06月08日 16時38分 NHK
人口およそ70万の東京・江戸川区が、ひきこもりの可能性がある15歳以上のおよそ25万人を対象に初めて大規模な調査を行った結果、14歳以下の不登校の子どもなどとあわせ、区内に9000人余りのひきこもりの人がいて40代が最も多く、女性が男性よりも多いことなどがわかりました。
専門家は「潜在化したひきこもりが行政につながったという点で、新たなひきこもり支援のあり方としても注目される」としています。
江戸川区の調査は、およそ70万の区民のうち、14歳以下は不登校の情報が把握できているとして除き、15歳以上の区民のうち、給与収入で課税がない人や介護や障害など行政サービスを利用していない人がひきこもりの可能性があるとしておよそ18万世帯の24万6000人あまりを対象に去年初めて行い、8日その結果を発表しました。
調査は用紙を郵送する形で行われ回答がなかった世帯には直接訪問して回答を求め、57%余りから回答を得ました。
その結果、ひきこもりとされたのは7919人で、14歳以下の不登校の子ども1113人などとあわせると区内に、ひきこもりの人が9096人いることがわかりました。
そして、調査でひきこもりとされたおよそ7919人の内訳は、年齢別では40代が1196人で率にして17.1%、次いで50代が1155人で16.6%、30代が968人で13.9%、20代が813人で11.7%などとなっています。
男女別では女性が3684人で51.4%、男性が3461人で48.3%と、女性が男性よりも多いことがわかりました。
また、引きこもり状態の期間は、1年から3年未満が28.7%と最も多く、次いで10年以上が25.7%となっています。
一方、調査では当事者の生活の状況やニーズについても聞いていて、このうち日常生活の不安について複数回答で聞いたところ自分の健康が最も多く66%収入・生活資金が63%などとなっています。
また、ひきこもりの当事者が求めているものについて複数回答で聞いたところ「就労に向けた準備、アルバイトや働き場所の紹介」が最も多く21%、次いで「短時間でも働ける職場」が18%と就労に関する回答があわせて39%となっているほか「身体・精神面について専門機関への相談」が16%「友だちや仲間づくり」が15%となっています。
一方で、「何も必要ない、今のままでよい」とした人が32%となっています。
会見で江戸川区の斉藤猛区長は「行政から最も遠い場所にいる人にこそ支援の手を差し伸べるべきだ。幅広い年代でひきこもりの人がいて、男性と女性は、ほぼ半々で区民全体の課題だ。今まで顔が見えなかった人の顔が見え、支援のきっかけができたことは成果だが、調査に答えてもらえない区民がまだ半数いるので、実際のひきこもりの数はこんな数ではないと思う。こうした人たちへのアプローチを引き続き続けていきたい」と述べました。
ひきこもり問題に詳しいジャーナリストの池上正樹さんは「非常に画期的で潜在化したひきこもりが行政につながったという点で、新たなひきこもり支援のあり方としても注目される」としています。
これまで行われてきた政府の引きこもりに関する調査は一定数の人を対象にしたうえで全体の推計を行うというのが主な方法でした。
このうち、内閣府がひきこもりについて2019年に公表した調査結果は全国の40歳から64歳の男女5000人を対象に行った調査でこの年齢層の全国の「ひきこもり」の人の数をおよそ61万人余りと推計しました。
一方、今回の江戸川区の調査は、およそ70万人の全区民の中からすでに不登校を把握している14歳以下を除いたうえで15歳以上のうち、給与収入で課税がない人や介護や障害など行政サービスを利用していない人がひきこもりの可能性があるとしておよそ18万世帯の24万6000人余りを対象に直接郵送し、回答がなかった場合には直接、訪問して行われた点が特徴となっています。
ひきこもり問題に詳しいジャーナリストの池上正樹さんは「江戸川区のような大規模な自治体で全世代を対象に直接行う調査ははじめてだと思う。非常に画期的で、これまで見えなかった引きこもりの人たちの困りごとやニーズなどが見えてきたという意味でも非常に注目される。潜在化したひきこもりが行政につながったという点で、新たなひきこもり支援のあり方としても注目される」と話しています。
また、「都市部は地方に比べるとより繋がりが薄いという地域性があり、特に団地とかタワーマンションでは実態がほとんどわからなかった。周囲から見えにくいため、都市部で顕在化してこなかった」として都市部のひきこもりの実態に迫る貴重な調査だとしています。
そのうえで「どうやって行政がつながりを継続していくかということが最も重要だ。困りごとに寄り添っていくという専門のスタッフの育成も大切でそういうことができる人がまだ少ないのではないかなと実感している」と述べ、ひきこもり支援の専門家の育成などを国なども含めて、社会全体で考えていくべきだと指摘しました。
ひきこもりの定義について厚生労働省は『仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人と交流せずに6か月以上続けて自宅に引きこもっている状態』としていますが、区は、今回の調査では6か月という期間を除き、『仕事や学校等に行かず、家族以外の人との交流をほとんどしない人』と定義しました。
調査では、今後への課題も浮かび上がりました。
区は、最も大きな課題として今回調査に未回答だったおよそ7万7000世帯の実態把握を挙げています。
区では、すみやかにこうした世帯に対して追加の調査を行いたいとしています。
また、調査では、ひきこもり当事者が何を求めているか聞いたところ、32%の人が「何も必要ない、今のままでよい」と答えていて、こうした人たちへの支援も課題だとしています。
区ではひきこもりの人たちを支援するため15分という短い時間でも働くことができる仕組みの活用を呼びかけたり、オンラインを含めた居場所づくりなどを進めていきたいとしています。
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