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【275】そこはもう第三世界だった

 九○六四六号は新しい生活をはじめたのよ。もちろん苦労の連続だったわ。通訳を始めた頃にはシーラカンス【360】が捕獲されたニュースを聞きつけて、鱗【259】を翻訳させろとしつこく詰め寄ったおかげで入院するはめにはなったけれど、退院後は図書館に勤めて、乱雑に積み重なった蔵書を相手に尽力したの。まるで水を得た魚【87】だったわ。いいえ、泳ぎはしなかったけど。閲覧者の一人だった美しい女性と恋に落ち、やがて結婚して子供も産まれた。所員としてカモフラージュするために生殖器を備えていたのね。あなたは驚くでしょうけど、第三世界【268】の遺伝子は文字と大差ないものなのよ。そして、その子供の一人があたしというわけ。

 

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