○ダラバーコ協奏曲集:コンチェルト・ケルン
ダラバーコDall’abaco(1675-1742)はトレルリの弟子にして、コレルリと並び賞せられた作曲家だそうです。ただ彼らに比べると地味で、あか抜けないような鈍重さを感じざるを得ません。演奏はそうした前期バロックっぽい感触をうまく出していて、落ち着いた気分にさせてくれます。
○シュミット交響曲第4番、シェーンベルク管弦楽のための変奏曲:メータ、ウィーン・フィル、ロスアンジェルス・フィル
シュミットはシェーンベルクと同じ1874年生まれで、ウィーン高等音楽院院長といった主に教育者として知られた人だそうです。彼は多くのオルガン曲などとともに4つの交響曲を残していますが、最後の第4番は1933年の作曲です。その時期の作品にしては、マーラーとリヒャルト・シュトラウスを混ぜたような音楽は時代遅れのものだと言えるでしょうし、それ自体の価値としても評価できないと思います。
シェーンベルクの作品は1928年の完成で、BACHの音型がトロンボーンで聞かれるなど、バッハへの傾倒が強く出た作品だそうです。その辺は聴いているだけではあんまりわかりませんでしたが、無調の作品ながらシュミットから続けて聴くと才能の差は歴然としたものがあります。
○ドッツナウアー室内楽作品集:ビルスマ、ラルキブデッリ&スミソニアン・チェンバー・プレイヤーズ
ドッツァウアーDotzauer(1783-1860)は、チェロの教則本を多く書いたことで知られているチェリスト兼作曲家で、マイニンゲン、ライプツィヒ、ドレスデンで活躍したそうです。ベートーヴェン(1770-1827)とシューベルト(1797-1828)の間、パガニーニ(1782-1840)などと同じ世代の人です。ただ音楽は厳格なソナタ形式を自家薬籠中のものにし、発展させたベートーヴェンとは違い、なんだかディヴェルトメントみたいな感じです。とは言え、ハイドンやモーツァルトのスティール・ギャラン(ロココ風の優雅なスタイル)ってわけでもなくて野暮ったいんですが、悪い音楽ではありません。大げさに言うと、メインの音楽史と違った別の可能性があったみたいなところがあります。
○ヤナーチェク室内楽、器楽作品集:シフ、モントゼー音楽週間アンサンブル
この2枚のCDはシフがプロデュースしたモントゼー音楽祭に集まったメンバーで演奏されたものです。モントゼーは、ザルツカンマーグートというザルツブルク近郊の風光明媚な、ブラームスやマーラーを始めとして多くの作曲家に愛された山と湖の地方の中にあり、湖の名前がそのまま町の名前になったとても小さなきれいな保養地です。すべての曲にシフが参加していて、彼の独奏もチェコ人としてのナショナリズム的傾向の強いピアノソナタ「1905年10月1日」(ブルノにチェコ人のための大学を設立するよう求めたデモで、ある労働者が死んだ日だそうです)や愛娘の病苦と死が重ねあわされた組曲「草蔭の小道にて」など多く聴くことができます。ヴァイオリンソナタは塩川悠子と組んでいます。
シフはバッハのパルティータの演奏に魅せられて以来ファンなのですが、繊細で陰影に富んだ演奏はこのCDでも聴けて、ヤナーチェクの心の優しさが伝わってきます。ただ作品としては、シンフォニエッタのようなユニークさに徹しきれないところがあって捉えどころがないような感じが残ります。
○農民音楽の中のモーツァルト:マルギット・アナ・シュース&クラウス・シュトール
民俗ハープとコントラバスの編成で、オーストリアからバイエルンにかけての民謡の中にモーツァルトの音楽を取り混ぜたアルバムです。小型のハープがチィンバロンやチィターのような響きを出して、民謡風な味わいをよく出しています。これをホイリゲ(ワインの新酒を飲ませる居酒屋)で聴けばご機嫌ですね。