昭は、母親の喜代に、幼い頃か常に抑えつけられて生きてきた。
母は、夫の不甲斐なさから、一人息子の昭に期待していたのだが、息子はことごとく母に逆らってきた。
大学の受験の際も「昭、理科系に行きなさい」と諭した。
だが、昭は母親の願いに逆らい「国文学科」へ進学する。
当時、看護婦だった母は「せめて、教師になってね」と息子に期待した。
そんな息子は、変な正義感から学生運動へ傾倒していったのだ。
昭に近づいてきた同期生の園田明美は、ガチガチの共産党員であった。
「この、ダメな日本変えるのよ」明美は度々、昭を会合へ誘う。
だが、昭は最終的に共産主義へ傾倒することはなかった。
近代文学を専攻する昭は、明治・大正文学を読み進むなかで、段々と森鷗外の文学に傾倒していく。
昭は、大学のマドンナとも称された亀田祥子に心が大きく惹かれていく。
そして、「謎の女」と想われた祥子に対して、森鷗外の文学の世界と重ねてゆくのだ。
実は、彩音は祥子と面影が似ていた。
祥子は、同期生と23歳の時に結婚していた。
相手は、昭がライバル視した唯一の男であった。
彼とは特に親友であったのに、昭は結婚式には呼ばれなかったが、むしろ、そのことが密かに愛した祥子の心の配慮とも想われた。
実は昭は祥子に対して、3度もラブレターを送っていたのだ。
「あなたからの、お手紙、3度読み返しました。もったいないような、嬉しいような、とても複雑な気持ちになったの。もう少し早く、あなたの心を知っていたなら・・・」祥子の返事に昭の心を揺さぶった。
昭は、彩音の存在を母親に打ち明けた。
「彼女は、北朝鮮2世の人なんだ、でも結婚したい」昭は正直に彩音への思いを吐露する。
「ええ!北朝鮮の女、絶対にダメ!結婚なんてとんでもない、昭いいわね。許せない!」母親は眉間に皺よ寄せて激しいく言い放っのだ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます