし、いずれにしても言われれば「陽石」にも見えるし「繭玉」にも見える。

 『日本の石仏』45号は「性神特集」だった。このところ『長野県道祖神碑一覧』に関連して自然石や陰陽石のことについて触れている。確かに道祖神の祀られている場所に陰陽石が置かれている例は多く、どのような意味をもってそれらがここに置かれたかは今は聞く術もない。「性神」特集と言うくらいだから道祖神に関連した論考が多く掲載されている同書の中で、菊田清一氏は「おそらく、男根状の石にルーツを持つ系統は、近世に入って、近世道祖神、つまり双体のものにとってかわられたものと思われる」と指摘し、「陽石型の道祖神塔は、古代から中世型の道祖神塔ということができよう」と言う。あくまでも仮定であって、断言はできないだろうが、加工された陽石と、自然石の道祖神碑、そして自然石に彫り込まれた双体像、いずれも形態として陽石を象っていると言われればそうとも見られる。

 ただし明らかに道祖神とは別に陰陽形の祭祀物は存在する。たとえば長野県内では上田市殿城にある男石神社の奉斎物はよく知られている。本尊はまさに「男石」。奉納された絵馬が特徴的で、「男石神社絵馬」として71点が上田市の有形民俗文化財に指定されている。元禄のころのものから明治のころまでの絵馬があり、ほとんどに男根が描かれていたり、絵馬に男根が添えられていたりする。田口光一氏は、長野県民俗の会76回例会(平成2年1月28日 男石神社)において、「男根崇拝と習俗」と題して発表され、その中で男根崇拝は悪霊払いの意味を持っていると述べられている。

 

 

 

以上男石神社で(平成2年1月28日HP管理者撮影)

 

 ※「遙北石造文化同好会」のこと 後編に触れた通り、「平出一治氏のこと」について回想録として掲載している。

  関連記事

 

埋まっていた「庚申」


コメント    この記事についてブログを書く
« 今年の桜を思う | トップ | 多様な人々、そして自分を生きる »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

民俗学」カテゴリの最新記事